「好き」「嫌い」「どちらでもない」の3つで単純に分けるのならば、100人いたら30人ぐらいは自分を嫌っていてもおかしくありません。多少は嫌われても、空気が読めなくても、わかり合えないままでも、大丈夫です──。書籍『ごきげんママのハッピー子育て術』(マキノ出版)の著者、川越くみさんに「正解のない子育ての極意」を教えていただきました。
解説者のプロフィール
川越くみ(かわごえ・くみ)
1971年、宮崎県生まれ。マザーズコーチングスクール副代表。TCS認定プロフェッショナルコーチ。マザーズコーチングスクールで全国初のトレーナー(ティーチャー資格者を育成する役割)となり、全国で1500名を超えるティーチャー資格者たちの育成にも取り組んでいる。現在は、企業研修の講師としても活動し、女性のキャリアサポートもしている。
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マザーズコーチングスクールとは
口コミだけで3万人以上が受講した、お母さんのためのコミュニケーション講座。個人受講のほか、仕事と育児を両立している従業員向けの研修として、経済産業省・金融機関・教育機関などにも導入されています。認定講師のマザーズティーチャーは国内全都道府県、海外10カ国で活躍。「子どもの孤独をなくす」をテーマに、地域教育委員会の後援を得て、全国で講演会も実施しています。
運営:NPO法人トラストコーチング(代表 馬場啓介)
公式サイト:https://motherscoachingschool.com
本稿は『ごきげんママのハッピー子育て術』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
自分と夫・親戚・ママ友の価値観はそれぞれ違います
価値観を知るために子ども時代を振り返る
家族とはいえ別の人間である── 当たり前の話ですが、子どもが生まれることで家族に一体感が増すと、自分と同じ価値観を持っていると錯覚してしまいがちです。そして、自分の価値観どおりの行動を相手も取るだろうと、つい思い込んでしまうのです。
さらに、相手をわかった気になっているから、声かけや説明も雑になってしまい、家族間のコミュニケーションがうまくいかなくなっていくのです。
大切なのは、家族に限らず、「人それぞれに違う価値観を持っている」という現実に気づくこと。
その第一歩として、お母さんが自分自身の価値観を知る必要があります。
コーチングのセッションでも、最初に自分自身のことをより知るために、子ども時代のことを思い出してもらう質問をします。
ここで、皆さんにもちょっと試してほしいことがあります。リラックスして、目を閉じ、子ども時代の記憶をたどってみてください。
家族と過ごしてきた中で、印象的だったシーンを頭に思い浮かべてみましょう。そのシーンで、お父さんやお母さん、兄弟姉妹は、どんな表情をしていますか。どんな言葉をかけられましたか……。
このように子ども時代を振り返った後で、「親の一言が、無意識の中に残っていて、良くも悪くも影響を受けているんだなと思いました」という感想をよくもらいます。
自分を育ててくれた人が、どんな思考でコミュニケーションを取っていたのか、どんな一面を見せていたのかが、子育てでのお手本になることもあれば、反面教師になることもあります。
どちらの場合も、無意識のうちに子ども時代の影響を受けているということ。積み重なってきた経験や知識が、価値観を作り上げているのです。
「私はもう40歳になるのに、子どもの頃に『手がかからない子』って親から言われたのが、ずっと嫌だったことを思い出しました」と話すお母さんがいました。親の言葉を嫌だと感じた理由は、その言葉の裏にある「優等生でいてちょうだい」というプレッシャーを受けていたからかもしれません。
このお母さんは自分の母親の言動を反面教師にして、「優等生にならない」が理想の母親像でした。子ども時代の嫌だった経験から、価値観や思考パターンが生まれていたのです。
「ただ、一度子どもの頃にインプットされた思考は、なかなか抜けないですね」とも話していました。
このように、自分自身が抱いている価値観に気づくことが大切です。
自分自身のことがわかれば、「夫には夫の、親戚には親戚の、ママ友にはママ友の価値観がある」「価値観はみんな違っていいんだ」と周りの人の価値観も尊重できるようになります。
すると、それぞれの人と適切な距離感を保てるようになり、人間関係の苦しみを必要以上に抱え込まなくても済むはずです。
「みんな」なのかを見極める
押し付けも押し付けられもNG
人間は、集団を作って組織的に活動する生き物。そして密集して生活を送ることは、安全を手に入れるための生存本能だそうです。
ですから、「みんなと一緒にいる」「みんなと同じである」ということから、私たちは心地よさと安心感を得ているのではないでしょうか。
そんな「みんな」という言葉は、子育てや教育の現場だけでなく、テレビなどのメディアでも頻繁に使われています。この影響を受けて、無意識のうちに「みんな」が口から出やすくなってしまうのです。
しかし、コーチングの現場では「みんな」をNGワードとして扱っています。その理由は、自己肯定感を下げてしまう可能性が非常に高いからです。
