最近耳にすることが増えた、仮想空間「メタバース」。どのような世界のことを指すのか、なぜ注目されているのか、具体的にどんなサービスがあるのか等、メタバースを理解する上で押さえておきたい基礎知識を初歩から解説します。
メタバースとは?
「メタバース」という言葉が注目されるようになったのは、昨年10月に、Facebook社が「Meta(メタ)」と社名を変え、今後はメタバース関連事業に力を入れていくと表明したことがきっかけでした。
その後、Microsoftやナイキ、ディズニーといった世界の有名企業も続々とメタバースへの参入を表明。日本国内でも、企業向け・個人向けともにさまざまなメタバース関連サービスが次々と登場しています。
メタバースの語源
メタバースの語源となっているのは、1992年に発表されたアメリカのSF作家、ニール・スティーヴスンによる小説『スノウ・クラッシュ』に登場する仮想空間。この作品では、オンライン上に作られた仮想空間「メタバース」と現実の世界を人々が行き来する様子が描かれています。
とはいえ、現在「メタバース」と呼ばれているプラットフォームなどのサービスは、この作品で描かれているような「専用のゴーグルをつけて、現実世界とは全く別の空間に入っていく」世界観のものだけではありません。後述するように、より広い意味合いをもってこの言葉が使われているのが現状です。
メタバースの定義
じつは、現時点では、「メタバースとは何か」という明確な定義は定まっていません。そのため、「メタバースのサービス」として提供されているサービスも、そのスタイルや用途は多岐にわたっています。
たとえば、誰もが自由に入ることのできる仮想空間内で他の人と交流できるサービスもあれば、会議室のように限られた人だけでの利用を想定したサービスもあり、その空間にも、架空の街や部屋として作られたものもあれば、実在の街を忠実に再現したものもあります。
広い意味では、「オンラインの空間内で、自分の分身となるキャラクター(アバター)などを使って、臨場感を感じながらリアルタイムで人と交流できるもの」を指してメタバースと呼ばれることが多いです。
メタバースが注目されている背景
では、なぜ今ここまでメタバースが注目されているのでしょうか?
「仮想空間に集まって交流する」という概念自体は、とくに新しいものではありません。たとえば、2000年代に流行した『セカンドライフ』というサービスは、ユーザーがネット上の仮想世界でアバター姿で生活し、その空間内で商業活動をすることも可能でした。セカンドライフ人気は、その後数年で下火になってしまいましたが、「だから今回のメタバースブームも定着しない」とは言い切ることもできません。セカンドライフが注目された2000年代後半と今では、状況が大きく異なるためです。
まず、通信環境が大きく向上したことに加え、スマホが普及したことで誰もが簡単にネットサービスを利用できるようになりました。さらに、この2年のコロナ禍でWeb会議やオンラインイベントなどが普及し、リアルで会わずに人と交流することの心理的ハードルも下がっています。
そのような背景を考えると、今はメタバースが普及する土壌が整いつつある状況ともいえるのです。
メタバース=VRではないの?
仮想空間での交流というと、ヘッドセットを被って利用する「VR」(仮想現実)を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか?
