コロナ禍によって外食を控え、家で食事をする人が増えました。私もそうです。この1年を振り返ってみても、外食は1~2回。外でお酒を飲むことはありませんでした。その代わり、家でお酒を飲むことが増えました。外食費はずいぶん減ったでしょう。その一方で、皆さんはどうですか。「家飲み用の酒代」が増えてはいませんか。統計を見ても、やはり多くの家庭で「家飲み用の酒代」が増えていることが伺えます。
執筆者のプロフィール
加藤直美(かとう・なおみ)
愛知県生まれ。消費生活コンサルタントとして、小売流通に関する話題を中心に執筆する傍ら、マーケット・リサーチに基づく消費者行動(心理)分析を通じて、商品の開発や販売へのマーケティングサポートを行っている。主な著書に『コンビニ食と脳科学~「おいしい」と感じる秘密』(祥伝社新書2009年刊)、『コンビニと日本人』(祥伝社2012年刊、2019年韓国語版)、『なぜ、それを買ってしまうのか』(祥伝社新書2014年刊)、編集協力に『デジタルマーケティング~成功に導く10の定石』(徳間書店2017年刊)などがある。
外食費の激減↘家飲み用の酒代増加↗
「家計調査2020年(※)」によれば、世帯当たりの家飲み用の酒代は、昨年12ヶ月間、ずっと前年を上回りました(図表(1))。
※「家計調査」は総務省が行っている経済指標のひとつです。家庭(世帯当たり)の収支(収入と支出)を月次で調べ指標化しています。このうち、2人以上の世帯については細かな品目の支出(出費)まで調べており、全国で約8000世帯が協力しています。
特に、緊急事態宣言を出す、出さない、と取りざたされ始めた2020年3月から、1都7都府県に緊急事態宣言が出されていた5月にかけて、家庭の総支出額(出費)がぐんと落ち込んだのにもかかわらず、家飲み用のお酒への出費は増えたのです。
一方、外食費は2020年3月から5月にかけて激減しています。外での飲酒や飲み会ができなくなったために、家で飲む人が増えたからのように見えます。オンラインでの「リモート飲み会」も流行りました。
しかも、食費は前年と余り変わりません。食費には、家飲み用の酒代も、外食費も含まれます。外食費が大きく落ち込んだのに食費は前年と変わらないのは、家庭で飲食するものをたくさん買ったことになります。それは、お酒だけではありません。それが何かは次回に譲り、ここでは家飲みの実態をもう少し見てみましょう。
図表(1)「家庭の消費支出と増減率」
食費に占める「酒代の割合」は一定
「食費に占める家飲み用の酒代」と「外食費」の割合を、2019年と2020年で比べてみました(図表(2))。
コロナ禍以前、外食費が食費に占める割合は、約2割であったことが分かります。2020年の1月、2月は2019年とほぼ同じです。一方の、「家飲み用の酒代」の食費に占める割合は、2019年も2020年も約5%で推移しており、ほぼ一定です。
図表(2)「食費に占める割合」
外食費は、緊急事態宣言が出された2020年4月に、「家飲み用の酒代」と同じくらいにまで落ち込みました。また、9月下旬から「Go Toイート」が導入されると、10月には8ヶ月ぶりに食費に占める割合が15%を超えました。これを見るだけでも、外食店にとって、いかに厳しい状況だったかを察することができます。
もちろん、図表(1)で見たように、「家飲み用の酒代」が前年を大きく上回ったことも事実です。食費に占める外食費が落ち込んでも、「家飲み用の酒代」が一定なのは、世帯当たりの飲酒量が増えたわけではなく、つまり、外での飲酒ができなくなった分を「家飲み」でカバーしたことになりましょう。
コロナ禍で飲酒量の増えた人も多いように言われますが、全体としては、「外飲み」が「家飲み」に置き換わったと解釈できそうです。もっとも、過去20年ぐらいの長いスパンで眺めますと、「家飲み用の酒代」は減少傾向にあったのです。
「家飲み用の酒代」は、20年前には世帯当たり年間5万円ほどでしたが、その後は若干の変動はあるものの減少していました(図表(3))。
よく耳にする「酒離れ」が実際に起きていたとも言えましょう。それが昨年、世帯当たりの「家飲み用の酒代」が、8年ぶりに4万6000円を超えました。2003年以来のことです。
図表(3)「家庭で購入する酒代の年次推移」
お酒は「種類」で栄枯盛衰?
