コロナ疲れに自粛疲れ。「いい加減にしてくれ!」と、誰かに八つ当たりしたい気持ちにもなるような時代に生きていると、知らず知らずのうちにストレスがたまります。こういう時代だからこそ、大いに笑えて心も癒やされる生き方のコツや、コロナ禍での過ごし方について、書籍『我が家は前からソーシャル・ディスタンス』著者で漫談家の綾小路きみまろさんに教えていただきました。
著者のプロフィール
綾小路きみまろ(あやのこうじ・きみまろ)
1950年、鹿児島県生まれ。漫談家。落語協会会員。司会者を目指し上京。その後、キャバレーの司会者や森進一、小林幸子、伍代夏子ら演歌歌手の専属司会者を経て、中高年の悲哀を題材とした自作の漫談テープがきっかけとなり、2002年にCD『綾小路きみまろ 爆笑スーパーライブ第1集! 中高年に愛を込めて…』をリリース。185万枚超の売り上げを記録し、以降、「中高年のアイドル」としてライブをはじめ、各メディアで絶大な人気を誇る。現在もライブツアーをはじめ、YouTubeチャンネルを開設するなど、精力的な活動を続けている。CD・DVD総売り上げ520万枚超、著書累計200万部超。
▼公式ホームページ
▼公式YouTube「綾小路きみまろ公式チャンネル」
▼公式Instagramアカウント
本稿は『我が家は前からソーシャル・ディスタンス』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
イラスト/おおさわゆう
どうぞ声を出して笑ってください
皆様、お元気で過ごされていらっしゃいますか。毒舌漫談家、綾小路きみまろでございます。
52歳でブレイクし、世間の皆様に名前を覚えてもらって18年、私もとうとう70歳となりました。中高年の悲哀をネタにして参りましたが、私自身がシニアの沼にどっぷりとハマッております。
コロナ禍の前は、3人集まれば病気の話、5人集まればお寺の話。ダンス教室に通えばジルバを踊る、ジジとババ。奥様に至っては、補聴器みたいなイヤリングをつけ、シルクのようなポリエステルの服を身にまとってお出かけ……こんなことも、コロナのせいでできなくなったのです。
コロナ疲れに自粛疲れ。「いい加減にしてくれ!」と、誰かに八つ当たりしたい気持ちにもなります。このような時代に生きていると、知らず知らずのうちにストレスがたまります。大いに笑いたい、大いに人生を楽しみたい。でも、どこかで誰かに遠慮しなくてはいけない。なかなか難しい時代に突入しています。
ですが、大変な時代であっても、コロナ禍は戦時下とは違います。一人であれば、誰にも遠慮することなく笑っていいのです。いや、笑ったほうがいいのです。声を出して笑ってください。笑うという行為は、動物のなかで人間だけに許されたものだそうです。そして、笑うことは、免疫機能を高めることも実証されています。
本稿は、中高年の皆様の他愛もないお悩みを勝手に想像し、勝手にご返答を差し上げた、奥様のパンツのゴムぐらいゆるい内容となっております。ただ、私も立派な前期高齢者となりました。皆様のお気持ちに寄り添えた解決策を散りばめられた、と自負しております。何か一つでも、皆様の人生のヒントになる部分が見つかれば幸甚です。
人生は死ぬまでのひまつぶし
コロナ禍で畑仕事への熱が復活
私にとって、コロナ禍でいちばん変わったことと言えば、私のライフワークであった畑仕事への熱が復活したことでしょうか。
40代の頃、私は山梨県の河口湖に家を建てました。そして毎年、畑でさまざまな野菜を育ててきました。畑仕事への熱が冷めたわけではなかったのですが、忙しくて時間がなかなか取れない時期が続いていたのです。
ところが、コロナ禍で公演がバタバタと延期・中止になっていったのが2020年の2~3月頃のこと。これがちょうど、畑を耕す時期と重なっていました。そこで、自宅にこもって、再び野菜づくりに精を出すことにしたのです。土に還る前の土いじりですね。
農作業の醍醐味
富士山の残雪が、春が近づくにつれて鳥のような形に浮かび上がる時期があります。地元では「農鳥」と呼ばれて、近隣の農家にとっては、それが見える頃が畑を耕し始めるサインになっています。江戸時代から続く地元農家の習慣だそうです。私もその農鳥を確認して、カボチャ、ナス、ニンジン、大根などなど、いろんな野菜を植えました。
日本に新型コロナウイルスがやってきて、世の中が騒がしくなっていた頃、私は濃厚接触ではなく”農耕接触”していたわけです。
農作業の真髄といえば、作物とともに自分が成長できること。成功や失敗なんて関係ない。「生き物を育てているんだ!」と実感できるのが醍醐味ですね。
そして、採れたての野菜は、料理上手な妻の手によって、さまざまな絶品料理に様変わりします。私は青虫か毛虫か!ってぐらい、野菜のオンパレードなのです。それを毎回、おいしく、ありがたくいただいております。
100円で買ってきたキャベツの苗
ある一般男性から、家庭菜園について、こんな嘆きを聞かされたことがあります。
そのかたは私に刺激を受けて、農作業をしてみたいと思って家庭菜園を始めました。農地は役所が貸してくれて、レンタル料は一区画で1年・1万円だったそうです。
ところが、100円で買ってきたキャベツの苗を春に植えて、夏にようやく育ったキャベツは虫食いだらけで、見るも無残!奥様には「そんなものは食べられない」と拒否されて、結局、その日にスーパーで1玉99円の、キレイで大きなキャベツを買う羽目に……。
育てたキャベツは食べてもらえず、結果はマイナス1円と長期間の苦労のみだったそうです。
本稿は『我が家は前からソーシャル・ディスタンス』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。
ファンデーションも泥も大差ありません!
