〈SDGsで変わる消費生活〉どう違う? 食品ロスとフードロス 取り組む人は意外と多い「58.8%」

暮らし・生活・ペット

「食品ロスを減らしましょう」って呼びかけを見聞きするけど、「食品ロスって何?」と訊かれたら、ちゃんと答えられますか?「フードロス」という言葉も聞くけど、食品ロスと同じ? それとも違うの?食品ロスの削減は、SDGsの目標12でターゲットにされる世界的な課題です。でも、日本の食品ロスは、世界とはちょっと違うみたい……。それでも、ちゃんと知れば、減らせます。やってる人は何しているのかも確認してみましょう。さらに、減らせる工夫は、まだまだあります!

食品ロスの現状

まずは知らなきゃ、減らせない!

食品ロスとは、「まだ食べられるにもかかわらず捨てられてしまう食品」のことです。
図表(1)-1のように、日本では環境省と農林水産省が共同して「食品ロス排出量(推計値)」を調べています。「事業系」と「家庭系」に大別され、それぞれの系ごとに2030年度までに2000年度比で「半減」させるという目標も掲げています。

図表(1)-1

現時点で公表されているのは、2019年度の推計値までで、4年前から減少傾向にあることが分かります。「1人当たりの換算量」も、過去7年間で最も少なくなりました。

しかし、コロナ禍に突入して以降、家庭からのごみ排出量が増えていると言われます。2019年度の推計値では、事業系54%に対して家庭系46%でしたが、もしかしたら、コロナ禍によってパーセンテージが逆転してしまったかもしれません。

図表(1)-2で、その「食品ロスの内訳」も確認してみましょう。

図表(1)-2

事業系は「製造業」「卸売業」「小売業」「外食業」の4つの業種に分類され、2019年度には「製造業」、次いで「外食業」での食品ロスが多かったようです。

一方、家庭系のロスは「食べ残し」「直接廃棄」「過剰除去」の3つに分けられ、2019年度には「食べ残し」や「直接廃棄」による食品ロスが多かったようです。

もっとも、これでは具体的にどんな食品ロスなのか、よく分かりません。そこで、もう少し具体的に食品ロスの原因をまとめてみました。図表(2)です。

図表(2)

製造業の食品ロスとして多いのが「製造・加工時に出る余りものや規格外品」です。大きさや重さを揃えるためにカットしたり、カットできないものは規格外品として弾いたりすることでロスが発生します。

外食業でのロスの約8割は「お客の食べ残し」とされます。図表(1)-2のように、家庭でも「食べ残し」が最も多くのロスを招いていましたが、私たちは家庭だけでなく、外食店でも食べ残していたのです。

図表(1)-2

次いで、家庭で多かった「直接廃棄」とは「賞味期限切れなどで手つかずのまま」捨ててしまうことです。「賞味期限」の意味を知っている人なら、賞味期限が切れただけで捨てることはないでしょう。

また、卸・小売業では「納品期限」や「販売期限」によって「返品」や「売れ残り」によるロスが発生しています。

こうした食品ロス。なぜ減らさなきゃいけないのでしょう?

食品ロスを取り巻く状況

なぜ減らさなきゃいけないの?

食品ロスの現状を知っただけでは、なぜ減らさなきゃいけないのか、よく分かりませんよね。

何となく、食べられるのに捨ててしまうのは「もったいない」という気持ちにはなると思います。その気持ちも、とても大切なものですが、もう少し広い観点から「食品ロスを取り巻く状況」も見ておきましょう。

図表(3)は、2019年10月に施行された「食品ロス削減推進法」の基本方針に沿って、まとめてみたものです。「日本の現状」と「世界の現状」に分けています。

図表(3)

まず、日本は食料自給率が低いことが知られています。多くを輸入食材に頼り、家計に占める食費の割合が4分の1に及ぶにもかかわらず、食品ロスを出し、そのために高額な処理費(税金)を負担する一方で、子どもの貧困率は先進国のなかでも高い水準です。

次いで、世界でも食品ロスは深刻です。人が消費するために生産された食料の3分の1が廃棄され、しかも、その生産に伴うCO2排出量は世界全体の約25%にもなるそうです。その一方には、飢えや栄養不良で苦しんでいる人が約8億人もいるうえ、世界の人口は2050年には97億人に達すると予測されています。

さらに、こうした状況に加えて、コロナ禍やウクライナ等各地で勃発する紛争などによって、すでに「食料危機」に陥っていると警鐘を鳴らす専門家もいます。

私たちも、食品やエネルギーなどの価格が相次いで高騰しているため、家計への影響を感じずにはいられません。「もったいない」という気持ちの他にも、「人道的」な気持ち、「環境への配慮」などの感情もわいてくるでしょうし、何より家計の「節約」につながることにも気づくでしょう。

もちろん、家庭で食品ロス削減に取り組んでいる人たちは少なくありません。図表(4)の消費者調査によれば、58.8%が取り組んでいます。彼らは何をしているのでしょう?

