【ニキビの薬】皮膚科で保険診療を受けるのが正解 毛穴詰まりやニキビ跡にも有効な薬で肌質を改善

美容・ヘルスケア

「ニキビは青春のシンボル」「肌質だからあきらめるしかない」というのは過去の話。近年、ニキビのメカニズムが詳しく解明され、それに合わせた画期的な薬が次々と登場しています。薬を使ってきちんと治療をすれば、ニキビは必ず治り、肌質も変わります。ぜひ、多くの人、特に10代の思春期ニキビの人に、この事実を知ってほしいと思います。【解説】角田美英(かくた皮膚科クリニック院長)

解説者のプロフィール

角田美英(かくた・みえ)

かくた皮膚科クリニック院長。1988年東京医科歯科大学医学部卒。順天堂大学皮膚科学教室入局、美容皮膚科として知られる青山ラジュボークリニック院長などを経て、2009年かくた皮膚科クリニックを開院。皮膚科専門医。所属学会、日本皮膚科学会、日本美容皮膚科学会、日本臨床皮膚科医会。
▼かくた皮膚科クリニック(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(CiNii)(最新の論文に「初診で決まるニキビ治療」:『ヴィジュアル・ダーマトロジー』20(2),2021)

取材・構成/狩生聖子

ニキビの本当の原因とは

アクネ菌の繁殖だけが原因ではない?

「治療後2週間で約60%、3ヵ月で今出ているニキビのほとんどは治ります。その後、治療を継続すると、約1年から1年半後にはきめの細かいつるつる肌になります。保険診療です。一緒に頑張りましょう」

これは私が、初診の患者さんにお伝えする言葉です。

スキンケアや市販薬を駆使してもニキビが治らなかった人にとっては、信じられない話かもしれません。しかしこれは、臨床試験で得られた数値を元にしているので、決して大げさな話ではありません。

実のところ、ニキビが劇的に改善するようになったのは、この10年のことです。ニキビができる「本当の原因」がわかったことで、治療の効果が格段に上がりました。

それまでニキビは、肌に常在しているアクネ菌が毛穴で繁殖するために起こる「感染症」と定義されていました。そのため、ニキビを治す薬は、アクネ菌を殺す抗生剤が定番でした。市販薬も、抗菌作用のある成分の入ったものが中心だったのです。

ニキビ肌の人は毛穴の開閉がうまくできない

ところが、新たな研究により、ニキビは「毛穴の角化」が大きな原因であることがわかりました。これはとても画期的な発見でした。「角化」とは、なんらかの理由で毛穴が出口をふさがれていることをいいます。わかりやすくいうと、「毛穴が閉じている」状態です。

正常な状態の毛穴は、皮脂を分泌するときなどには開き、必要のないときには閉じるといった、開閉調整を行っています。ニキビ肌の人の毛穴は、開いて皮脂を出すことがうまくできないのです。このように、毛穴が皮脂などによってふさがれた状態を「面皰(めんぽう)」といいます。これがニキビの初期段階であり、原因であることを覚えておいてください。

ニキビの根本原因に効く薬が登場

毛穴の詰まりに抗生剤は無効

面皰は、最初のうちはとても小さい変化なので、見た目にはわかりません。最初に気づくのは、「角栓(かくせん)」でしょう。面皰が進行すると、毛穴の周辺が隆起してきて、詰まった皮脂や老廃物(角栓)が見えてきます。一般的には、「白ニキビ」とか「黒ニキビ」などと言われます。

さらに詰まった毛穴の中に皮脂が増えると、皮脂をエサにしているアクネ菌が増殖を始めます。皮膚は、アクネ菌に対抗しようと免疫反応を起こし、炎症物質を放出するため、面皰が赤くなります。これが「赤ニキビ」です。

炎症が進むと、組織が破壊されて膿がたまったり、毛穴の外に炎症が広がったりしてきます。そして、炎症が治まった後、破壊された一部の組織が残り、ニキビ跡(瘢痕)となるのです。

毛穴がふさがれる→皮脂がたまる→菌が増殖→炎症。

(イラストAC)