自己肯定感は、いいところも悪いところも、ありのままの自分の姿を受け入れることで育まれます。
ありのままの人間の姿は、一人ひとり違っているのが当たり前です。むしろ「みんなと同じ」が強要されるほうが、不自然なことだと思います。
このように、「みんな」という言葉には心地よさと安心感があると同時に、個人を尊重していないばかりか、場合によっては押し付けや否定も含まれます。
そのため、コミュニケーションの中では、使わないように心がけたほうがよい言葉の一つなのです。
例えば、子育てに消極的な夫に「周りのお父さんたちは、みんな子育てに熱心なんだよ」と声をかけたとしましょう。
この声かけでは、夫の都合や心理状態を無視して、普段の行動を否定しているように伝わってしまいます。自分を無視したり否定したりする相手に、心を閉ざすのは当然のこと。「みんな」という言葉を使うことで、コミュニケーションがうまく取れず、信頼関係も崩れやすくなります。
また、お母さんが自分自身に対して「みんな、子育てと家事を両立させているのに」と責める気持ちが湧き上がってきたら、自分の自己肯定感を下げてしまっている可能性を思い出してください。
そして、周りのお母さんたちを一人ずつ、思い浮かべてみましょう。それぞれに生活スタイルも違いますよね。「みんな同じ」だなんて、現実からかけ離れているのです。
大切なのは、今ある自己肯定感を失わずに、守ること
さらに、夫や親から「お母さんたちはみんな、子どものために時間を作ってがんばっているんだよ」などと声をかけられたときも、それは現実に則したことではないので、静かにスルーするといいでしょう。
否定も肯定もせず、受け流して、一旦距離を置きます。そして、冷静になってから話し合えば良いのです。また、「あえて話し合わない」という選択が必要な場合もあるかもしれません。
これほどまでにコーチングで言葉を重視するのは、自己肯定感を下げないために必要なことだからです。
最近では「自己肯定感を高めよう」とよく耳にしますが、それは口で言うほど簡単ではありません。毎日の小さな習慣の積み重ねによって、少しずつ形成されていくものだからです。自己肯定感が一瞬で高まる魔法なんて、この世界には存在しません。
ですから大切なのは、今ある自己肯定感を失わずに、守ること。
人間は思考するときもコミュニケーションを取るときも、言葉を使っています。子どもの自己肯定感も、お母さんの自己肯定感も、どちらも失わないために、より一層、言葉に意識を向けてほしいと思います。
「みんな」という言葉が口から出たり頭に浮かんだりしたら、本当に「みんな」なのかを疑って見極める。そうした小さなステップを踏んで、自己肯定感を維持していきましょう。
「嫌われたくない」を手放す
空気を読めなくても大丈夫
さまざまなジャンルの勉強会で、周りの人をやたらと褒めたり、がんばって場を盛り上げようとしたりする参加者を見かけることがあります。
もちろん、褒めることも楽しい会にすることも、大事なことではあります。しかし、「嫌われたくない」という不安やおびえが潜んでいたら、要注意。それは、相手への敬意ではありませんし、「勉強」という本来の目的とズレてくるからです。
「嫌われたくない」「変な人と思われたくない」「誰からも好かれたい」という思いは、誰もが抱いています。社会的動物である人間は集団で生活しているため、仲間外れは生存の危機につながるからです。
このように「嫌われたくない」は自然な欲求なのですが、あまりにも強くなってしまうと、不自由な人生を送ることになりかねません。
自分の気持ちや考えを伝えられなくなったり、過度に空気を読んで精神をすり減らしたりしてしまうからです。絶えず周りの目を気にして、ビクビクしながら生きていくのは、おそらく誰も望んでいないでしょう。
冒頭で紹介したような、人を褒めることも場を盛り上げることも、積極性の表れに見えるかもしれませんが、実は自分をガードするための消極的な行動になっている場合もあります。
こうして、自分の本音をぶつけて周囲に理解してもらう機会が失われると、孤独を感じることにもつながります。
さらに、本来の目的や優先順位がわからなくなることも珍しくありません。「勉強会に参加したからには、いろいろと学んで成長したかったのに、周りを気にし過ぎて集中できなかった……」などと自己嫌悪に陥る場合もあるでしょう。
別の角度から「嫌われたくない」という気持ちを分析すると、「~でないと認めてもらえない」という思い込みが強い証拠だといえます。
「誰からも好かれる」なんて現実的ではない
コーチングのセッションでは、「あなたはどんな人だと思われたいですか?」と問いかけることがあります。そして返ってきた「優しい人」「明るい人」「元気な人」などの答えには、過去の経験が影響している思い込みが表れていることもあります。
例えば「優しい人」と答えた人は、「優しくなるべきだ」「優しくなければ、認めてもらえない」と思い込んでいることがあります。その人の過去をひもとくと、「子どもの頃に、優しいかどうかで親や教師からジャッジされてきた」などの原因が見えてくるのです。
このように、「あなたはどんな人だと思われたいですか?」という問いかけは、思い込みの原因に気づかせてくれる効果があるのですが、それだけではありません。「周囲の期待に応えなければ認めてもらえない」といった思い込みによる不安に気づいて、手放すきっかけにもなります。
