【おすすめWeb漫画】外出禁止の世界を描いた『ぼくとねこ』の魅力 「普通の人の愛」に心を揺さぶられる

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『ぼくとねこ』というWeb漫画をご存知でしょうか?漫画投稿サイト「ジャンプルーキー」で昨年末から今年1月にかけて突如公開されるや否や、SNSなどを中心に話題を集めました。外出自粛や生活様式の変化が「当たり前の日常」になりつつある今と重なる、不思議な作品です。その魅力に迫ります。

謎のWeb漫画『ぼくとねこ』とは

2021年は2度目の緊急事態宣言発令など、大きな混乱と共に始まりました。そんな中、ある一作のWeb漫画が、集英社「ジャンプルーキー」に投稿されはじめ、SNSを中心に大きな反響を集めました。

閲覧数はサイト内でも異例の200万PVを超え、ジャンプ編集部からもストーリーテリング・オリジナリティを評価された話題作です。

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タイトルは『ぼくとねこ』。作品のあらすじを紹介するキャプションには、たった一言「外出禁止の世界と ぼくと ねこ」とだけ記されています。

作者のyouさんについてのパーソナリティは明かされておらず、一見謎めいた印象ではあるものの、いざ読みはじめるとページをめくる手が止まらなくなるような作品です。

『ぼくとねこ』のあらすじ

ピンク色の霧で覆われ、外出が禁止された世界。吸い込むと健康に影響を及ぼすということで、外には出ることができない。そんな状況が続くなか、食料の供給や通信は途絶えていく。

『ぼくとねこ』1話冒頭。最初の2ページで世界観を伝える構成力にも注目。

明日どうなるか分からないけど、不安を和らげてくれる「ねこ」がそばにいたら…。そうした孤独を抱えながら、少しずつ前を向いて、終わりゆく世界をさまよう物語。

“何も分からない、何もできない”人のためのポスト・アポカリプスSF

登場するキャラクターは、主人公の「ぼく」、そして「ねこ」だけ。何かが起こっていることは分かるけど、何が起きているのかは分からない。そんな非日常を、あえて無機質に「ありふれた」ものとして描いた、非常に独特なムードが作中に漂っています。

この作品は、文明の終わりや厄災が発生した後のことを描いた、いわゆる「ポスト・アポカリプス」的なジャンルとして読むことができます。

※ポスト・アポカリプス…SF作品のサブジャンル。「終末もの」とも言われ、何らかの厄災によって世界の破滅が起こってしまった「その後」の光景や人の在り方を描く作品群。

『ぼくとねこ』13話のワンシーン。淡々と現実を認識し、それでも生活の術を考える。

もしも、私たちが想像し得ない出来事に直面してしまったら、一体どのように対応するでしょうか?

おそらく、災厄に対して明確なアクションを起こせる人は少数派で、多くの人が「どうしていいか分からない」と、ただ混乱してしまい、なすすべもなく事態に巻き込まれていくだけかもしれません。

この作品では、そんな「普通の人=ぼく」の主観だけで世界の終わりを描写しつつ、唯一の他者である「ねこ」を守り、生き抜いていくことだけにスポットが当てられます。

ヒロイックなストーリーや、興奮させるスペクタクルは一切描かれません。にもかかわらず、読み進むると、なぜか涙が止まらなくなるような作品です。

世界の終わりに、人が「ねこ」を慈しむだけなのに、何一つ真実について触れられることはないのに、心を揺さぶられる。それは、この漫画がただただリアルで自然、普遍的な愛を淡々と描いているからかもしれません。

ドラマを廃し、ただ”パンデミック時代の愛”を描いた作品

以下は『ぼくとねこ』のワンシーン。一見すると、ただ淡々とした独白に感じられるかもしれませんが、個人的には本作を象徴するページのひとつです。

本作を象徴するページのひとつ。

印象的な終わり方が後を引きます。

世界は崩壊し、ライフラインも絶たれてしまい、それでも「ねこ」の幸せを願う無垢な感情。そこには当然、他者の存在を求める欲望も介在するものの、「どんな状況でも自分以外のことを愛する優しさ」に溢れたシーンです。

ドラマや事件は無く、ただ明日も暮らすことだけを考えるだけ。このようなシーンの連続で、静かに物語は進んでいきます。

生きることを諦めてしまうような状況でも、「ねこ」がいるから毎日を楽しんで生きていける。「ねこ」と過ごす時間のために、全てをかけてサバイブしていく。もしかしたら、日常では忘れてしまいそうな感情かもしれません。

そうした他者への些細な思いやりと、自分以外の存在を認める気持ちこそ、パンデミックの時代に必要な愛なのではないか?と真剣に考えさせられる物語です。

一種の”セカイ系作品”としても読める?

『ぼくとねこ』という作品については、一種のセカイ系作品として読むこともできるのではないでしょうか。“セカイ系”とは、90年代からゼロ年代にかけて日本のサブカルチャー文化のなかで誕生した作品を総称したジャンルです。

世界の危機などの大事件を描きつつも、あくまでも「主人公とヒロインの日常的な関係性」にフォーカスすることで、両者の紡ぐ物語や社会との接続を模索する姿を浮き彫りにし、「生きることとは?」と存在論的なメッセージを伝えるような作品を指します。「ぼく」と「ねこ」の関係だけに焦点を絞って世界の崩壊を描く有様は、まさに“セカイ系”作品の構図と重なります。

ただし、「新世紀エヴァンゲリオン」や「最終兵器彼女」といったセカイ系を代表するコンテンツと一線を画すのが、「人と人の関係性による愛」ではなく「人とペットの共生による愛」を主軸として、生きることの意味を問いかけるスタンスです。

私たちは今、それまでとは一変した日常のなかを、孤独を感じながらもなんとか生き延びています。家族やパートナーを大切にする人、趣味のひとときを大切にする人、そしてペットと寄り添うことを大切にする人。皆それぞれの「なにか」に向き合って過ごしているでしょう。それは必ずしも、他人にだけ向けられる感情ではありません。

「自分の外の存在」「大切に思う対象」は、何であろうと良い。辛いことに挫折してしまっても、何かひとつは喜ばしいことがある。『ぼくとねこ』には、閉塞した今の時代への絶望を救うようなメッセージが込められているのではないでしょうか。少なくとも、そう信じたいと思わせるような魅力が、この作品には確かに存在します。

まとめ

今回は大きな反響を呼んだWeb漫画『ぼくとねこ』について、(少々熱が入ってしまいつつ)そのあらすじや内容、魅力をお伝えしました。ラフスケッチのような画風やドライなテンション、朴訥としたタイトルからは想像もできない感動を与えてくれる本作を、ぜひ一読いただければ幸いです。

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松島広人(フリーライター)

Webディレクターとしてコンテンツの企画・編集・校正・執筆・SEOを担当する傍ら、フリーランスのWebライターとしても精力的に活動。業種・業界を問わず多数のジャンルを手がける。ポップカルチャー・サブカルチャーにも精通しており、幅広い知識を活かしたライティングを得意とする。

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