冬の初めにガンガン売れるものといえば加湿器。加湿には4つの方式があり、それぞれに沿った使い方が必要です。「スチーム式」「気化式」「ハイブリッド」「超音波式」の4つの方式の長所、短所を、特に「衛生」面に留意して見ていきましょう。
加湿器が冬に売れる理由
日本、東京は上州(群馬県)から、からっ風が吹きます。もともと日本海からくるこの風は、湿度をたっぷり含んでいるのですが、越後山脈にぶつかるので、湿気はそこで雪になり途中下車します。いわゆる越後の豪雪地帯です。一方、湿度がなくなった空気は、山を越え群馬県へ。冷たい、ほとんど湿気のない風が群馬の県境から一気に、東京湾まで吹き抜けるのです。そんな塩梅ですから、江戸時代は火事が頻発します。いわゆる「火事と花火は江戸の華」というやつです。
この低湿度に乗じて人間を襲うのがウイルス感染症。昔、インフル、今、コロナ。こう書きましたが、インフルエンザはコロナで目立たないだけで、隙をうかがっている感じですね。いずれにせよウイルスは「低湿時」の方がよく感染します。
このため、冬の初め加湿器はガンガン売れるのですが、加湿器には幾つか種類があり、それに沿った使い方が必要です。今回は、それをまとめてレポートします。
加湿器は4種類。単独、複合機がある
加湿器には、4種類あります。「スチーム式」「気化式」「ハイブリッド」「超音波式」の4つです。共通して言えることは、「水」を使うこと。「水」あるところにバイ菌(バイは漢字で「黴」と書きます。黴は「カビ」の胞子を、菌は「細菌」を示します)あり。バイ菌は「水」と「栄養」、特に水があると容易に繁殖します。栄養はどこにと思われるかもしれませんが、空気中のホコリは彼らにとってはご馳走であることが多いです。
このため使う水は、全メーカーが水道水を前提としています。水道水は殺菌もされており、含有物も最も制御された水です。特に、日本の水道水は世界でもトップの安全度を誇ります。逆に、飲料水だからと行ってミネラルウォーターを使うのは、ダメです。時々カビなどが入っていたなど記事が載っているので分かる通り、細菌は水道水より多いですし、過大なミネラルは色々なところに溜まってしまいます。
水が重要であることを理解した上で、各タイプの長所、短所を、「衛生」を中心に見ていきましょう。
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スチーム式加湿器の特徴
今は少なくなりましたが、暖房が石油ストーブ全盛の時代、ストーブの上には必ず水が入ったヤカンがのせられていました。一つは節約のためですね。湯を沸かすのにも結構燃料が必要ですからね。そしてもう一つが、燃焼による乾き過ぎを抑えるためですね。「暖房機」+「加湿器」の傑作と言ってもいいです。そしてある意味最強。欠点は湿度コントロールができないので、結露がすごいのです。まあ、それはさておき、このヤカンはスチーム式です。
そうすると、スチーム式の長所、欠点はもうお分かりですね。長所は、確実な加湿、そして衛生的です。なんせ一度は沸騰させるわけですので、医療でいうところの煮沸消毒に近いものがあります。短所はお湯を使うので、温度が上がるまで効果が出ない。お金がかかる、安全性に配慮する必要があります。
スチーム式加湿器の推しモデル
EE-DC35・50(象印マホービン)
外見は「電動ポット」に似た円柱型。いかにも魔法瓶メーカーが作りましたと言わんばかりのデザインです。まず楽なのが、水の出し入れ。水を扱う家電を得意にしていますので、水の出し入れ口が大きい。そしてフィルターなど、洗いにくいものすらありません。ここは大メリットです。
そして使っている時、穏やかなポカポカ感があります。湿度が高くなると温度は高くなるのですが、それより「温む」という感じで、すこぶる気持ちがいい。私はひどい小児喘息だったので、空気質の雰囲気には敏感なのですが、かなりいいです。いがらっぽい喉が楽になる感じというと分かってもらえるでしょうかね。これはかなりのメリットです。喉が弱い人には是非!という感じです。
気になるのはやはり電気代、カタログ値だと消費電力:985Wですから、概算で26.6円/hrとなります。また、時間あたりに出せる量もやや少なめで、480mL/hr。このため、4Lの「強」モードでも、8/13畳(木造/プレハブ)。このため、リビングではなく、書斎、寝室でゆっくり使う感じです。適所適材です。
