法的責任、道義的責任、政治的責任…など「責任」と一口に言ってもいろいろあります。その中で「法的責任」とは、なんでしょうか。「責任・義務」を果たすうえで重要なこととは――。人気テレビ番組のコメンテーターとして活躍する弁護士の住田裕子さんに、近年急増中の「シニア世代の法律トラブル」について解説をしていただきました。

解説者のプロフィール

画像: 公式サイトより www.hs-and-p.biz

公式サイトより

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住田裕子(すみた・ひろこ)

弁護士(第一東京弁護士会)。東京大学法学部卒業。東京地検検事に任官後、各地の地検検事、法務省民事局付(民法等改正)、訟務局付、法務大臣秘書官、司法研修所教官等を経て、弁護士登録。関東弁護士会連合会法教育委員会委員長、獨協大学特任教授、銀行取締役、株式会社監査役等を歴任。現在、内閣府・総務省・防衛省等の審議会会長等。NPO法人長寿安心会代表理事。

本稿は『シニア六法』(KADOKAWA)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。

シニアのための六法全書

私は、令和2年6月に69歳になり、れっきとした高齢者・シニア世代。青春時代の憧れだったスターたちの訃報に接することが増え、悲しみと深い感慨を抱きつつ、身近では友人を相次いで失い、ついには親などの身内も…。そんな状況の真っ只中にいます。

私たちシニアにとって、「老・病・死」はもはや身近なもの。無駄な抵抗はいたしません。しかしそうはいっても、なるべくなら心地のよいときを長く持ちたい、健康はほそぼそとでも維持したい、トラブルは避けたい…。

そのためにも「老・病・死」に近づくとどんなことが起きるか、そのためにどんな備えをしておくべきか? これらのリスクとその対応策をまとめたのが『シニア六法』(KADOKAWA)です。情報があふれている現代であるからこそ、法律を軸にしてパラパラとめくれ、フンフンと頷ける「六法全書」を編みました。介護トラブルやオレオレ詐欺にあった時の正しい対処法、熟年離婚で「まさか!」に陥らないための知識、成年後見制度や相続の大切な基本…シニア世代にとって大事なポイントを、わかりやすく紹介しています。

画像: イラスト/須山奈津希

イラスト/須山奈津希

法的責任とは?
責任の意味とは?

画像1: 【法的責任とは?】民事と刑事の違い 刑罰の重さと罪名について(シニア世代の法律トラブル)

法的責任、道義的責任、政治的責任……など、「責任」と一口に言ってもいろいろあります。その中で「法的責任」とは、なんでしょうか? 「責任・義務」を果たすうえで重要なこととは?

 

この条文
民法 第1条(基本原則)

第2項 権利の行使および義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
第3項 権利の濫用は、これを許さない。

世界各国にある法の原則

法的責任とは、ある法律に基づいてその人に課された義務です。

この責任・義務を果たすうえで世界各国にある原則が、民法第1条の冒頭に掲げられている「信義誠実の原則」「信義則」です。これは、権利の行使、義務の履行に当たる際は、当事者は信義に従い、誠実に行わなければならないとするものです。
一方、義務の対となる権利についても重要な原則があります。たとえ権利があっても、不当な目的や社会的に不相当なやり方で行使してはいけないという「濫用の禁止」です。
「法」の精神となる大原則は、実に道徳的で良識的です。

さまざまな法

法の種類ですが、国内法上、最も上位のものが憲法です。
国際法として結ばれたものが条約です。これが国会の承認を経て批准されると国内法としても有効になります。国内法では、憲法の下に法律があり、さらにその下に政令、府・省令、規則などが続きます。地方自治体には条例があります。

また、法律の文章にはなっていませんが、歴史的な経緯から、その社会の中で法としての意味を持つ「慣習法」があります(例:民法の墓・位牌などの祭祀承継)。さらに、最高裁判所の判例は、法として機能することが多いでしょう。その内容が法律に組み込まれることもよくあります。例えば以前の民法では、非嫡出子の法定相続分は嫡出子の半分とされていましたが、最高裁で「違憲」判決が出され、その後、民法が改正されて相続分は平等になりました。
もう一つ、法律の対象からの分類として、私法(例:民法…民間人同士の関係を定める)と公法(例:刑法、行政法…国と国民との関係を定める)があります。

このように法律は多様な種類があります。そのため、一つの事柄についても法律ごとに別個の法的責任を負うことになります。
交通事故を例として、3つの責任を挙げましょう。

民事責任
治療費・車の修理費などの金銭による損害賠償責任

刑事責任
罰金・禁錮などの刑罰

行政責任
自動車運転免許の停止・取り消しなどの行政罰

民事と刑事の違い
損害賠償と刑罰

画像2: 【法的責任とは?】民事と刑事の違い 刑罰の重さと罪名について(シニア世代の法律トラブル)