家庭菜園の基本は、儲けや得を期待しないことが大切です。しょせん、素人が作る野菜なんて量もわずかだし、見た目も悪い。「家計を助けるために家庭菜園をやろう!」なんていう下心など、持ってはいけません。私もかつてそうでした。
家庭菜園を始めた頃は、育ったニンジンや大根が小さくて、細い。ところがスーパーに行くと、皮肉にも、立派な農産物が安く売っているんです。
スーパーの野菜を買って帰って、夜中にこっそり自分の畑に行って差し込もうかと、泣きたくなるほどみじめな計画を画策したこともありました。「こんな立派な大根ができました!」と、近所に配って見栄を張ろうとしてね。
それで、スーパーの立派な野菜を見てガックリきた私は、「ああ、やっぱり簡単にお金は入ってこないんだ。俺には漫談しかないんだな」と、改心したわけです。
え、最後だけいい話のようにまとめやがったな、と思われましたか?
いやいや、本当に、それほど一から野菜を育てるというのは、簡単なことではないのです。精魂込めて作った野菜を、山から下りてきたサルが精魂込めて食べている、なんてこともザラですからね。だから、もし家庭菜園を始めようとお考えの皆様は、まずは雑念を捨てて、純粋に土いじりを楽しみ、作物を作る喜び、育てる喜びを知ってほしいですね。
ちなみに、血圧が200くらいあった私の知り合いは、畑を耕すようになって、なんと120まで下がったといいます。おかげで薬も飲まなくなり、今でも「楽しい、楽しい」と、毎日のように畑に出ているそうです。実に健康的な趣味ですね。
「土いじりは嫌い。だって汚れるんだもん」
そんなことを言うご婦人もいらっしゃるかもしれません。でもご安心ください。奥様だって、久々にお化粧をしたら、ご主人が思わず後ずさりしていたでしょう。ですから、ファンデーションも泥も大差ありませんよ!
泥まみれになって、心地よい疲れを味わう……まずはプランターで苗を育てるところからでもけっこうです。ぜひ、土いじりの魅力を体感してほしいと思います。
運命のいたずら
40代の頃、私は畑を耕しながらネタを練習しては、全国のパーキングエリアに出向いて観光バスの添乗員さんたちに、私の漫談を録音したカセットテープを配っていました。これが次第に口コミで話題となり、2002年にCDをリリースし、ブレイクすることができました。キャバレーで司会業をしていた頃から始まった、長い30年間の下積み時代を経てのブレイク。「潜伏期間30年」の経験が糧となり、今の私があります。
不思議なものです。「自給自足の生活も悪くないな」と思っていたらブレイクして、ほとんど畑に行けなくなった。ところが、コロナ禍になり、再び畑と向き合えるようになったのです。
濃厚接触を避けて農耕接触ができるようになったのは、運命のいたずらなのかもしれません。
人生は死ぬまでのひまつぶし。コロナで世間はまだ混乱していますが、もう少し前向きに、気楽に生きていこうと思います。
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なお、本稿は書籍『我が家は前からソーシャル・ディスタンス』(マキノ出版)の中から一部を編集・再構成して掲載しています。コロナ疲れに自粛疲れ。知らず知らずのうちにストレスがたまる日々。大いに笑いたい、大いに人生を楽しみたい。でも、どこかで誰かに遠慮しなくてはいけない。なかなか難しい時代ですが、一人であれば、誰にも遠慮することなく笑っていいのです。本書は、ただひたすらに笑ってほしいと願う著者が、中高年の悩みを一“笑”両断した内容となっています。また公演内容をもとに再構成した紙上漫談も収載されています。詳しくは下記のリンクからご覧ください。
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