体力に自信がないかた向けに、基本のものよりやさしい「イスから立つだけスロースクワット」「腕を胸の前で組んで立ち上がるスロースクワット」「イスの背に手をかけたまま行うスロースクワット」「ひざに負担の少ないスロースクワット」の4つのスロースクワットをご紹介します。それぞれのポイントについて、書籍『いのちのスクワット』著者で東京大学名誉教授の石井直方さんに解説していただきました。
解説者のプロフィール
石井直方(いしい・なおかた)
1955年、東京都出身。東京大学理学部生物学科卒業、同大学院博士課程修了。理学博士。東京大学教授、同スポーツ先端科学研究拠点長を歴任し現在、東京大学名誉教授。専門は身体運動科学、筋生理学、トレーニング科学。筋肉研究の第一人者。学生時代からボディビルダー、パワーリフティングの選手としても活躍し、日本ボディビル選手権大会優勝・世界選手権大会第3位など輝かしい実績を誇る。少ない運動量で大きな効果を得る「スロトレ」の開発者。エクササイズと筋肉の関係から老化や健康についての明確な解説には定評があり、現在の筋トレブームの火付け役的な存在。
▼石井直方(Wikipedia)
▼専門分野と研究論文(CiNii)
本稿は『いのちのスクワット』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
体力に自信がない人のやり方(1)〈イスから立つだけスロースクワット〉
1日1セットから週に2~3回
※2~3を1~3回繰り返して1セット。まずは1日1セットから始める
ふだんの日常生活でイスから立ち上がるときにするといい
体力に自信がないかた向けに、基本のものよりやさしいスロースクワットをご紹介します。ひざに手をつくと、重心を前に持っていけるので、ひざを伸ばす力が弱くても立ち上がりやすくなります。
このイススクワットは、ふだんの生活の中でも実践できます。例えば、これから動こうとして立ち上がるとき、1回で立ち上がるのではなく、このスロースクワットを3回ぐらいやってから立ち上がり、歩き出すといいでしょう。
(1)イスに浅く腰かけ、両手をひざにつく
(2)体を前に傾けて、ゆっくりと4秒かけて立ち上がる(息を吐く)
(3)ひざに手をついたまま、ゆっくりと4秒かけて腰を落としていく(息を吸う)
※(3)は、できればお尻がイスにつく寸前くらいまで下ろしたら、座り込まず、そのまま立ち上がるのがベスト。つらい人は、イスに座ってから立ち上がってもかまわない
※回数は少なめから始め、慣れたら、徐々に回数やセット数を増やしていく
体力に自信がない人のやり方(2)〈腕をクロスしてイスから立つだけ〉
1日1セットから週に2~3回
※2~3を1~3回繰り返して1セット。まずは1日1セットから始める
安全に、かつ効果的に鍛えられる
手をひざについて行うスロースクワットができるようになったら、腕を胸の前で組んで立ち上がるスロースクワットをやってみましょう。手を使わない分、脚の筋力が効果的に鍛えられます。
きつければイスに座って休んでもいいので、イスがある分だけ安心できます。ひざを痛める心配もありません。
(1)イスに浅く腰かけ、両腕を胸の前で交差させる
(2)体を前に傾け、ゆっくりと4秒かけて腰を上げていく(息を吐く)
(3)腕はそのままで、ゆっくりと4秒かけて腰を落としていく(息を吸う)
※(3)は、できればお尻がイスにつく寸前くらいまで下ろしたら、座り込まずに、そのまま立ち上がっていくのがベスト
本稿は『いのちのスクワット』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
体力に自信がない人のやり方(3)〈つかまりスロースクワット〉
1日1セットから週に2~3回
※2~3を1~3回繰り返して1セット。理想は3セットだが、まずは1セットから
背中をそらさない! ひざを痛めるおそれ
年輩のかたは、体を前に倒すことに恐怖心を持つ人が少なくありません。このため、体をまっすぐにするつもりが、背中をそらしてひざが前に出てしまう人がいます。これではひざを痛める可能性があります。また、内股になったり、背中が丸まりすぎたりするのも×です。
(1)両手をイスの背にかける
(2)イスの背に手をかけたまま、体を前に傾けて、ゆっくりと4秒かけて腰を落としていく(息を吸う)
(3)ゆっくりと4秒かけて腰を上げていく(息を吐く)
ポイント
▼上体は前に傾けてしゃがむ
体をかぶせたほうがひざへの負担は少ない
▼心配な場合は座るイスを用意
ひざ・足首に不安がある人のやり方〈ワイドスロースクワット〉
1日3セットを週に2~3回
※2~3を5~8回繰り返して1セット
北里大学との共同研究で実施したスロースクワット
ひざに負担の少ない「ワイドスロースクワット」です。相撲の四股を踏む姿勢に似ているので「相撲スクワット」と呼んでもいいでしょう。足幅を広くして、相撲の四股を踏むようにスクワットを行うと、ひざの痛みが出にくいのです。ひざ周辺の筋肉強化ができれば、ひざ痛の軽減にも役立ちます。
私たちが北里大学との共同研究で、70歳以上の糖尿病の患者さんに実際にやっていただいたスクワットです。高齢の患者さんは、ひざを痛めている人が多いので、糖尿病&ひざ痛でお悩みのかたはぜひ試してみるといいでしょう。
また、足首が硬いと、基本のスクワットをしたとき、かかとが浮いてしまうことがあります。そうしたかたも相撲スクワットであれば、足首に負担かからず、安全です。
(1)足を肩幅の1.5倍(約80cm幅)に開いて立ち、ゆっくりと4秒かけて腰を落としていく
(2)ゆっくりと4秒かけて腰を上げていく
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なお、本稿は書籍『いのちのスクワット』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。筋トレは、いくつになっても始めることが可能で、いくつになっても効果をもたらします。90代のかたも決して例外ではありません。著者の石井直方先生が、がんの治療中に行っていたスクワットも、スロースクワットだったと言います。「入院中のスクワットは、まさしく私のいのちを支え続けたといっても言い過ぎにはならないと思います」(石井直方さん)。本書は「スロースクワット」の効果と方法について、石井直方さんご自身の体験もふまえながら、一般の方向けにやさしく解説した良書です。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※(4)「【基本のやり方】スロースクワットのポイント 呼吸・股関節・ひざ|筋肉博士・石井直方さんが解説」の記事もご覧ください。