家を出るまでにたっぷり時間があったはずなのに、なぜか出発の予定時間を過ぎてしまうというのも、発達障害のある人にはよく起こることです。何を着ていくか、何を食べるか迷ったり、途中で別のことをし始めたりと、滞りが生じやすいのです。ここに時間感覚の弱さも加わり、「まだまだ余裕」とのんびりしているうちに、あっという間に時間が迫っているなどということも起こりがちです。日常生活に影響する特性や対策について、書籍『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』監修者の太田晴久さんに解説していただきました。
解説者のプロフィール
太田晴久(おおた・はるひさ)
昭和大学附属烏山病院 昭和大学発達障害医療研究所 准教授。2002年昭和大学医学部卒業。昭和大学精神医学教室に入局し、精神科医師として勤務。2009年より昭和大学附属烏山病院にて成人の発達障害専門外来を担当している。自閉症の専門施設であるUS Davis MIND Instituteへの留学を経て現職。とくに思春期以降の成人を中心とする発達障害の診療や研究に取り組んでいる。
▼昭和大学発達障害医療研究所(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(KAKEN)
本稿は『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/春野あめ、望月志乃、とげとげ。、大橋諒子、ユキミ
日常生活の困った!身支度に時間がかかる
朝ちゃんと起きても遅刻してしまう
朝、家を出るまでにたっぷり時間があったはずなのに、なぜか出発の予定時間を過ぎてしまうというのも、発達障害のある人にはよく起こることです。
起きてから出かけるまでにするべきことや、その順番が決まっていないと、とたんに効率が悪くなります。何を着ていくか、朝食に何を食べるか迷ったり、何かしている途中で別のことをし始めたりと、滞りが生じやすいのです。
ここに時間感覚の弱さも加わります。「まだまだ余裕」とのんびりしているうちに、あっという間に時間が迫っているなどということも起こりがちです。
解決のヒント(1)朝の支度をルーティン化する
せっかく早く起きたのに遅刻……とならないように、起きてから出かけるまで、身支度の流れを書いた「やることリスト」を作り、目につくところに貼ります。
さらにスマホのタイマー機能や時間管理アプリを使い、一つのことに時間をかけすぎないようにするとよいでしょう。
出かけるまでの身支度の流れがルーティン化すれば、途中で、別のことをし始めたり、考え込んだりするおそれがなくなります。
時間がかかりやすい服選びは、ボトムスを2~3種類に絞る、靴下は何にでも合う黒だけにするなど、ある程度決めてしまえば迷いを減らせます。朝食のメニューをパターン化させておくのも、おすすめです。
朝のやることリストを作る
(1)やることをリストにする
(2)それぞれ何分かかるか時間をはかる
(3)見えるところに貼り、タイマーをセットする
朝食の献立や着ていく服を決めておく
「パン+サラダ+ウインナー」「ごはん+味噌汁+目玉焼き」など、朝食のパターンを決めて用意しておく。服は、週末に1週間分のコーディネイトを考えておいたり、雨の日に着る服を決めておいたりする
▼時間のかかる作業から始める
時間がかかるメイクなどは、朝起きて一番に済ませてしまえば、あとの流れに余裕が生まれやすい。時間をかけすぎないよう、作業の前にタイマーをかけよう
本稿は『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
解決のヒント(2)余計なことに惑わされない工夫をする
「やることリスト」を作っても予定通りに進められないこともあります。不注意や衝動性といった特性が強く、身支度の途中で関係ないことをして、予定がどんどんずれているのかもしれません。余計なことを思いついたら、とりあえずメモをしてみると、衝動性が抑えられることがあります。
また、一旦何かを始めると過集中になりやすく、時間を忘れて作業に没頭することも。そういうときは、時計をあちこちに置いたり、周囲に声をかけてもらったりしましょう。してもしなくてもよいことを「やることリスト」に入れておき、時間に余裕を作っておくのも手です。
それ以外にも、出かける前にモタモタしてしまう原因を探り、個別の対処法を考えましょう。
急に気になったことは一旦メモする
気になったら今やってしまいたい、あと回しにしたら忘れてしまうからと、予定外のことをやり始めるのは遅刻のもと。メモをしてあとで見返そう
アナログ時計をあちこちに置く
アナログ時計は針の動きで時間の経過が視覚的にわかりやすい。壁にかけるだけでなく、洗面所、テーブルの上など、目につくところに置いておく
ゆとりの時間を予定に組み込む
「お茶をいれて飲む」といった、してもしなくてもよい作業を予定に組み込んでおくと、準備に予想外の時間がかかったときに、調整しやすくなる
周囲に声をかけてもらう
起きる時間、出発する時間などの予定を、家族共有のホワイトボードなどに書いておき、家族に促してもらう。声をかけてもらったら、きちんと感謝を
よくあるモタモタの原因の対処法
物を探して遅くなる場合
持ち物は、前日の夜にすべてバッグに入れておくか、1か所にまとめておき、「あとはバッグに入れるだけ」の状態にしておく。「明日でも大丈夫」は危険
スマホチェックをしてしまう場合
少しでも時間があるとスマホでSNSチェックなどを始めてしまう人は、早めにバッグにしまうか、時間制限アプリなどを使って、「やめる時間」を明確にしておく
気分がすぐれない場合
夜更かし、睡眠不足などで目覚めが悪いと気分がすぐれず、身支度ももたつき気味になりやすい。すっきり目覚められるような工夫も必要
まわりができること
時間内に自分でできるようフォローを
時間の管理が苦手なのは、本人の特性の一つです。「いつまでやってるの」という非難めいた言葉を浴びせても、時間の感覚が身につくようにはなりません。
前日に予定を聞いておき、「やることリスト」の内容と時間を一緒に見直すようにする、身支度に時間がかかっているときは、「もう〇分前だよ」などと声をかけるなどといった形でフォローしていくのがよいでしょう。
気が散りやすいので、出かける前にはテレビをつけないようにするのが無難です。
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なお、本稿は書籍『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。発達「障害」という名前はついていますが、本来、人の脳の発達はさまざまです。しかし、できることとできないことの偏りが強すぎてアンバランスになると、社会生活を送るうえで困ることが増えてきます。障害があってもなくても、そういう日々の「困った」によりそえるよう、たくさんのヒントを詰め込んだ本書は、当事者のかたが考え出したアイデアや、工夫して行っていることも掲載されています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※(6)「大人の発達障害「対人関係の困った」相手の言葉を理解しづらい〈解決のヒント〉」の記事もご覧ください。