図表(4)

何をしているの?

食品ロス削減に取り組んでいる人58.8%

図表(4)-1は、食に関する消費者意識を定期的に調査している日本政策金融公庫による「食品ロス削減への取り組み状況調査」です。2019年1月時の調査に比べ、2021年7月時のほうが食品ロス削減に取り組んでいる人の割合が増えました。

コロナ禍で在宅している時間や家庭で食事をする機会が増えたことから、食品ロスを意識する人も増えたかもしれません。コロナ禍以前の49.8%から58.8%へ、ほんの9%かもしれませんが取り組んむ人が過半数になったのは大きな進展と言えましょう。

では、食品ロス削減に「はい!取組んでいます」という人たちは、何をしているのでしょうか。図表(4)-2に挙げてみました。

図表(4)-2

「スーパー等で値引き商品を買う」とか「買い物前に家庭にある食材を確認する」など、ほんのちょっと気をつけるだけで手軽にできそうなことが上位にきています。

男女で少し違いがあるとすれば、女性のほうが「凍結保存できるもは冷凍保存」したり、「献立を考え、残り物はリメイク」したり、「捨ててしまう部分も調理で活用」する割合が高く、一方の男性は「外食では食べ切れる量を注文」したり、「保存性のある商品」や「バラ売り・小分け商品」を購入したりする割合が高くなっています。

また、「賞味期限切れでも食べている」とか「自炊では料理をつくり過ぎない」などは、男女ともに同じくらいの割合で取り組んでいるようです。

賞味期限は「おいしく食べられる期限」として、「消費期限(安全に食べられる期限)」との違いを知る人も増えました。しかし、どちらも「未開封」の状態で、表示された「保存方法(「要冷蔵」とか「直射日光と湿気を避けて」など)」を守った場合の期限です。そこも忘れないようにしましょう。

そのうえで、私が本当に必要だと思っているのは「開封後の期限」です。開封したらすぐ食べ切ってしまえばいいでしょうが、調味料などのように開封(開栓)後も取っておくものは少なくありません。「開封(開栓)後の保存方法」とともに「目安としての期限」でいいから表示してもらえないものかと思っています。そうすれば、もっと食品ロスを減らしやすくなると思いませんか?

「食品ロス」と「フードロス」調べてみたら…

同じ?違うの?

ここまでは「食品ロス」という言葉を使ってきましたが、「フードロス」という言い方もよく見聞きします。「食品」を「フード」に置き換えただけかと思っていましたら、本当は意味が違うらしいのです。

日本の「食品ロス」は、これまで見てきたように、事業系(製造・卸・小売・外食)と家庭系から排出される「食べられるのに捨ててしまう食品」のことです。

一方の「フードロス」は、国連食糧農業機構(FAO)で「人の消費に当てることのできる食料が、サプライチェーンの様々な段階で失われ、量が減少すること」と定義していると、消費者庁『令和2年版消費者白書』に書かれています。

どう違うのでしょう?

FAOの原文『Global Initiative on Food Loss and Waste Reduction(食料ロスと食料廃棄削減に向けた地球規模の取り組み)』に当たってみることにしました。

すると、
・フードロスは“食料の量または質の減少”
・フードロスの重要な部分は“食品廃棄物”
この2点が、引用符と太字で協調されています。

さらに、「世界的なフードロス」のタイトルで、穀物、イモ類、油糧作物、果実・野菜類、食肉類、魚介類、乳製品のカテゴリー別に、「一次生産」→「収穫後」→「加工」→「流通」→「消費」の各段階で発生するロス率を積み上げたグラフが掲載されています。

ここから分ることは、
・「フードロス」には、食べられるのに捨てられるものだけでなく、食べられないので捨てているもの(もともと食べられない、途中で食べられなくなった)を含んでいる
・日本の「食品ロス」には、「一次生産」→「収穫後」のロスは含まれていない

