発達障害の特性から、相手の言葉を理解しづらいことがあります。口で言われただけでは理解が追いつかない、あいまいな指示がわからない、急に話しかけられると聞き取れないなど、耳で情報をとらえるのが苦手なのかもしれません。対人関係に影響する特性や解決のヒントついて、書籍『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』監修者の太田晴久さんに解説していただきました。
解説者のプロフィール
太田晴久(おおた・はるひさ)
昭和大学附属烏山病院 昭和大学発達障害医療研究所 准教授。2002年昭和大学医学部卒業。昭和大学精神医学教室に入局し、精神科医師として勤務。2009年より昭和大学附属烏山病院にて成人の発達障害専門外来を担当している。自閉症の専門施設であるUS Davis MIND Instituteへの留学を経て現職。とくに思春期以降の成人を中心とする発達障害の診療や研究に取り組んでいる。
▼昭和大学発達障害医療研究所(公式サイト)
▼専門分野と研究論文(KAKEN)
本稿は『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/春野あめ、望月志乃、とげとげ。、大橋諒子、ユキミ
対人関係の困った!相手の言葉を理解しづらい
耳で情報をとらえるのが苦手なのかも
発達障害の特性から、聞いたことをすぐ理解できなかったり、覚えられなかったりすることがあります。
そこで「何でしたっけ」と質問して、「聞いていなかったのか」と怒られると、次回からは質問できなくなる人もいるでしょう。しかし、わからないまま自己判断で作業をすると、間違いを叱責されて悪循環に陥る……という結果になります。
また、遠回しな表現や言外の意味を理解しづらい場合は、「あれ取って」「だいたいでいいよ」といった抽象的な指示がわかりません。
何かに集中しているときに話しかけられると、気づかなかったり、内容が理解できなかったりもします。
解決のヒント(1)聞いたらすぐ文字化して確認をする
聞いたことをすぐに忘れてしまうのは、聴覚よりも視覚のほうが優位だからかもしれません。「聞いて覚えよう」と思わずに、メモを取って「見て覚える」ようにしましょう。
その場で目についた紙に走り書きをすると、そのメモをどこかに置き忘れてしまうおそれがあります。メモ帳は1冊に決めて、ペンとともにポケットに入れて持ち歩きましょう。
聞きながら書くのが苦手な場合は、相手の許可を取って会話を録音したり、音声入力機能を使ってすぐに文字化したりすると便利です。
ただし、いずれも記録したことに満足して、確認するのを忘れることがあります。内容が頭に残っているうちにチェックし、聞きもらしがないか、相手に確認をしましょう。
いつでもメモ帳を持っておく
呼ばれてからメモ帳を取りに席に戻るということがないように、メモ帳とペンはつねにポケットに入れておく。メモ帳は1冊に絞ること
録音や音声入力を使う
話を聞きながら同時にメモをするのが苦手なら、先方に断って録音機器や音声入力レコーダーを使う。メモを取って「聞く姿勢」も見せるとなおよい
メールなどですぐに確認
聞きもらしや勘違いがあるかもしれないので、自席や社に戻ったら聞いたことをすぐに文字化して、相手にメールなどで内容を再確認する
わかる範囲で早めに作業
聞いたことを覚えているうちに、早めに作業に取り掛かり、わかる範囲までやったところで、相手に「これでよいか」の確認を取る
本稿は『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
解決のヒント(2)あいまいな指示は具体的に聞く
「書類にミスがないか確認して」と言われて「ミスが3か所ありました」と報告すると怒られた……などという話は、発達障害がある人の経験談によく出てきます。
相手の指示が「ミスの内容を検討して対策案を出して」、もしくは「直しておいて」という意図を含んでいても、言外の意味をとらえるのが苦手な特性があると、そこまでの推測ができません。指示された仕事はきちんとやっているのですが、職場の人からは「気がきかない」と思われてしまいます。
こういう場合は、「ミスがあったらどうすればいいですか」と重ねて質問をすれば、すれ違いが防げます。「なるべく」「だいたい」などのあいまいな指示を受けたときも、具体的な質問を返しましょう。
誤解が生じやすい言葉とその対応
相手の指示がはっきりしないときは、「こういうことかな?」と思う具体的な内容を示して、聞き返しましょう。
あれ取ってと言われたら…
たいていの人は、その前にしていた会話の流れや相手の視線から、「あれ」が何なのか推測できるが、推測が苦手な人にはわからない
NG「あれって何ですか?」
OK「テーブルの上の箱ですか?」
時間のあるときにやってと言われたら…
「時間がなければやらなくてもよい」と受け取ってほうっておくと、怒られることがある。具体的な期日を確認しておく
NG「時間がなければやらなくていいですか」
OK「今月はイベント前で忙しいのですが、その仕事は期限がありますか?」
なるべく早くお願いと言われたら…
作業中の仕事をいったん止めてまで急いだほうがいいのか、終わってから取り掛かっても間に合うのか、具体的な納期がわからない
NG「なるべくっていつですか」
OK「明日締め切りのA社の仕事をしているのですが、それよりも急ぎの仕事でしょうか?」
だいたいでいいよと言われたら…
相手の言う「だいたい」と、自分の思う「だいたい」は違う。そもそも「だいたい」が客観的にどの程度を指すのかわかりづらい
NG「だいたいと言われてもわかりません」
OK「問題点を箇条書きにして、A4用紙1枚にまとめればよいでしょうか?」
解決のヒント聞き取れないときは再度言ってもらう
注意の対象を切り替えるスピード(スイッチング)が早い人は、仕事に集中しているときに話しかけられても、すぐに対応できます。しかし切り替えが苦手だと、ぐっすり寝ている人を突然起こしたようなもので、瞬時に対応できません。
とくに過集中の人にはその傾向があるので、自分の特性を伝えたり、失礼のない範囲で聞き返したりしましょう。
とりあえずわかるところを復唱
相手の言葉で聞き取れたところだけでも、「A社の件ですよね」「企画書の件ですか?」などと復唱すれば、「聞いていない」と思われることだけは避けられる
もう一度言ってもらう
「すみません、集中していて聞き取れなくて……もう一度言っていただいてもいいですか?」と丁寧に伝えれば、相手もイヤな気分にならないはず
まわりができること
指示の仕方を見直す
口だけで次々に指示を与えるのではなく、紙に書いて渡すと確実でしょう。
「なるべく早く」「できるときにやって」などの言葉は、あいまいすぎてわかりません。「15時までに」「A社の仕事が終わったら」などと具体的に指示しましょう。
騒がしい場所や、相手が聞く準備をしていないときに指示をすると、内容を記憶しづらくなります。なるべく周囲が静かなところで、1対1で話すようにしたり、「〇〇さん」と名前を読んで注意をこちらに向けてから話し始めたりしましょう。
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なお、本稿は書籍『大人の発達障害 仕事・生活の困ったによりそう本』(西東社)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。発達「障害」という名前はついていますが、本来、人の脳の発達はさまざまです。しかし、できることとできないことの偏りが強すぎてアンバランスになると、社会生活を送るうえで困ることが増えてきます。障害があってもなくても、そういう日々の「困った」によりそえるよう、たくさんのヒントを詰め込んだ本書は、当事者のかたが考え出したアイデアや、工夫して行っていることも掲載されています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
※(5)「大人の発達障害「対人関係の困った」自分ばかり話してしまう〈対策法〉」の記事もご覧ください。