さて、以前はこうしたニキビに対して、抗生剤を使っていました。抗生剤は、アクネ菌を殺す働きには優れているので、角栓を破って出てきた赤ニキビには、よく効きました。しかし、お話してきたように、ニキビの根本原因は面皰(毛穴の詰まり)です。面皰は抗生剤では治せません。このため、面皰ができやすい肌である限り、抗生剤を使って表面の赤ニキビをなくしても、その下から新たなニキビの元(面皰)が次々と現れる、という繰り返しでした。

市販薬やスキンケア製品も、その成分は菌を抑える成分が中心です。「ニキビは、薬を塗ってもスキンケアをがんばっても治らない」と思われていたのは、こうした理由だったのです。

ニキビは医療機関で治す病気

でも、今は違います。ニキビの根本原因である面皰を治す薬が、10年ほど前に登場したからです。もう一つ大事なのは、この新しい薬が、皮膚科において保険診療で処方できるということです(市販はされていません)。

ニキビ治療に関しては誤解が多く、「ピーリングやレーザー治療などと同じ自由診療」とか「美容皮膚科で高額の治療を受けるしかない」と思っている人も多いようです。実際には保険が効きますし、治療費も高くはありません。参考までに、当院で保険診療を使って治療をした場合を推計したところ、3割負担で1ヵ月の薬代(自己負担額)は約3,000円でした。診療代が約3000円で、合計6000円ほどになります。

ちなみに、ニキビを皮膚科で治している人の割合は、フランスでは50~60%なのに対し、日本は16%と少ないのが現状です。これを機に、ニキビは医療機関で治せる病気だということを、理解してほしいと思います。

では、ニキビを治療し、その後、つるつるの美肌に肌質を改善させるために、どのような治療をするのでしょうか。例として、当院の診療の流れを紹介します。日本皮膚科学会が、ニキビ治療の指針として「尋常性痤瘡治療ガイドライン 2017」(尋常性痤瘡とはニキビのこと)を作成しており、当院ではそれに沿った診療を行っています。基本的には、どの皮膚科でも同じ流れと考えてください。

ニキビ治療の流れ

赤ニキビは3ヵ月でほぼ消える

ニキビでお悩みの患者さんには、まず、丁寧に問診を行います。なかには、ニキビに似た別の皮膚病の場合もあります。ニキビであることが確定できたら、治療計画をお話しします。

きちんと治療をすれば、今ある赤ニキビは3ヵ月程度でほぼ消えること。大事なのはその後で、次々と出てくる面皰を薬で治す「維持期の治療」を、1年から1年半は継続すること、などです。

実際に、顔中のニキビが消えて跡も残らず、つるつるになった患者さんの写真を見ていただきます。治療の継続には、モチベーションが大事だからです。

ニキビ跡に効く薬も

処方する治療薬は、現在4種類あり、いずれも塗薬です。肌の状態に合わせて選びます。

まず、赤ニキビがなく、面皰にとどまっているものに対しては、「ディフェリンゲル(一般名・アダパレン)」か「ベピオゲル(一般名・過酸化ベンゾイル)」を使います。ディフェリンゲルは、ピーリングにも使われるレチノイドが主成分で、毛穴の詰まりを取り除くことにより、角化を防ぎます。

過酸化ベンゾイルには殺菌作用もあるため、毛穴の詰まりを取り除くとともに、増殖したアクネ菌をやっつけます。薬剤耐性菌(薬に対して抵抗力を持つ菌)が生じないため、長期間使用しても効果が落ちないことが利点です。皮膚科医にとっても、安心して使える薬です。

中等症(目安として顔の片側に6~20個の赤ニキビ)には、さらに効果の強い「デュアック配合ゲル」、重症(20個以上の赤ニキビ)には「エピデュオゲル」を使います。どちらも過酸化ベンゾイルが主体ですが、前者のデュアック配合ゲルには、クリンダマイシンという抗生剤が配合されています。

後者のエピデュオゲルは2017年に承認された最も新しい薬ですが、この薬はニキビを治すだけでなく、ニキビ跡を抑える働きがあることもわかっています。ニキビ跡に効く薬はこれまでなかったので、朗報といえるでしょう。

当院には赤ニキビの出ている中等症の患者さんが多く、急性期の治療として、まずデュアック配合ゲルを使うことが多いです。このデュアック配合ゲルが冒頭で紹介した「2週間で約60%、3ヵ月で今出ているニキビのほとんどが治る」という薬です。

