古今東西、その薬効から食卓に欠かせなかった玉ねぎ。現代においても、文明病ともいえる慢性疾患を改善する食材です。毎日食べて、玉ねぎパワーを体に取り入れましょう。【解説】石原結實(医学博士)・牧野直子(管理栄養士)
著者のプロフィール
石原結實(いしはら・ゆうみ)
医学博士。1948年長崎市生まれ。長崎大学医学部大学院博士課程修了。血液内科を専攻。長寿地域として有名なコーカサス地方やスイスのBベンナー病院などで最新の自然療法を学び、現在イシハラクリニック院長。
牧野直子(まきの・なおこ)
管理栄養士、料理研究家。スタジオ食主宰。料理研究家として料理提案、料理制作を行うほか、管理栄養士としての観点から、生活習慣病予防、美容などによい食情報の提供をメディアや講演で行っている。日本肥満学会会員。日本食育学会会員・評議員。
本稿は『知って驚くファイトケミカル 健康野菜大全』(KADOKAWA)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/村田善子
玉ねぎの血液サラサラ、代謝アップ効果で生活習慣病の予防に
玉ねぎの起源は古く、中央アジアあたりといわれています。古代エジプトでは、にんにくなどとともに、貴重な栄養源として、ピラミッド建設の労働者たちにも配給されていたという記録があります。日本へは、江戸時 代に南蛮船によって長崎に伝えられましたが、当初は観賞用にとどまり、実際に栽培が始まるのは明治以降になってから。西洋料理の普及とともに、私たちの食卓に欠かせないものとなりました。
硫化アリルの働きで血液サラサラ
玉ねぎは、にら、にんにく、長ねぎ、らっきょうなどとともに、ユリ科アリウム属に分類される野菜です。これらの野菜独特の辛みとツンとくるにおいの成分が、イオウ化合物のひとつである「硫化アリル」。血行、血流をよくし、血液をサラサラにします。 血がきれいになり、血行と血流がよくなれば代謝が上がって、免疫力もアップし、体温が上がります。血栓を予防、改善する作用もあるので、動脈硬化、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞の予防になります。
コレステロールの低下や、脂肪燃焼、滋養強壮、利尿、発汗、解毒、殺菌、防腐作用などにも、この「硫化アリル」が中心的な働きを担っています。
切ってさらに増す硫化アリルの効果
「硫化アリル」は、刻んで細胞を壊したり、加熱したりすることで成分が変化するため、さまざまな健康増進効果を生み出します。
その代表例が「アリシン」です。玉ねぎを切ったあと、15分以上空気にさらしておくと、「硫化アリル」がいっしょに含まれている「アリナーゼ」という酵素に分解されて「アリシン」となり、ビタミンB1の吸収を高めてその働きを助けます。ビタミンB1は、糖質の代謝に不可欠な栄養素で、不足すると疲労、食欲不振、不眠、イライラを招きますが、水溶性で、体の中に長くとどまることができません。ところが「アリシン」と結合して「アリチアミン」となると、体内でゆっくりと作用するようになるのです。
また、玉ねぎは血糖値を下げる「グルコキニン」を含み、糖尿病にも効果があります。さらに、フラボノイドの一種で、玉ねぎの皮や実に含まれる「ケルセチン」は、脂肪の吸収を抑制するだけでなく、排出を促進する作用も。また、強い抗酸化作用があることでも知られ、血管をしなやかにし、血圧を下げるだけでなく、最近では脳細胞内伝達物質を強化することで、認知症の予防にも効果が期待されています。
このように、玉ねぎは、さまざまな薬効をもついいことずくめの食べものです。これらの有効成分を活用するためには、毎日の食事に玉ねぎを積極的に取り入れていくことがいちばんです。
メタボリック症候群にこそ、玉ねぎを
「メタボリック症候群」とは、「内臓脂肪型肥満」に「高血圧」、「高血糖」、「脂質異常症」のうちのふたつ以上を合併した状態をいい、心筋梗塞や脳梗塞、狭心症など命に関わる病気のリスクが飛躍的に高まるといわれています。
そもそも、メタボリック症候群は体温の低下による代謝異常です。玉ねぎに含まれる硫化アリルなどは、血行、血流をよくするので、代謝が上がって体温も上がり、免疫力もアップします。日ごろから玉ねぎを積極的に食べることは、まさにメタボリック症候群対策に効果的といえます。
玉ねぎ効果10
1日1個で医者を遠ざけるともいわれる玉ねぎ。健康な体作りに欠かせない玉ねぎの有効成分を紹介します。
効果01
脂肪を燃やす
玉ねぎを加熱すると、中性脂肪を低下させる働きが出ます。さらに、皮だけでなく実にも含まれるフラボノイドの一種、ケルセチンは脂肪の吸収を抑制するだけでなく、排出を促進する作用も期待されています。
効果02
血圧を下げる
血圧に作用する成分のひとつ、硫化アリルは、血管を広げて血流をよくし、血圧を下げます。また、含有するビタミンCと、同じく含有成分のケルセチンとともに働いて血管をしなやかに丈夫にします。毛細血管も丈夫にします。
効果03
血栓を防止する
チオスルフィネートは血栓をできにくくするだけでなく、できた血栓を溶かす作用があることがわかっています。そのほか玉ねぎは血液中の善玉コレステロールを増やし、悪玉コレステロールを減少させて血液サラサラにします。
効果04
血糖値を下げる
玉ねぎで特に注目したいのが、グルコキニン。血糖降下作用があり、糖尿病に有効なのはこの成分のため。これは加熱には強い成分ですが、水溶性で水や酢などにさらすと溶けてしまいます。スープなどの料理では、汁を残さずに。
効果05
利尿・発汗
玉ねぎをはじめ、長ねぎなどアリウム属の野菜は、尿の出をよくし、血流をよくして発汗も促し、解熱などの作用があります。ビタミンB1の吸収を助けて新陳代謝も盛んになるため、昔から風邪に効くといわれてきました。
効果06
鎮静作用
イオウ化合物には神経鎮静作用があり、ストレス解消効果があるといわれています。民間療法として、神経が高ぶっているときに、生の玉ねぎを刻んで皿などにのせ、枕元に置くとよく眠れると伝えられています。
効果07
抗アレルギー
アレルギー疾患で、気管支や皮膚血管などに刺激を与えるヒスタミン。これに働きかける抗ヒスタミン作用が、チオスルフィネートにあることが知られています。さらにケルセチンの抗アレルギー作用も最近、注目されています。
効果08
滋養強壮
慢性疲労や筋肉疲労などの疲れに効き、スタミナを増強させるのは、アリシン。ビタミンB1と結合してアリチアミンとなり、ビタミンB1の吸収と利用効率を上げて、新陳代謝をよくします。食欲もアップして体力がつきます。
効果09
抗菌・殺菌
イギリスでは、台所や病人の部屋に玉ねぎを置いて「疾病よけのお守り」として用いられてきたそう。特に、硫化アリルなどの香り成分に、抗菌、殺菌、駆虫、防腐作用があることは古くからいわれています。
効果10
解毒作用
最近注目されている野菜の解毒物質(ファイトケミカル)。強い抗酸化作用で、体の中の有毒物質を解毒・浄化し、免疫力を高めます。玉ねぎのケルセチンにも強い抗酸化作用があります。
なお、本稿は『知って驚くファイトケミカル 健康野菜大全』(KADOKAWA)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。