これから日本は冬。鍋物が恋しい季節になります。しかし、土なべ側でIH対応を謳おうとも、多くのIHクッキングヒーターの取扱説明書(以下 取説)では、IH対応の土なべは使用不可と書かれています。今回は、この妙な話をレポートします。
IH対応土鍋なのにIHクッキングヒーターで使用不可ってどういうこと!?
IH(Induction Heating)は日本語で「電磁誘導加熱」と訳されます。「電磁誘導」とは、金属の近くで磁石を動かすと渦電気が生じる現象です。金属体に渦(うず)電流が発生すると、金属が持つ電気抵抗により、ジュール熱が発生します。IHクッキングヒーター(以下 IH)は、この原理を応用した調理家電です。
この原理のポイントは、何でしょうか? コイルで磁気を発生。その磁気がもたらす渦電流に対する金属(この場合は、フライパンやなべ)抵抗が、ジュール熱になるわけです。そう「金属」ですね。IHは、磁性を持たない金属に熱を作ることができないのです。IHでアルミなべ、銅なべが使えないのはそのためです。同様の理由で、ガラス製なべ、セラミック製なべ、土なべなども使えないと言うわけです。
IHがすごいと言われるのは、その効率にあります。電気エネルギーの実に90%以上を熱エネルギーに変えることができるのです。ガスを使うよりとても効率がいい上、室内環境の汚れも最小に済ませます。二酸化炭素をボンボン作り出す燃焼とは一線を画すのです。
これから日本は冬。土なべのなべ物が恋しい季節になります。しかし、土なべ側でIH対応を謳おうとも、多くのIHクッキングヒーターの取扱説明書(以下 取説)では、IH対応の土なべに使用不可と書かれています。今回は、この妙な話をレポートします。
卓上用IHクッキングヒーターの取説上の扱い
取説には、その製品をどんなふうに使えばいいのかが書かれています。いくつかの取説を見てみましょう。まず、海外メーカーが製造しているティファール 卓上用 IH調理器 Full Flat IH(フルフラットIH)IH202の取説です。
「× 使えないなべ」の中に「陶磁器(土なべなど)」とあり、その下に「市販の土なべは「IH用」表示されていても使わないでください。」さらにその下には、ご丁寧にも「(故障した理、火力が弱くなりうまく調理できないモノがあります)」と書かれています。
火力が弱くなってしまうので、フルポテンシャルを引き出せない。これは分かりますよね。元々土なべはIH対応ではありません。強引にIH対応させたモノですから、フルポテンシャルがでない可能性があります。しかし「故障する」とうどういうことを指すのでしょうか? ティファールは元々海外のブランドですから、土なべ自体を使わないからだろうかとまで、思ってしまいました。
そこで、ホームセンターを中心に家電販売をしているアイリスオーヤマの土なべを調べてみました。モデル名「IHコンロ 1400W(対面操作式) IHC-T61-B」の取説からの引用です。
実は、こちらも一緒でした。「IH対応」表示土なべは使用不可です。
では、大手家電メーカーはどうか?パナソニックの新モデル「卓上IH調理器 KZ-PH34」を見てみました。
こちらは、土なべ全面NGとは書いてありません。小さくてちょっと読みにくいのですが、「SG CH・IH」または「SG IH」マークがあるものはOKということにしてあります。
SGとは、Safe Goods(安全な製品)の意味で、「一般財団法人 製品安全協会」が定めた安全基準に適合していることが認証された製品に付けられるマークです。IHは、IHクッキングヒーターのことです。CHはクッキングヒーターのことで、IHに加えて、ラジエントヒーター、ハロゲンヒーター、シーズヒーター、エンクロヒーターが含まれます。
IH適合土なべの仕組み
では、IH対応を謳っている土なべは、どんな仕組みなのでしょうか?
