コロナ禍で自宅にいる時間が増えたことにより、“巣ごもり生活”を少しでも快適にしようと、「家事」に関する消費を増やした人が多くなったようです。「家事」の範囲は大変に広く、自分でこなす以外に、業者に依頼するケースも増えています。そのなかでも今回は、「家事代行サービス」に注目してみましょう。今後のニーズ増が見込まれるうえに、「サービスを利用する側」だけでなく、「サービスを仕事として提供する側」にもなりやすいからです。
緊急事態宣言で増えた「家事」関連消費
図表(1)-1は、総務省「家計調査」から、「家事雑貨」、「家事消耗品」、「家事サービス」の消費推移(前年と比較した実質増減率)を抜き出し、グラフ化したものです。
3つのカテゴリー(項目)は、それぞれに変動しているだけのように見えますが、そろって前年比プラスになったところに注目してください。昨年6月、8月、12月です。
この3ヵ月ともに、消費支出全体としては前年よりマイナスであったにも関わらず、家事雑貨、家事消耗品、家事サービスへの支出は前年を上回りました。
特に、昨年6月は1回目の緊急事態宣言が解除された後ですが、在宅勤務やオンライン授業などで外出を控える状況が続き、家の中を快適にしようという気持ちが高まったのでしょう。家事雑貨と家事サービスへの支出が、前年より約3割も伸びました。また、家事消耗品は、昨年9月を除く11ヵ月で前年を上回りました。
昨年9月は、家事消耗品だけでなく、家事雑貨や家事サービスも大きく落ち込んだのが図表(1)-1にも、くっきりと表れています。一昨年10月に消費税率が10%へ引き上げられたので、その駆け込み需要に対する反動によるものでしょう。
さらに、図表(1)-2のように、家事消耗品への支出は、2015年を除いて、10年前から前年比プラスで推移してきました。そして、昨年は前年比10%を超えて増加しました。
2015年の落ち込みは、前年4月に消費税率が8%に引き上げられ、その反動が長引いたことによります。消費支出全体も、2017年まで落ち込んだままでした。この間に予定されていた消費税率の引き上げは、消費が十分に回復していないとして、2回にわたって延期されました。
やっと消費の回復をみて、2019年10月に消費税率が引き上げられましたが、昨年のコロナ禍により消費支出全体は一気に落ち込んでしまいました。しかし、家事雑貨、家事消耗品、家事サービスは、2019年、2020年ともにそろって前年比プラスでした。
ところで、家事雑貨、家事消耗品、家事サービスとは、具体的に何のことでしょう?
急拡大中の「家事消耗品」とは?
図表(1)-3は、家計調査による分類です。家事雑貨は「半耐久財(消耗品を除く)」、家事消耗品は「非耐久財」、家事サービスは財(モノ)ではないサービス(コト)をそれぞれ意味します。
実は、家計調査による「家事」の分類には「耐久財」である家電や家具、室内インテリアなども含まれますが、耐久財は購入の頻度が高くないことから、ここでは外しました。
半耐久財は、耐久財ほど高額ではなく、かつ非耐久財より耐久性があるモノ。非耐久財は、だいたい1年未満で消費すると想定されているモノです。ちょっと分かりづらいと思いますので、図表(1)-3の「具体例」を参照してください。
消耗品といえば、コロナ対策用に購入したマスクやアルコール消毒液、ハンドソープなどを思い浮かべるかもしれません。しかし、マスクや消毒液は「保健医療」、手洗い石けんは「理美容」に関連する項目に分類され、この「家事消耗品」には含まれません。
「えっ、じゃ何が増えたの?」って思いますよね。もう一度、図表(1)-3を見てください。
コロナウイルスを家の中へ持ち込まないために、これまで以上に室内の清掃、消臭、除菌などに気を使ったり、タオルや手拭きなどもこまめに洗ったりしたことなど、思い出されましたか。抗菌・ウイルス効果の高い洗剤や消臭剤などを使うようになった家庭も、多いのではないでしょうか。
こうした家事消耗品の使い勝手や性能の向上は、日進月歩です。たとえば、洗濯用の洗剤は洗浄力を落とさず使用量を減らせるコンパクトサイズのもの、柔軟仕上剤のように香りが長持ちするもの、すすぎ回数が少なくて済むものなどが開発されてきました。一度使って、その便利さに気づかされると、次も使うようになるものですよね。そして、それが日常になるにつれ、わざわざ意識することなく使い続けてしまうもの。それが家事消耗品の特徴です。
世代差が大きい「家事サービス」利用
家事サービスは、図表(1)-3のように「家事代行料」、「掃除代」、「家具・家事用品関連サービス」の3つに分類されます。それぞれの家事サービスへの支出額を世帯主の年代別に見たのが、図表(1)-4です。
世帯主の年代が高まるほど、家事サービスへの支出額も増えます。さらに、世帯主の年代ごとに、よく利用する家事サービスに違いが見られます。たとえば、家事代行料は世帯主が20代以下の世帯で、掃除代は世帯主が60代の世帯で、家具・家事用品関連サービスは世帯主が70代以上の世帯で、支出額が最も多くなります。
なかでも注目したいのは、世帯主が20代以下の世帯では、家事サービスへの支出額の半分以上が家事代行料となっている点です。共働きが多く、子があってもまだ小さいでしょうから、家の掃除や片づけ、ベビーシッターなどの需要が高いのでしょう。次いで、家事代行料への支出額が高いのが、世帯主が70代以上の世帯です。介護や生活支援サポートの需要が高まるからでしょう。一方、家事代行料の支出額が最も少ないのは世帯主が30代の世帯です。
以前に家事代行サービスを利用したことがありながら止めた理由として、「子の成長」、「親との同居」、「離職や転職」などが挙げられますが、厚生労働省が2018年に行った調査によれば、利用を止めた最大の理由は「家計への負担が大きかった」からです。
また、家事代行サービスを利用しない世帯のほうが圧倒的に多いのですが、その理由は「所得に対してサービス料金が高すぎる」、「他人が家の中に入ってくる不安」の2つに集約できそうです。
先の厚生労働省の調査では、実際に利用した人の8割以上は「満足(とても満足+まぁ満足)」と答えています。また、サービスを利用していない人を含めて、サービスを利用することで「家事負担が軽減される」と思う人も6割に上りました。つまり、サービス料金が手ごろで、業者または家に来てくれる人が信用できれば、家事代行サービスを利用したい人も増えるのではないでしょうか。
家事代行サービスの料金や内容は?