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気化式加湿器の特徴
多くはハイブリッド型に
スチーム式が沸騰蒸発なら、気化式は自然蒸発。しかし、水槽に水を貯めているだけではなかなか蒸発しません。このため水を薄いスポンジ状のフィルターで吸い上げ、風を送り蒸発を促します。書くと簡単そうですが、加湿器内にフタのない水槽が設けなければならないこと、そしてそこにバイ菌、ホコリを入れないように設計しなければなりません。あと冬は水の温度が下がるので、蒸発もし難いのです。
このため多くの気化式は、気温によって温風で気化させるハイブリッド式を採用しています。ハイブリッド式には、別の方式もありますが、今、ハイブリッド式というと気化式をベースにしたものです。
長所は、電気代がそれなりで済むことです。またフィルター面積を増やすと加湿量を増やすことができます。しかしフタのない水槽があるので、衛生的には不利です。水が当たる樹脂に、Ag+(銀イオン、抗菌作用がある)を練り込むなど、色々な方法で対応します。
ダイソンの加湿器のように、気化フィルターに水を供給するのに特殊なチューブを使用。中ではバイ菌、ウィルスに効果のあるUV-C(紫外線)が照射されるという凝った仕組みを持つモデルもあります。
気化式(ハイブリッド式)加湿器の推しモデル
LXシリーズ(ダイニチ工業)
ダイニチ工業は、暖房器具、加湿器に特化した新潟のメーカー。完全日本設計、日本生産で、抜群な品質を誇ります。暖房器具を生産しながらも、現在までメーカーリコールが一回もないという、古き良き日本メーカーという感じです。ちなみに、加湿器のシェアは日本市場でNo.1。すごいメーカーなのです。LXシリーズは、その最高峰。LXシリーズが最高峰の理由は、これだけがWiFiで外からでも操ることができるからです。これ結構便利です。
さて使ってみると、謳い文句が伊達ではないところがわかります。まず気化型は、モデルの一番下に水槽を設けます。水は重いし、またあるレベルの空間を設けなければ風を上手く使えませんので、それなりの底面積を取ることになります。しかし、適用畳数に対して大きすぎる加湿器は嫌われます。ダイニチ工業の製品は、この辺り非常にきちんと作られています。畳数に対しコンパクトですし、重さバランスもいい。先日の震度4ではびくともしませんでしたし、中の水も漏れ出すことはありませんでした。
また性能もすごいです。ターボモードだと、なんと1100mL/hr。1Lオーバー。正直、ハイブリッドでも気化型ベースでここまでできるとは思いませんでしたというのが本音です。その割に動作音は小さいです。とても理想的。
そして衛生維持には在らん限りの知恵を使っています。まず水タンクは注水口が大きくとられており、その口には「Ag+抗菌アタッチメントEX」が付けられています。これにより使われる水にはAg+が含まれることになります。7L/日で6ヶ月、総量:1260L使うと交換。次に水槽で水が張られる部分には、カンタン取替えトレイカバーが付けられています。水が入るのは水槽ではこのトレイ部だけ。シーズン毎に取り替えれば問題ないとのことです。また気化フィルターも抗菌仕様。こちらは5シーズン連続使用可です。あとはトレイ仕切り板があるのですが、これは水洗いでOK。すこぶる楽です。交換パーツが多いように感じられるかも知れませんが、衛生は極めるとキーパーツはディスポーザル(使い捨て)になります。実に上手く使っていると感じますね。リビングなどにお勧めの一台です。
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超音波式加湿器の特徴
スチーム式、気化式(含ハイブリッド)は、水蒸気(気体)で空気を潤します。しかし超音波式は違います。超音波でミスト(微細水粒)を作り、空中に放出するのです。水とは水粒ですから液体。気化という相変化ではありませんので、ミストには水成分がそのまま入ります。バイ菌があると、それがミストの中に入り吹き出します。水がいたんでいて臭いなどがあると、その臭い成分が水粒の中に入ります。特に問題はバイ菌が入っている時、バイ菌が繁殖するために必要な水と共に飛散するわけです。超音波式は、最も水の衛生管理に注意しなければならないのです。
