食肉業界や飲食業界で「和牛博士」と称されている澤真人(さわ・まこと)氏は、食肉流通業界大手の取締役を務めていたが、退社して飲食業を立ち上げたいと考えていた。澤氏の夢は「おいしい和牛を世界中の人に食べてもらうこと」。30年間務めていた会社を退社して「和牛のレストラン」を展開するように。そして「神戸ビーフ」ブランドを管理する団体からオファーがあり、この7月に東京・浅草に出店。コロナ禍が終息して浅草が再びにぎわうようになると、澤氏の夢はにわかに現実のものとなることだろう。

「浅草」は日本を象徴するブランドである。2年前までは、外国人観光客が浅草を目指して混み合い、さまざまな外国語が行き交った街である。浅草は、コロナ禍で静かな街になってしまったが、コロナ後にはインバウンドは必ずや復活する。それを想定した新しい浅草の目的地であり、同時に世界に雄飛しようとしている人物が今回の主人公、澤真人氏である。

和牛博士、62歳。コロナ禍で動く

2021年7月15日、東京・浅草の商業施設「東京楽天地浅草ビル」の3階に「神戸ビーフギャラリーTOKYO」と「Dr.Meat 和牛博士のビストロ 神戸ビーフ亭」がオープンした。前者は「神戸ビーフとは何か」を展示したミニ博物館で50坪、後者は「神戸ビーフをおいしく食べさせてくれる」レストランである。神戸ビーフの発信基地であり、浅草の新名所と言ってよい。

飲食業立ち上げの夢を叶える

この中で「Dr.Meat 和牛博士のビストロ 神戸ビーフ亭」を運営するのは、(株)CHEF’S。同社の代表である澤真人氏は、食肉メーカー・卸の大手、エスフーズ株式会社で取締役営業本部長を務めた人物で、「和牛博士」とも称されている。2021年2月に、30年以上勤務した同社を退社して、念願であった飲食業を立ち上げた。

画像: 「和牛博士」ことCHEF‘S代表取締役の澤真人氏。

「和牛博士」ことCHEF‘S代表取締役の澤真人氏。

澤氏のミッションは「おいしい和牛を世界中の人に食べてもらうこと」。1号店は、2020年11月、東京・入谷に小型店(17坪)をオープン。ランチタイムだけで売上が成り立つ店にチャレンジし、店舗展開の過程でFC化も視野に入れるようになった。

2021年に入り、5月、東京・半蔵門に「Dr.Meat 和牛博士のビストロ」(26坪)、6月、東京・学芸大学に「Dr.Meat 和牛博士の焼肉」(40坪)、そして、この度の浅草である。「Dr.Meat」のブランドは4店舗目となるが、「神戸ビーフ」という強力なブランドとタッグを組むことで「世界」が大きく近づいている。

澤真人氏は、18歳から30歳まで料理人をしていたが、30歳でムラチク(現・エスフーズ)に入社して以来、食肉の目利きの才能を大きく発揮していく。そしていつしか「和牛博士」と呼ばれるようになっていった。

エスフーズ取締役営業部長の当時は、年間50万頭の牛を見ていたという。子牛のセリにはじまり、肥育の状況、枝肉の状態から正肉、流通、そして小売りに至るまでの全ての状況を管理していた。同社と取引のある和牛の焼肉店やレストランのオープンニングでは、澤氏が肉の部位ごとの、あるべき切り方、おいしい食べ方などをパフォーマンスしながら、和牛の魅力を語っていた。

そのような澤氏は、エスフーズ在職中に「いつか飲食業に戻りたい」と思っていた。50歳を過ぎてから、いよいよ「飲食業で独立」の態勢を考えるようになった。会社から慰留を要請され続けてきたが、ついに夢の独立が叶った。そのとき澤氏は62歳である。

画像: 現場主義の澤氏はキッチンで自ら肉をカットし、食事する顧客に気軽に接する。

現場主義の澤氏はキッチンで自ら肉をカットし、食事する顧客に気軽に接する。

「絹のローストビーフちらし」1000円

創業の店であり、基本のブランドである「Dr.Meat 和牛博士のビストロ」の看板商品は、「絹のローストビーフちらし」1000円(税込、以下同)である。酢飯の上に、たっぷりのローストビーフとレンコン、さやえんどうなどの野菜がちりばめられている。彩りもよくヘルシーなイメージが伝わってくる。

画像: FC展開に際しての看板商品を想定している「絹のローストビーフちらし」。

FC展開に際しての看板商品を想定している「絹のローストビーフちらし」。

1号店はあえて高齢者の多い入谷に

この商品のアイデアは、独立する以前から温めていた。そして、1号店を入谷にしたこともこの商品と関連がある。それは、東京の中心でなく、中高年・高齢者の多い街で、小さな店でもランチタイムだけで売上を立てることができる店をつくるということ。これが軌道に乗れば、FC展開を想定することができる。現状、原価率を25%としているが、これもFC展開を意識したものだ。一般的に、FCのロイヤリティは3~5%で、この商品の原価率にロイヤリティが加わったとしても、加盟店の経営は重くならない。