2タイプあります。1つは、土なべは普通で、付属品として鉄プレートが付いたものです。使うときは土なべの中にこのプレートを入れて使います。IHのコイルとは土なべの厚み分、離れますが、そこはなべメーカー側でチェックしてあります。このプレートが熱源となります。
もう1つは、土なべの底に鉄を嵌め込んだモノ。こちらの方がいいように思われる人も居られるかもしれませんが、鉄と土とで熱膨張率、温まり方他、全く違います。かなり作りにくい。しかし、そうなると、作る時も、使う時も割れるという問題に直面する可能性があります。私は熱しているときに、土なべが割れるという惨事にあったことはありませんが、随分悲惨なことはたやすく予想できます。
素材・材質:陶磁器 (本体/耐熱陶器)
生産国:中国
約 3~4人用
対応熱源:ガスコンロ、ラジエントヒーター、ハロゲンヒーター、シーズヒーター、電磁調理器(IH)
鍋の直径:21cm
IH適合土なべが使用不可とされる理由
昔からあるものと近代科学との関係
で、私が持っているIH対応とされる土なべは、「萬古焼 五十鈴窯 IH対応 土鍋 7号 1-2人用 都三島」で、ステンレスプレートを使い、IH対応としたものです。
ティファール 卓上用 IH調理器 Full Flat IHで使ってみました。難なく使えます。しかし、10回に1回位エラーがでます。そんな時は、なべ位置をちょっと動かします。エラー解消。私から言わせると問題ないレベルであり、むしろ、テーブルの上でIHの快適さを享受できるモノです。ガスを使うと換気の嵐ですからね。効率が良いだけでなく、室内で使いやすいのです。
しかし、これ原理を知っていての自己責任であり、例えばなべが熱くならなかったなどのトラブルが起こった時、メーカーに持って行っても、取説に書いてなからと相手にしてもらえません。
調理家電、機器は、汎用型から専用型へ移行します。というのは専用型の方が、知識が要らないからです。手順さえ覚えれば、その結果を享受できるのです。その他はブラックボックスでOKというわけです。それが調理家電です。一方、土なべなどは超汎用型。中に熱いものが入っていると火傷することさえあります。自分で状況を確認、判断し、次のアクションを決める必要があります。家電と土なべ。考え方が全く違うのです。
100%でないものはOKできない
ユーザーの発言権が高まった今日、都市伝説「電子レンジの猫」が当たり前の世の中になりつつあります。
電子レンジの猫というのは、ある女性が猫を洗ってやった時、早く乾くのが良いだろうと、猫を電子レンジでチンしたという話です。電子レンジには、水の温度を上げることができます。それを食品に使う前提で作られています。しかし、彼女は、それを生身の猫に使ってしまった。猫は天国に召されます。そこで、飼い主は「取説に猫を温めるな」と書いていなかったと怒ります。訴えに勝利、彼女は一財産を築いたというモノです。
たわいのない、アメリカ人の訴訟好きを揶揄したジョークですが、これに似たことをするクレーマーは世にいます。メーカーは安全策を取ります。自社で保証できないものは、取説ではNGとして扱うという考え方です。
私のように、10回で1回位のなんでもないトラブルでも、訴えられる可能性はあるのです。このため、100%でないと、取説でのOKが出せないのです。
まとめ
IH対応と書かれていても使用するのは「自己責任」
こんな感じですから、私は、IH土なべは自分で納得できるなら使ってOKだと考えます。要するに「自己責任」ですね。ただし、その時は、よく取説を読むことです。例えば、底面が平でない場合は、スレンレスプレートの位置が高くなり、エラーになりやすい状況になりますし、コイルの大きさで対応できる土なべサイズも変わります。その部分も併せOKでなければ、うまく使えません。
あと、公共認定のあり方があります。パナソニックが使えるとした「一般財団法人 製品安全協会」のSGマークですが、公共認定はマストではありません。メーカーの任意です。
少なくとも、私が購入した「萬古焼 五十鈴窯 IH対応 土鍋 7号 1-2人用 都三島」はIH対応ですが、SGマークは付いていませんでした。(代わりに強度に関するJIS認定を受けていました。)これは、製品安全協会の力にもよります。ユーザー認知が薄い、もしくは影響力のない協会の認定は受けてもしようが無いというわけです。
しかしこんなことをしていると、IHクッキングヒーターを作るメーカーが認めていない「IH対応」土なべでIHクッキングヒーターを使うという矛盾が当たり前になります。これは、なべ、ヒーター側、双方がきちんと話し合い決めることが必要です。また、手間がかかる割に利が大きくない、つまり間尺に合わない可能性もあります。メーカーもやりたがらないでしょうが、ここはメーカーの良心を信じたいと思います。
また、土なべ用のステンレスプレートのみを販売しているメーカーもあり、土なべサイドも、土なべメーカーで責任を取るのか、それともプレートメーカーで責任を取るのかで、意見が分かれるのではとも思います。
※ヤマト運輸メール便での発送となります。ご了承ください。
※普通の三島土鍋に入れてIH用にすることは出来ません。
色々書きましたが、私は卓上IHクッキングヒーター&土なべでなべ物を自己責任で楽しんでいます。くれぐれも自己責任ですよ…!
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京歴史散歩とラーメンの食べ歩き。