民事事件は、民間人(私人)同士の争いで、損害賠償責任・契約を履行する責任などが定められています。刑事事件は、犯罪についての責任を追求するものです。検察官が起訴し、被告人が有罪の場合には、罰金・懲役などの刑罰が科されます。

 

この条文 
民法 第709条(不法行為による損害賠償)

故意、または過失によって他人の権利、または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

この条文 
刑法 第199条(殺人罪)

人を殺した者は、死刑、または無期、もしくは5年以上の懲役に処する。

ここでは事例を挙げながら、民事責任と刑事責任のそれぞれについて説明しましょう。

民法の不法行為(損害賠償責任)

民法では、加害者は「損害賠償責任」を負います。要件は次の4つに分けられます。

①故意または過失
「故意」とは、意図的に、わざと行為に及ぶことです。
「過失」とは、ついうっかりと、誤って行為をしてしまうことです。この過失が認められるためには、「予見可能性」(予想ができた)と「結果回避可能性」(避けることができた)の2要素が必要です。

例えば、「自動車を運転中、いきなり子どもが目の前に飛び出してきて衝突事故を起こした」という場合を見てみましょう。この場合は、予見可能性があったか(この道路付近は子どもがよく遊んでいて飛び出しがあり得るなど)、結果回避可能性があったか(飛び出してきてもすぐに停車できるよう徐行していたなど)などで判断されます。2つの要素のいずれもまったく期待できないような場合は「不可抗力」として責任を免れます。「法は不可能を強いない」という格言にあるとおりです。

②権利または法律上保護される利益の侵害
生命・身体・財産などの権利・利益への侵害はわかりやすいですが、精神的な苦痛は、どの範囲までが、どの程度保護されるか(金額)は、ケースにより異なります。セクシャルハラスメント、パワーハラスメント、プライバシー侵害、LGBTの立場など、以前は認められなかったものも、しだいに保護が厚くなっています。

③これによって生じた(因果関係)
原因と結果を結びつけるのが因果関係です。原因から結果発生に至るまで、単に事実がつながっているという関係があるだけでは足りません。偶発的ではない、「社会的に相当」とみられる関係性のあることが必要です。争われる例として、交通事故の原因においては、「自動車のブレーキなどの不具合から急発進したためで、運転操作の誤りではなく、因果関係がない」と主張されたりします。

④損害
損害には、具体的に発生した「積極損害」(入院費用、治療費など)だけでなく、得られるはずであったのに失ってしまった「消極損害」(休業損害、死亡の場合は将来得られるはずの利益・逸失利益)もあります。また、慰謝料や物的損害も入ります。争われる場合には、派生して拡大した損害、後遺症などが因果関係も含めて問題となります。なお、民事責任は、被害を埋め合わせるためのものですから、加害者の故意・過失は、損害額の算定にあまり影響はありません。

画像: 民法の不法行為(損害賠償責任)

刑事責任…犯罪になるか? どんな罪名になるか?

民事上の不法行為と異なり、刑法の犯罪は、故意があるかどうか、また、過失でも重大な過失かどうかによって、刑罰の重さが違います。刑事責任は結果も重要ですが、処罰するうえで行為の悪質性を問うためです。

【事例】
ナイフで人を刺してしまった。傷つけてしまった。

殺そうと思い切り付けて死なせた場合は、「殺人罪」です。「傷つけよう」という故意なら「傷害罪」ですが、意外と深い傷になり、結果的に死亡させてしまうと「傷害致死罪」です。

ところが、「傷つけるつもりだが、場合によっては死ぬかもしれないし、死んでもかまわない(死の結果を消極的ながら受け入れている)」という場合は、「未必の故意」があるとして、「殺人罪」になります。

故意がまったくなく、ついうっかりとナイフで傷つけてしまった場合は「過失傷害罪」です。その結果、死亡させた場合は「過失致死罪」です。ところが、「人が密集している場所で、ナイフを振り回していてけがをさせてしまった」などのように、過失の程度がひどく悪質で、「重大な過失」とみられる場合は、「重過失傷害罪」になります。死亡した場合は、「重過失致死罪」です(下記参照)。

民事責任は、被害が発生している以上、故意でも過失でも責任を負います。一方刑事責任は、原則として故意による行為を処罰します。過失による犯罪は例外的で、人の生命・身体に危害を及ぼすものに限っています。誤って物を壊しても、過失による器物損壊は刑法上の犯罪ではありません。法律で、罪と定められていない行為は処罰しないこと、これを「罪刑法定主義」といいます。近代国家の大原則です。

画像: 刑事責任…犯罪になるか? どんな罪名になるか?