入谷では、想定通りに中高年・高齢者がリピーターとなり、半蔵門では、この商品がテイクアウトで1日70~80食が出るようになった。夏真っ盛りとなり、この商品の他に「焼肉弁当」1000円をメニューに加えた。現状の客単価は、入谷は昼1200円、夜4000円。半蔵門は昼1200円程度、夜5000円。学芸大学は昼1400円、夜6000円。「Dr.Meat 和牛博士のビストロ」のブランドに関しては、業態的に整っていると言えるだろう。

4店舗目としてオープンした「Dr.Meat 和牛博士のビストロ 神戸ビーフ亭」は、神戸肉流通推進協議会からのオファーを受けて出店したものだ。ビルのリーシング(テナントを誘致する営業活動)のテーマとして「公共性のある施設」が必要とされ、神戸肉流通推進協議会がそれを担うことになった。「Dr.Meat 和牛博士のビストロ 神戸ビーフ亭」は、その神戸ビーフをおいしく提供するオペレーターである。

画像: 「Dr.Meat 和牛博士のビストロ 神戸ビーフ亭」のメインとなるレストランは浅草観光をイメージしている。

「Dr.Meat 和牛博士のビストロ 神戸ビーフ亭」のメインとなるレストランは浅草観光をイメージしている。

「中国市場」を視野に入れ商標登録も完了

この施設は、前述の複合商業施設の3階にあり、130坪の規模。このうち、神戸牛のミニ博物館である「神戸ビーフギャラリー」が50坪で、澤氏が率いるCHEF`Sでは、レストラン、テラス席、精肉売場、また料理教室として活用できるスペースも確保している。

画像: 神戸ビーフの精肉や加工品を取りそろえた精肉売場。既に地元の顧客がリピーターとなっている。

神戸ビーフの精肉や加工品を取りそろえた精肉売場。既に地元の顧客がリピーターとなっている。

レストランは、昭和の洋食店をイメージしたメニュー構成で「神戸牛サーロインのビフテキ」4800円、「神戸牛の土鍋ハンバーグ」1980円、「神戸牛 土鍋のとろとろビーフシチュー」2800円など神戸牛をキラーコンテンツとしたバラエティ豊富なメニューをラインアップした。また、トッピングとして「フォアグラ」500円、「温泉卵」100円で、選ぶ楽しさを加えている。

画像: 「神戸牛サーロインのビフテキ」4800円はレストランの象徴的なメニュー。

「神戸牛サーロインのビフテキ」4800円はレストランの象徴的なメニュー。

テラス席の看板商品「霜降りレッドクリフ」2980円

テラス席では「霜降りレッドクリフ」2980円を看板商品に据えている。これは、和牛の肩ロースのちりとり鍋で、中に白モツを敷いていて甘さがあるのが特徴だ。これに、ご飯がついて食べ放題としている。アルコールを提供していなくても、このスペースは土日祝日に大層にぎわうようになっている。

画像: テラス席は今や土日祝日となると食事を楽しむ顧客で満席となる。

テラス席は今や土日祝日となると食事を楽しむ顧客で満席となる。

画像: テラス席の看板商品「霜降りレッドクリフ」2980円はご飯がついて食べ放題となっている。

テラス席の看板商品「霜降りレッドクリフ」2980円はご飯がついて食べ放題となっている。

キッチンの奥にシェフズテーブルを設けていて、1日一組のみ一人3万円のコースメニューを提供する。このスペースは、澤氏の知人関連だけでフルに稼働するものと想定されるが、本来の目的は、CHEF‘Sの料理人たちが、お客様に和牛料理を十分に楽しんでいただくために原価2万円をかけて料理を表現するというステージをつくろうと考えたからだ。

これらのスペースは「神戸ビーフ」を発信する拠点であり、「Dr.Meat」ブランドは「神戸ビーフ」ブランドと並び称されるチャンスを得たと言える。

まとめ

和牛マーケットは、中国で脈々としている。和牛最上の等級である「A5」は「日本の食」を象徴する食材として知られている。澤氏が「世界」を語る時には、まず中国市場に狙いを定めていることを熱く語る。中国では「Dr.Meat」の商標登録を終えている。後は、中国の人々にこの店を体験してもらうだけだ。コロナ禍がいち早く終息し、再び浅草がインバウンドでにぎわうことが待ち望まれる。

執筆者のプロフィール

画像: 執筆者のプロフィール

文◆千葉哲幸(フードサービスジャーナリスト)
柴田書店『月刊食堂』、商業界(当時)『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆・講演、書籍編集などを行う。著書に『外食入門』(日本食糧新聞社、2017年)などがある。
▼千葉哲幸 フードサービスの動向(Yahoo!ニュース個人)

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