私はこれまでに、何度も瞑想や座禅にチャレンジしましたが、毎回退屈で眠くて足が痛くて、全く長続きしませんでした。ところが先日、タイ仏教のお寺で開催している瞑想会に参加したところ、ものすごく楽しい!なんと今では、時間の許す限りタイのお寺に通い、瞑想をしています。その魅力をレポートします。
東京にあるタイ仏教のお寺
初心者向けの瞑想会がある
ある日、たまたま見た「街歩きマップ」で、都内にタイのお寺があることを知りました。ホームページを見たところ、いろいろな講座が開催されていたので、まずは初心者向けの瞑想会に参加することにしました。参加費はなく、「ご支援・ご協力を頂けるのであれば、お気持ち程度でお布施頂ければ幸いに存じます」と書いてあります。お布施受付の箱に入れるか、袋に入れたお布施を僧侶に直接渡す形のようです。
▼タイ仏教瞑想センター(公式サイト)
すべてがそろった6階建てのビル
東京から茨城に向かって走る常磐線・三河島駅から徒歩5分のところに、タイ仏教のお寺「タイ国タンマガーイ寺院」があります。尾竹橋通り沿いにある6階建ての建物なので、一見、お寺には見えません。入口には、かわいらしいイラストつきの看板があります。
入口を入るとエレベーターがあるので、これで4階へ。4階の「タイ仏教瞑想センター」は、日本人のためのフロアです。
エレベーターの階数表示を見ると、1階は寺務所、2階は食堂になっています。くいしんぼうなので、食堂に興味津津です。3階はタイの方々や僧侶の瞑想フロア、5階と6階はお坊さんたちの宿坊のようです。つまり、このビルにはお寺のすべてがそろっているのです。
日本人のための瞑想スペース
エレベーターが4階に着き、扉が開いた途端、明るい笑い声が聞こえました。声のする方を見ると、オレンジ色の袈裟を来たお坊さんが、参加者らしき人達と談笑しています。「あのー、山崎と申します」とオドオド名乗ると、「ああ、山崎さん、よくいらっしゃいました」と美しい日本語で歓待されました。
「時間になったら、あちらで瞑想をします。それまでは自由にしてください」と言われたので、瞑想する部屋をのぞいてみました。畳敷きの大広間に、座布団と教本が転々と置いてあります。正面は、ステージのように一段高くなっていて、このお寺を建てた僧侶の写真が掲げられています。瞑想会のときには、指導僧侶がここに座ります。
初心者向けの瞑想会
瞑想のやり方は簡単
基本的な座り方や手の組み方を一通り教わりますが、とにかく「リラックスした姿勢で集中できればいいですよ」とのこと。目を閉じたほうが集中しやすいと思いますが、開いていてもいいそうです。音が気になったり、言葉などの雑念が頭を巡ったりしてしまうときは、「サンマーアラハン」というマントラ(仏への讃歌や祈りを表現した言葉)を唱えるとよいと勧められました。「サンマ―アラハンて、どういう意味ですか?」と尋ねたら、「意味はあるけれど、それを知るといろいろ考えて集中できないから、知らないほうがいいですよ」と言われました。なるほど。
大事なのは、気持ちがあちこちに行かないこと。例えば、体の中心に水晶があると想定して、その水晶をひたすら見つめるとか、尊敬している人の顔を思い浮かべるとか、過去に訪れた快適な場所に思いを馳せるとか、集中できるものを持つことが大事。時間にも決まりはありません。短くても長くても、「リラックスしながら集中」できればいいのです。リラックスするために、ストレッチしながら瞑想する人もいるそうです。
日本人ボランティアによる「瞑想セラピー入門」
瞑想セラピー入門は、2021年から始まった新しい講座です。日本人のボランティアが、瞑想の姿勢や呼吸、コツなどを教えてくれて、短時間の瞑想を何回か繰り返します。1時間弱のコースです。「瞑想に興味がある」「やってみたい」という人にお勧めです。ただし、教えてくれるのは僧侶ではないので、タイ仏教や仏教と瞑想の関係など、もっと深く知りたいという人は、次項の「瞑想セラピー」がよいと思います。
タイ僧侶による「瞑想セラピー」
私がタイ瞑想にハマったきっかけとなったのが、タイの僧侶が指導してくれる、この「瞑想セラピー」です。指導僧侶は、ティッサロー比丘。タイの国立大学に在学中に出家し、2001年に来日。駒澤大仏教学部仏教学科を卒業されています。
瞑想セラピーでは、パーリ語(現存する最古の仏教の宗派である「上座部仏教」で主に使われる言語)でお経を唱えますが、カタカナ表記の教本があるので安心です。礼拝のタイミングなども、僧侶に合わせれば大丈夫。照明が落ち、瞑想を誘導する心地よい声のテープが流れます。それを聞きながら、姿勢と呼吸を整えているうちに、気持ちが落ち着いてきます。30分くらい瞑想しますが、足が痛いとか退屈とか感じることはなく、あっという間に時間が過ぎます。
実を言うと、最初は「セラピー」というネーミングに違和感があったのですが、体験してみると、「確かにセラピーだ」と実感。なぜか、心と体が癒された感じがするのです。
瞑想セラピー後のお話が楽しい
瞑想セラピーが終わると、隣の部屋に移動してテーブルを囲み、ティッサロー比丘のお話を聞きます。
ティッサロー比丘のお話は、そのときのメンバーによって(同じ話にならないように)変えているようです。私が最初に参加した日は「タイ仏教について」、2回目のときは「瞑想とは何か」というテーマでした。いずれもまじめなお話なのですが、全然堅苦しくありません。