当たり前のことですが、「好き」「嫌い」「どちらでもない」の3つで単純に分けるのならば、100人いたら30人ぐらいは自分を嫌っていてもおかしくありません。
「誰からも好かれる」なんて現実的ではないし、空気を読んで行動していたはずなのに嫌われることだってあるでしょう。
ですから、「好かれるかもしれないし、嫌われるかもしれない」「受け入れられるかもしれないし、変な人と思われるかもしれない」と認識するほうが、ありのままの自分を認めることにつながります。
また、誰かに嫌われたとしても、自分に原因があるとは限りません。相手の考え方や感じ方だったり、周りの状況だったり、ケースバイケースです。嫌われてしまった相手に取り入ったところで、さらに関係がこじれる可能性もあるでしょう。
ですから、スルーすることも大事。多少は嫌われても、空気が読めなくても、わかり合えないままでも、大丈夫です。
「嫌われたくない」というおびえや「一人ではやっていけない」という思い込みを手放しましょう。
「捉われずに」見守る
敵・味方、損・得などは小さなこと
私たちは初めて会った人を、次のように2つに分けて判断するといわれてます。
◯敵か、味方か
◯好きか、嫌いか
◯この人と付き合うことは損か、得か
◯自分よりも優れているか、劣っているか
「えっ? まさか、そんなことをするわけがない」と思うお母さんたちは多いでしょう。無理もありません。自分にとって危険な相手を判断することは、人間の防衛本能として、無意識のうちに行われているからです。
ただ、こうしたジャッジにとらわれ過ぎると、信頼関係を築くのが難しくなり、気づけば孤独になることがあります。
敵・味方、損・得で他人を見るときには、「~だから味方だ」「~だから得だ」などと条件を付けています。このような「条件に合致しているから味方だし、一緒にいたらメリットがある」という付き合い方では、信頼関係なんてとても成立しません。
ここまで、自己肯定感について、「強いところも弱いところも、できるところもできないところも、すべてを含めて『私は私でいい』と受け入れること」だと説明しました。
そんな自己肯定感からワンステップ上がって、他人に対しても条件付けをせずに認められるようになると、信頼関係が生まれてくるのです。
私とコーチング仲間との間には、信頼関係があると実感しています。そこには「初対面で感じがよかった」「会ってすぐに、気が合うとわかった」といった直感的なものは、全く関係していません。
なかには、最初の印象はあまり良くなかった場合もありました。それが、話している内容と行動が一致していたり、相手によって態度が変わることがなかったり、要はブレない人だとわかって初めて、少しずつ信頼が育まれてきたのです。
こうして互いの関係性をゆっくりと見守る中で、「敵・味方、損・得などは小さなことだから、どうでもいい」というレベルになっていきました。
信頼することを恐れないで
もしかすると、ジャッジにとらわれてしまう人は、過去に裏切られて、ひどく傷ついたことがあるのかもしれません。「もう二度と、あんなつらい思いをしたくない」と、他人を信頼することを恐れているのでしょう。
私にも、裏切られた経験はあります。信頼関係が少しずつ築けてきたと思っていた相手だったので、あまりにも想定外のことでした。それでショックを受けただけでなく、強い怒りも湧き上がってきました。
ただ、コーチングを学んでいたので、「裏切られたのは、きっと相手にもそうしてしまった背景がある」として理解したのです。裏切った相手にもそれなりの事情があると考えて、深くは詮索せずに、状況を見守ることにしました。
また、私の人生を振り返ったときに、信頼できる仲間がたくさんいました。前項でも説明したように、100人いれば30人ぐらいは私のことを嫌っていてもおかしくはないのです。裏切られたという事実については、「もともと人間関係とは、そのようなものだ」と前向きにあきらめることにしました。
そもそも、裏切られたと思っているのは自分だけで、相手は最初から私と信頼関係を築きたいと思っていなかったのかもしれません。それこそ思い込みで、私の距離感だけが近かったということです。
腹が立って感情的になるのは、今、目の前のことだけしか見えないときです。「長い人生の中で、もっと信頼関係を築きたい人は誰だろう?」と俯瞰して、自分自身を見守ってみましょう。
腹を立てることにエネルギーを使うことが、もったいないと思えてくるはずです。
■イラスト・おぐらきょうこ
本稿は『ごきげんママのハッピー子育て術』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。書籍内では、親子のコミュニケーションで大切な「手放す・見守る・見極める」の3つの習慣や、「ハピネスマイルノート」の使い方を、多数の実例とともに、具体的にわかりやすく解説しています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
前記事:【ごきげんママのハッピー子育て術】お母さん自身を認めよう。「ハピネスマイルノート」の作り方 もご覧ください。