行為の悪質性と刑罰の重さ

故意 ナイフで刺して殺してやろう
罪名 殺人罪
処罰 死刑/無期懲役/5年以上の懲役

故意 ナイフで傷つけてやろう
罪名 傷害罪
処罰 15年以下の懲役/50万円以下の罰金

故意 ナイフで傷つけてやろう(殺すつもりはない)→結果的に死んでしまった
罪名 傷害罪
処罰 15年以下の懲役/50万円以下の罰金

未必の故意 ナイフで傷つけてやろう(死ぬこともあるだろうし、もし死んでも構わない)
罪名 殺人罪
処罰 死刑/無期懲役/5年以上の懲役

過失 うっかり傷つけてしまった
罪名 過失傷害罪
処罰 30万円以下の罰金/科料

過失 うっかり傷つけてしまって、死なせてしまった
罪名 過失致死罪
処罰 50万円以下の罰金

重大な過失 人の密集した場所(人を傷つける可能性が十分に予想される)でナイフを振り回して人を傷つけてしまった
罪名 重過失傷害罪
処罰 5年以下の懲役/禁錮/100万円以下の罰金

重大な過失 人の密集した場所(人を傷つける可能性が十分に予想される)でナイフを振り回して人を殺してしまった
罪名 重過失致死罪
処罰 5年以下の懲役/禁錮/100万円以下の罰金

どのような場合に殺意が認定される?

これだけ刑罰の重さが違うわけですから、犯人が「殺意を否認する」ことも当然あるでしょう。否認した場合に、殺意(内心の意図)を認定するポイントはどこでしょうか。

例えば、保険金殺人を計画して共犯者と相談していた場合、「殺すつもりだ」と知人に打ち明けたり、メモに残していたりした場合や、「殺してやる」と叫びながら行為に及んだ場合などは、内心の意図が現れているため認定しやすいでしょう。そのような証拠がない場合でも、次のような点で認定されます。

凶器…鋭利な刃物、銃器、重い金属や硬い岩塊 など
犯行の態様…頭・頸・胸部など身体の枢要部への攻撃、多数回にわたる攻撃、強い攻撃、深く刺した など
動機…保険金狙い、対立・憎悪関係にあった、ひどく侮辱された など
殺意を推認される事実があるか…高額の保険に行為直前に加入させていた、『ばれない殺人のやりかた』などの本がある、殺害方法についてインターネット検索履歴がある、凶器や毒物を事前に入手していた など

刑事事件の捜査では、このような手がかりを発見するために、いわゆる家宅捜索(捜索、差し押さえ)をしてパソコン、携帯電話、書籍、メモ類などを押収し、その内容を精査するとともに、関係者からの事情聴取をします。

その他の条文

刑法 第204条(傷害罪)
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役、または50万円以下の罰金に処する。

刑法 第205条(傷害致死罪)
身体を傷害し、よって人を死亡させた者は、3年以上の有期懲役に処する。

刑法 第209条(過失傷害罪)
過失により人を傷害した者は、30万円以下の罰金、または科料に処する。

刑法 第210条(過失致死罪)
過失により人を死亡させた者は、50万円以下の罰金に処する。

刑法 第211条(業務上過失致死傷罪、重過失致死傷罪)
業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役、もしくは禁錮、または100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

▼本記事における「六法」について
「六法」とは、もともと、憲法、刑法、民法、商法、刑事訴訟法、民事訴訟法の6つの法律を指します。「六法」という名前のつく本は、これらの6つに限らず、それぞれの分野に関わる法律をまとめた本です。本記事では、道路交通法、特定商取引法、相続税法など、「六法」以外の法律や条例の中から多くを選んで掲載しています。現実には、「六法」以外の法律等が多く活用されていることから、シニア世代の毎日を守る大切な法律等を幅広く網羅しました。

▼各法律について
本記事に掲載されている法律は、以下の内容に基づきます。
 民法:令和2年4月1日施行の改正民法の内容
 そのほかの法令:令和2年8月1日現在の内容
各条文は、シニア世代に関係の深いものを選定し、読みやすく掲載しています。一部、完全な正確さより、わかりやすさを優先した表現に置き換えています。条文の正確な内容が知りたい場合、電子政府の総合窓口「e-Gov(イーガブ)」の法令検索システムの参照をおすすめします。法律の選定や解説などについては、監修者の責任において編纂しています。

読みやすさを考慮し、基本的な事項を中心にまとめました。具体的な法律問題や詳細にわたる点については、弁護士など専門家にご相談ください。読者のみなさまが直面する問題について次なるステップに進む一助になれば嬉しく存じます。

なお、本稿は『シニア六法』(KADOKAWA)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。

画像3: 【法的責任とは?】民事と刑事の違い 刑罰の重さと罪名について(シニア世代の法律トラブル)
シニア六法
▼本書は、介護トラブルやオレオレ詐欺にあったときの正しい対処法、熟年離婚で「まさか!」に陥らないための知識、成年後見制度や相続の大切な基本……シニア世代にとって大事なポイントをわかりやすく説明しました。▼情報があふれている現代であるからこそ、法律を軸にしてパラパラとめくれ、フンフンと頷けるシニアのための「六法全書」です。(Amazon)

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