ところで、お酒にもさまざまな種類があります。家庭で飲まれているお酒の購入金額で最も高いのは、20年前から現在まで「ビール」でした。ただし現在、その購入金額は20年前の半分以下(4割台)となっています。
代わりに伸びてきたのが、「発泡酒」や「第3のビール」とか「新ジャンル」と言われる、「ビール風テイストのアルコール飲料」で、図表(3)では「発泡酒・ビール風」と表示しています。昨年の年間購入金額は、どちらも1万円台で、さほどに差は開いていません。
2015年に家計調査の品目分類が変更となり、新たに「チューハイ・カクテル」と「他の酒」が加わりました。前者は、缶チューハイや缶カクテルのことで、ほかの酒類に比べて、急速に購入金額が伸びています。後者には、本みりんのようなアルコール度数の高い調味料などが含まれます。ちなみに、コロナ予防対策として発売された、アルコール度数の高い消毒液は「飲用不可」のため、「家飲み用のお酒」には分類されません。
また、2000年前後からの「焼酎ブーム」に乗って、2007年に焼酎の購入額が清酒を上回りましたが、この数年は焼酎、清酒ともに購入額は横ばいで推移しています。ワインやウイスキーは、徐々に購入額が増えてきているものの、ほかの酒類に比べると購入額が少ないのは、購入頻度が高くないからでしょう。
昨年の、「家飲み用の酒代に占める酒の種類別の割合」を見れば、こうした点がより分かりやすくなるでしょう(図表(4))。
また、季節によって割合の増減する様子も分かります。夏場はビール系、年末年始は清酒、11月にはボジョレ―ヌーボーでワインと、それぞれに割合が高まります。そのなかで、2020年9月に「発泡酒・ビール風」の購入割合が大きくなっています。原因は、2020年10月からの酒税改定による「駆け込み需要」だったようなのです。
図表(4)「家飲み用の酒代に占めるカテゴリー割合」
お酒を買うなら「酒税」を知っておこう
2020年10月1日に酒税が変更されました。「こんなコロナ禍に」と思われたでしょうが、2018年に改定された酒税法によって、税率の変更スケジュールが決められています。
酒税の変更スケジュールと最終的な税額を整理してみました(図表(5))。
2020年10月の変更を第一弾として、今後も段階的に酒税の変更が行われます。基本的には、ビールの税率を下げる一方で、発泡酒やビール風(新ジャンル)を上げ、「ビール系アルコール飲料」として税率を統一します。日本酒とワインも、日本酒の税率を下げ、ワインを上げて税率を統一します。なかには、焼酎やウイスキーなど現状維持のものもあります。
図表(5)「お酒の種類による税率と変更スケジュール」
この変更の目的を「類似する酒類間の税率格差が商品開発や販売数量に影響を与えている状況を改め」て、「酒類間の税負担の公平性を回復」するため、と酒税を管理する国税庁は説明しています。
とはいえ、酒税の変更は段階的に行われるので、その度に消費者は右往左往してしまいそうです。すでに、図表(4)で見たように、「発泡酒・ビール風」の税率アップ直前に、購入比率が高まりました。特にビール系は、「家飲み用の酒代」の4割を超えるために、購入額にも敏感になりやすいのでしょう。実は、私も駆け込み購入したひとりです。いつもは買わないケースで買って、ぜいぜい言いながら運んでいる自分をちょっと客観視して、まるで酒税に踊らされているようだと苦笑いしました。
まとめ
一方で、そうした消費者にアピールするかのように、各メーカーはビールより安価に提供しようと技術を駆使して、さまざまなビール系飲料を開発してきました。その開発力たるや素晴らしいと思いませんか。よく「本当はビールを買いたいけど高いから」と、他のビール系飲料を購入する人もいますが、いまや酒税による分類を超えて、好みのテイストや商品を見出している人も少なくないのではないでしょうか。実際に人の味覚は、飲み慣れたり、食べ慣れたりしたものを「美味しい」と感じます。
しかし、家庭の出費を考えて買い物をするのなら、酒税の動向を知っておいて損はありません。それに気づいて、私も酒税を調べてみたのです。酒税の変更に一喜一憂せずに買い物したいですから。また、お酒を料理に合わせるだけでなく、食前や食後のひととき、TVやビデオを鑑賞しながら、風呂上がり等々、シーンによって飲むお酒の種類を替えれば、長引く「巣ごもり」生活にもメリハリが生まれます。賢く買って、上手に飲み分け、少しでも心にゆとりを取り戻しましょう。