確かにVRは、メタバース系のサービスで広く利用されている重要な技術ですが、「VRでなければメタバースではない」というわけではありません。
たとえば、Nintendo Switchのゲーム『あつまれ どうぶつの森』は、仮想の世界で生活を営み、他のユーザーと交流したり、その世界で必要なものを購入したりできます。これも、広い意味ではメタバース的な要素を備えたゲームといえるかもしれません。
さらに、VRを使ったメタバースのサービスを利用する場合も、「ヘッドセットを持っていなければ空間に入ることができない」とは限りません。サービスによっては、パソコンやスマホからでも3次元空間にアクセスできるようになっているものもあります。
たとえば、『cluster(クラスター)』というメタバースSNSは、パソコンやスマホからでも、VRヘッドセットからでも同じ仮想空間に入ることが可能。アプリをインストールするだけで手軽にVR空間を体験できるようになっています。
メタバースとNFTの関係
メタバースとセットで耳にすることの増えた単語に「NFT」があります。NFTとは、「Non-Fungible Token」(=非代替性のデジタル資産)を指し、簡単にいうと、オンラインでやりとりされるデータに「唯一無二のものである」という証明をつけることのできるもの。
通常のデジタルデータは、簡単にコピーできてしまいます。データをNFT化することで、替えのきかないオリジナルのものとして価値を高めることが可能になるのです。
メタバース空間では、アバターの服や小物をNFT化して販売したり、アバターのなりすましを防止したりといった使い方が期待されています。ただし、NFTがメタバースに必須というわけではなく、あくまでも関連性のある技術のひとつという位置づけです。
メタバースが体験できるSNS
では、具体的にどのようなサービスがあるのでしょう? メタバースを体験できるサービスやアプリ、イベントを分野別に簡単に紹介します。
VRChat(ブイアールチャット)
2017年から提供されている定番サービス。VR空間内に「ワールド」とよばれるさまざまな部屋があり、ユーザーはアバター(分身)の姿でその中で自由に活動できます。VRヘッドセットのほか、Windowsパソコンからもアクセスが可能です。
cluster(クラスター)
こちらもさまざまなワールド(部屋)が用意されていて、好きなところに自由に出入りできます。イベントの開催も多く、VRヘッドセット、パソコン、スマホ、タブレットのいずれでもアクセスが可能。スマホならアプリから簡単に使えるので、初心者にもおすすめです。
メタバースが体験できる会議・オフィス
Horizon Workrooms(ホライゾンワークルームス)
Meta(旧Facebook)による会議ツール。VR空間内の仮想会議室に参加者が集まり、アバターの姿で会議ができます。パソコンの画面をVR空間内に表示したり、空中に浮かんだホワイトボードに文字を書いたりも可能。利用には原則として同社のVRヘッドセット「Quest2」が必要です。
oVice(オヴィス)
オンライン上の「仮想オフィス」に入ることで、他の人と音声で会話をしたり、ビデオ通話をしたりできるツール。テレワーク中の「バーチャル出社」などに使われています。平面的な画面内にアイコンと名前が表示される仕様で、パソコンから簡単にアクセスできます。
メタバースが体験できるショッピング
REV WORLDS(レヴワールズ)
伊勢丹新宿店を仮想空間に再現したもので、スマホアプリとして提供されています。仮想の店舗内を歩き回って商品を見たり、そこからECサイトに移動して実際にその商品を購入したりも可能。過去にこちらの記事でもレビューしています。
メタパ
仮想空間に複数の店舗を集めた「バーチャルショッピングモール」で、スマホアプリとして提供されています。現在利用できるのは、ガジェットなどを販売する「b8ta」とジーンズ専門店の「桃太郎ジーンズ」の2店舗のみですが、商品情報を見たり実寸サイズの商品を確認したりが可能で、そのまま購入することができます。
まとめ
近年注目されているメタバースは、オンラインの空間内で、自分の分身となるキャラクター(アバター)などを使って他の人と交流できるもの。昨年、Facebookが「Meta」と社名を変え、メタバースに注力していくと表明されたのを機に、一気に注目度が高まりました。
SNSや会議、ショッピングなどさまざまな分野で使われており、今後、さらに広く利用されるようになっていく可能性があります。VRヘッドセットを持っていなくても、パソコンやスマホから気軽に利用できるサービスもあるので、ぜひ体験してみてください。
文◆酒井麻里子(ITライター)
スマホ、PC、ガジェットなどのデジタル製品レビューや、アプリ・サービスの解説記事などを執筆。Twitter(@sakaicat)では、デジタル関連の気になる話題や、ちょっと役立つ小ネタを発信。