一方、メリットはいろいろあります。まず非常にコンパクトに作ることができるということです。これは超音波発生装置が小型なためです。ユニットが小型だということは、どんな形状を取ることもできるということです。このためアーティスティクな形状から、ファニーな形状まで、自由自在です。加えて、いかにも動作していますという感じの、水煙が立ちます。超音波式の加湿器は、基本イケメンなのです。かっこよくて、自分のために働いている感じが伝わってくる結構イケてるモデルなのです。その上、超音波発生機も世に多数出るようになりましたので、安価に作ることができます。別の言い方をすると、参入障壁が最も小さい方式とも言えます。
このため、良いメーカーの製品を購入することです。
超音波式加湿器の推しモデル
STEM630i(カドー)
正直、初めて見た時びっくりしたモデルです。完全にオブジェ、ウケ狙い。しかし、ここまでのレベルに達すると清々しい感じさえします。欧米でも人気があり、今まで湿度にあまり興味を示さなかった欧米にゆっくり染み込んでいる感じです。
こんなに高い位置でミストを出さなくてもと思われる人もいられるかも知れませんが、水蒸気と違ってミストはそれなりの重さを持ちます。このため、なるべく顔の高さまでミストを上げてやると、効果を得やすいのです。
一方、超音波方式ですから、衛生管理は必要。一週間に一度はお掃除が必要です。欠点は容器が大きめであることです。風呂場以外での水対応ができないところです。
とにかくデザインとしての魅力は満点ですから、リビングにピッタリ。前述の気化式ダイニチのモデルは、部屋に溶け込み感じですが、こちらは主張します。そんな雰囲気が好きな人には是非という感じです。
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他の空調家電と一体型となったモデルも
これまでは単独で使う加湿器ですが、最近頑張っているのが他の空調家電に内蔵された加湿器。現在は、大きく3パターンです。「空気清浄機」「暖房」「エアコン」です。これは空調家電数を増やすと部屋が狭くなり、使いにくいということから来ています。極めて日本的な理由であり、日本メーカーが得意な分野でもあります。
しかし、問題もあります。例えば、空気清浄機一体型には、シャープの加湿空気清浄機「KI-NP100」を例に取ります。このモデルは、シャープ最強のプラズマクラスターイオン発生器「プラズマクラスター NEXT」が搭載されています。そして、プラズマクラスターイオンは、カビの発生などを妨げる効果が期待できます。という意味では、とても合理的なのですが、それぞれの機能の適応畳数がかなり異なるのです。
イオン発生器としての適応畳数:約23畳。空気清浄機:〜41畳。加湿機能:~26畳 / ~15.5畳(プレハブ / 木造)という感じです。もし貴方が木造建築に住んでいて全機能を確実に使いたいとしたら、15畳までという感じでしょうか。まぁ、多くの場合、空気清浄機能が一番重要で、他の機能はあれば良いという人もいるでしょう。その時は41畳です。
今まで、空調はCO2量(換気)、温度(エアコン)、湿度(加湿器、除湿機)、気流(扇風機)、空気質(空気清浄機)など、バラバラに進化してきたモノですから、ただ単にくっ付け他だけでは矛盾が生じるわけです。メリットもあれば、デメリットもある。一体型はそんなところがある家電です。
最後に
加湿器の清掃は水回りの清掃ですから、単独で行うと面倒です。例えば食事の洗い物と並行して、風呂のお湯張りと並行してとなると、水系の家事をしているので、負担、特に心理的負担は軽くなります。衛生的に使うというのは、結構面倒なモノですが、加湿器はそれを必要としています。購入時は、生活にこの水ケアをどうするのかを決めて、選択するのも一つです。
加湿器は上手く使えば、ウイルスの流行を抑えることができます。そのためには、上手く使うこと。上手く使うには、使い始めが肝心。どう自分の生活スタイルに合わせていくのかです。それぞれの加湿器の特徴と、自分の性格を考えながら決めていただけると幸いです。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京歴史散歩とラーメンの食べ歩き。