例えば、タイ仏教の話のときは、まず「タイ料理は好きですか?」と聞かれました。「好きです。グリーンカレーは家でもよく作ります」と答えると、「そうですか。私は今、ちょっと胃の調子がよくなくて、タイのカレーは厳しいです。日本のカレーはマイルドで大好きです」などと言って大笑い。そんな和やかな雰囲気の中、パソコンでタイの写真や動画を見せてもらったり、質問を挟んだりしながらお話を聞きます。
私が、「集中しつつリラックスする感覚が、よくわかりません」と、素人丸出しの発言をしても、「そうそう。わからないですよねー。瞑想が日常化しているタイでも、子どもに瞑想を教えるときは、パズルの『まちがいさがし』を使うんですよ。2つの絵を並べて違うところを探す、アレです。違いを見つけるためには集中しないといけないけれど、心を落ち着かせて視野を広げることも大事。その感覚が、瞑想に通じるんです」と丁寧に答えてくれました。
タイの高僧のお話なのですが、法事のときに聞く説法とは全く違います。宗教色は薄く、どちらかというと、タイの文化や歴史、現代社会のコミュニケーションの特性、メンタルケアの方法などをレクチャーされている感じです。
なぜ瞑想するのか
タイ人は「徳を積むため」、日本人は「ストレス解消」
人口の95%が仏教徒であるタイでは、お寺への参拝や瞑想は「日常的なもの」。瞑想は功徳(善い行い)であり、励行することで心が明るくなり、物事がよく見えるようになるとされます。瞑想は心のろうそくに火をともし、その光が周りも明るくする。自分が功徳を積めば、周囲も幸せになる、という考え方です。
日本人の場合は、「ストレスを軽減したい」「イライラを鎮めたい」といって瞑想をする人が多いようです。ティッサロー比丘によると、たしかに瞑想には、そういった効果があるといいます。
「水の入ったコップはそれほど重くないけれど、ずっと持っていると疲れます。水は大事だけれど、常に持っている必要はないですよね。飲まないときは、置いておけばいい。疲れている人、イライラしている人は、ずっとコップを持っているのかもしれない。コップをいったん置きましょう。必要なときに持てばいい。瞑想をすると、心の中の整理がついて、『いつ、どこにコップを置き、いつ持てばいいか』がわかってくるんです。そうすれば、無駄な疲れやストレスを背負わずに済みます」
心の中の整理がつく、というのは言い得て妙だと思いました。確かに、瞑想をした後は、それまで頭の中にあった「周囲への不平不満」「嫌な思い出」「将来への漠然とした不安」などが、(消えはしないのですが)「そんなことに心を乱される必要はない」という思いに変わっていました。
「腹が立たなくなった」「周囲に笑顔が増えた」
参加者の男性の一人は、「瞑想は、普段ちょっとしたときに1分とか10秒とかやっています。短時間でも、やると気持ちが落ち着きます。瞑想するようになって1年ほどですが、怒ることがなくなりましたね。腹が立たなくなった。すごく楽です」と話してくれました。
別の参加者の女性は、「瞑想は、仕事の空き時間などに、短時間やっています。立ったままとか、歩きながらとか、忙しくて慌てているときに、あえて数秒やることもあります。不思議なんですけど、瞑想をするようになってから、周りに笑顔や笑い声が増えてきたんです。不機嫌な人がいなくなって、楽しいことがよく起こるというか。なぜでしょうね」と言っていました。
ティッサロー比丘によると、「瞑想は心を明るくします。ろうそくに火を灯すのと同じ。ろうそくの火は、自分の視界を明るくして、問題の原因と結果を見やすくすると同時に、周囲にも光を与えるんですよ」とのこと。
確かに、機嫌のいい人と接していると、明るい気分になります。話題も自然と楽しいものになって、人の悪口や愚痴などは出てこなくなるでしょう。瞑想によって、怒りや憎しみといった負の感情を手放すと、そういった好循環が生まれるのかもしれません。
瞑想以外のイベントや楽しみ
2階の食堂で昼食をいただける
タイ国タンマガーイ寺院の2階は食堂になっていて、僧侶のお食事のあと、11時過ぎくらいから、一般の人もランチをいただくことができます。ビュッフェ形式のタイ料理です。ご飯と汁物、肉や野菜のおかずが並んでいます。これが、本当においしい!たくさんいただいてしまいました。食べ終わったら、奥の厨房でお皿を洗って拭くところまでがワンセットです。ランチ代というものは存在せず、お布施という形でお金を箱に入れたり、食材や飲み物を差し入れたりします。
タイ語講座や浅草七福神巡礼も
毎週日曜日に、タイ人講師によるタイ語講座が(対面とオンライン両方で)開催されています。また、5月にはタイ僧侶と一緒に浅草七福神を巡礼するイベントも企画されています。どちらも参加費は無料。「ご支援・ご協力を頂けるのであれば、お気持ち程度でお布施頂ければ」とのことです。なんだか申し訳ない気持ちになるほどです。
まとめ
これまで、タイの仏教については、「僧侶がオレンジ色の袈裟を着ている」という知識しかありませんでした。都内の便利な場所で、タイや仏教、瞑想、心のバランスの取り方などを学ぶことができ、実践もできる場があることは、とてもありがたいことです。個人的には、ティッサロー比丘の美しい日本語(的確な言葉の選び方やユーモアのある語り口)に、毎回心を洗われています。「瞑想してみたい」「これまで瞑想がうまくできなかった」というかたは、ぜひ一度、タンマガーイ寺院のタイ瞑想センターを訪れてみてはいかがでしょうか。