もっとも、家事代行サービスを利用したいと思っても、どんな業者がどんなサービスをどのくらいの料金で提供しているのか、忙しいなかで調べるのは大変です。なにしろ、提供業者は全国に600社を超えると言われます。しかも、業者によって、サービスの内容も提供のしかたもまちまちです。そこをなんとか比較できないかと、図表(2)のような表をつくってみました。
掲出できたのは、ほんの一部の業者にすぎませんが、サービスの品質を評価する「家事代行サービス認証」(全国家事代行サービス協会と日本規格協会が行う第3者認証)を受けている業者を中心としました。図表(2)の備考欄に、認証マークを入れています。品質と同時に「信用」という点でも安心できそうです。もちろん、認証がなくても、独自の研修制度を設けてスタッフのレベル向上を図っている業者は多いようです。
次いで、料金について比較するために、図表(2)では、各社の基本プランから1時間1名当りの単価を概算してみました。1,000円から7,150円と幅があります。提供するサービスの内容や方法、交通費などを含んでいるかどうかによっても変わるので、なんとも言い難いのですが、マッチングPF(プラットフォーム)は比較的、安価に見えます。
マッチングPFとは、サービスを利用したい人とサービスを提供したい人をつなぐサイトです。マッチングPFを運営する業者は、通常の業者のようにスタッフを雇用していない分、時間当り単価を安くできるのでしょう。ただし、料金が安いというメリットはあるものの、思い通りの人とマッチングできるかどうかは分かりません。
一方、通常の業者の多くは、事前に利用者宅を訪れて綿密に依頼内容を確認してからスタッフを派遣してくれるので、マッチングの悩みはありません。
さらに、サービス内容や料金の他にも、オプション(時間延長や依頼プラン以外への対応など)にどれだけ応えてもらえるのか、確認しておいたほうがいいことは少なくありません
「家事代行」を仕事にする!有用な資格一覧
家事代行サービスを選ぶのは、けっこう骨の折れることだと感じられたと思います。しかし、モノを買うのと比べてどうでしょう?高額なモノや長く使いたいモノを購入しようという場合には、よく吟味しませんか。サービスはモノのように目で見て確認することは困難ですが、相性のいい業者や人に出会えたなら、一生モノとの出会いと同じく至福と感じることでしょう。
その逆もしかり。仕事をしている人にとって、相性のいい企業に勤められたり、相性のいい取引先や顧客に巡り合えたりするのは至福なことです。家事代行サービスを提供する人にとっても、同じだと思います。
現在、家事代行サービスの提供者には、子育てが一段落した主婦が多いそうです。主婦にとって、これまで行ってきた家事のほとんどは自己流なので、仕事にするとなると不安も大きく、求人応募に躊躇するケースが多いようです。しかし、先述したように、業者の多くは研修制度を設けています。プロとして通用するかどうか確認することもできますし、家事スキルを高めることもできるでしょう。
その他にも、さまざまな資格制度があります。一部ですが、図表(3)に家事代行サービスを提供する人にとって有用とされる資格を挙げてみました。やはり、資格を持っているほうが報酬も高くなりやすいようです。
図表(3)に挙げた資格のなかには、資格を習得する過程で、家事の技を磨くだけでなく、利用者との円滑なコミュニケーション術を身につけたり、ビジネスとして起業するための知識を得たりできるものもあります。接客など人と関わる仕事に就いていた人たちには、コロナ禍で仕事が減ったり、なくしたりした人も多いでしょう。新たな仕事として、家事代行サービスにチャレンジしてみるのもひとつの選択肢です。
一方で、家事に費やす時間がなかなか取れないという人たち、家事に時間を取られ過ぎて自分の時間を持てないという人たちは、我慢せずに家事代行サービスを選んでみてはいかがでしょう。
高齢世帯や共働き世帯、単身世帯が増えるなか、家事代行サービスは今後のニーズ増が見込まれます。加えて、サービスを利用する側だけでなく、サービスを仕事として提供する側にもなることも考えられます。両面から見つめることで、どちらにとっても、より良いサービスにしていけたらと思います。
執筆者のプロフィール
加藤直美(かとう・なおみ)
愛知県生まれ。消費生活コンサルタントとして、小売流通に関する話題を中心に執筆する傍ら、マーケット・リサーチに基づく消費者行動(心理)分析を通じて、商品の開発や販売へのマーケティングサポートを行っている。主な著書に『コンビニ食と脳科学~「おいしい」と感じる秘密』(祥伝社新書2009年刊)、『コンビニと日本人』(祥伝社2012年刊、2019年韓国語版)、『なぜ、それを買ってしまうのか』(祥伝社新書2014年刊)、編集協力に『デジタルマーケティング~成功に導く10の定石』(徳間書店2017年刊)などがある。