上記4種類の面皰治療薬は、毛穴の詰まりを取る作用がある一方で、副作用として、赤みやひりひり感、かゆみ、皮むけなどの刺激症状が起こることがあります。多くの場合は徐々に落ち着きますし、薬の量を調整したり、スキンケアで保湿をしたりすることで抑えられます。

食事や睡眠も大事

患者さんのニキビの状態によっては、上記の塗り薬と並行して、抗生剤の飲み薬や漢方薬、脂質を抑える作用のあるビタミンB群などを処方することがあります。

同時に、生活習慣の改善についても指導もします。面皰は、手で触るなどの刺激や、食事などの生活習慣が影響するといわれています。食事についてはまだ研究段階で、いろいろな報告がありますが、決定打には至っていません。極端に偏る食事は避け、ビタミン類や食物繊維が豊富な緑黄色野菜を含む、バランスのよい食生活を心がけることが大切です。

また、診療するなかで実感するのは、睡眠不足でニキビが悪化する患者さんがとても多いことです。肌のためには、質の良い睡眠をしっかりとることが基本と心得ましょう。

ニキビができにくい肌質に改善

「ニキビが消えてから」が大事

薬をきちんと使い、生活習慣にも気を配っていくと、約3ヵ月で肌は目に見えてきれいになります。この時点で、かなりの患者さんが満足しますが、実は大事なのはここからです。

初診時に出ていたニキビは約3ヵ月でほぼ消えますが、その下にはすでに新たな面皰が育ち始めています。面皰のできやすい肌質はすぐには変わらないので、薬をここでやめてしまうと、再びニキビで悩むことになります。「ニキビは治らない」というのは、この段階で治療をやめてしまうからです。

今あるニキビを治し、さらに面皰のできにくい肌にするところまでが、現代のニキビ治療です。そのためには、見た目がきれいになってからの「維持期」の治療が大切になってきます。

維持期の治療では、エピデュオゲルやベピオゲルを、根気よく、毎日使います。面皰のできにくい肌になるということは、毛穴が詰まらなくなるということ。毛穴が適宜開いて皮脂が分泌され、なめらかでつるつるとした肌になります。維持期は約1年~1年半が目安です。長いと感じられるかもしれませんが、決してそうではありません。ここで肌質改善までしておけば、将来の肌トラブルを回避することができ、結果的に時間もお金も節約になるのです。

大人のニキビにも有効

思春期ニキビに対して、20代以降に発症するのニキビをアダルトアクネといいます。アダルトアクネは、ホルモンバランスだけでなく、ストレスや食事、スキンケア用品が合わないなど、さまざまな要因が複合して起こります。アダルトアクネに対しても面皰治療薬は有効ですが、思春期ニキビよりも治るまでに時間がかかります。

このため、「結婚前にニキビを治したい」「就活の前にニキビを治したい」という患者さんに対しては、短期間でより効果が得られる「レーザー治療」や「ピーリング」など、自由診療のニキビ治療が必要になってしまうことが多いのです。思春期ニキビのうちに保険診療できちんと治し、肌質を改善しておけば、このような事態を防ぐことができます。

維持期の治療の最終段階では、最初は毎日塗っている薬を、1日おき、2日おき、3日おき、と間隔を空けて様子を見ていきます。薬を週に1回にしてもニキビができなくなったら、「治療をやめてもいいですよ」とお伝えします。このときの患者さんの笑顔は、私にとってなによりの喜びです。患者さんを笑顔にすることが、私の皮膚科医としての使命であると思っています。

まとめ

ニキビは、患者さん本人にとって深い悩みであり、周囲の「ちゃんと顔を洗ってる?」とか「肌質だからしかたない」といった、心ない言葉にも深く傷つきます。多感な思春期は特に、精神面・社会面にも影響が出ることが少なくありません。ニキビは肌の病気であり、皮膚科で適切な治療を受ければ治るということを、もっと多くの方に知ってほしいと思います。思春期のニキビだけでなく、アダルトアクネに悩んでいる方も、ぜひ一度、皮膚科で相談してみてください。

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