一般に、原材料の調達から消費者の手に渡るまでを「サプライチェーン」と言います。私たちが手にする食品には、調達された食材が輸送・製造・加工・配送・調理・販売など鎖(チェーン)のようにつながって供給(サプライ)されるものが少なくありません。

先述のFAOでは「フードロス」を「サプライチェーンの様々な段階で失われ、量が減少する」食料と、消費者庁は定義していると言いますが、原文には「サプライチェーン」という言葉は使われていません。たぶん、「一次生産」から「消費」までを「サプライチェーンの様々な段階」と意訳したのでは、と思います。

こうしたわけで、FAOの「フードロス」と日本の「食品ロス」では、意味の違うことが分かりました。

「食品ロス」と「食品廃棄物」

その違いは?

「フードロスの重要な部分は“食品廃棄物”」と、先述のFAOの原文にありました。そのまま素直に解釈すれば、「食品廃棄物」は「フードロス」の一部となりますよね。

しかし、日本の「食品ロス」は、図表(5)のように、「食品廃棄物」の一部です。しかも、その食品廃棄物は、事業系と家庭系に限られています。

日本の「食品ロス」の発生量については、図表(1)で確認しました。それを図表(5)で、日本の「食品廃棄物」に占める割合をみると、約2割です。

図表(5)

では、残りの約8割は何でしょう?

「食品ロス」が「食べられるのに捨てられるもの」なので、残りは「食べられないから捨てられるもの」となります。つまり、「もともと食べられないもの」か「途中で食べられなくなったもの」です。

先述のFAOの「フードロス」には、食べられるのに捨てられるものと、もともと食べられないもの、途中で食べられなくなったものが含まれます。そのうえで、「食品廃棄物」が重要な部分を占めるというのです。

こうして整理していくと、FAOの「フードロス」と日本の「食品廃棄物」「食品ロス」は、図表(6)のように表せそうです。

図表(6)

日本の「食品廃棄物」には、生産現場での廃棄物が入っていませんので、それが何で、どう処理されているのか気になります。

また、食品ロス以外の「食品廃棄物」はどうかも気になります。食品関連事業者には、廃棄物の抑制やリサイクル(飼料化や肥料化など)を促す「食品リサイクル法」があり、リサイクル率の目標も設定されています。しかし、消費者(家庭)は含まれません。

消費者としても、食品ロス以外の「食品廃棄物」を減らしていくことは重要でしょう。とはいえ、まずは「食品ロス」から。

食品ロスを減らす工夫

各事業者がしていること

食品ロスを減らすために、食品関連事業者がしていること、消費者ができることなどを図表(7)にまとめてみました。

図表(7)

製造・加工メーカーは、包材メーカー等と組んで「包装や容器・パッケージの技術開発」を行っています。包材によって食品の賞味期限を延ばすことができるからです。酸化防止やカビなどの菌を制するためのガス充填は代表的な技術です。

しかし、食品ロスを削減できたとしても、包装や容器も捨てればゴミ。食品ロスだけでなく、包装などのゴミも減らせるよう技術開発が続けられています。

また、流通(卸・小売業)では、これまでの取引慣習「3分の1」ルールを見直し、最近は「2分の1」になりました。

3分の1ルールとは、食品を(1)製造日から納品まで、(2)納品から販売まで、(3)賞味期限までの期間を3分割して「納品期限」と「販売期限」を設定した流通業界のルールです。それぞれの期限を過ぎると食品ロスとなり、消費者の手に渡らない前に廃棄されることもありました。これに替えて、納品期限を製造日からを賞味期限までの2分の1にしたところ、製造・卸・小売ともに食品ロスが減ったということです。

私たち消費者にできることは…

私たち消費者も、いろいろ工夫しているとはいえ、図表(7)を見ると、まだまだできることは多いように思いませんか?

たとえば、小売店での買い物時に「てまえどり」を心掛けたり、クリスマスケーキなど季節商品を買う際は「予約」したり、シェアリングサービス、フードドライブなども利用してみてはいかがでしょう。

シェアリングサービスには、安価なイメージもありますが、なかには「アップサイクル(新たな商品にグレードアップ)」して販売されているものもあります。

まとめ

日本の「食品ロス」は、環境省と農林水産省の調査によれば2019年度の推計で年間570万トン発生しています。ただし、この「食品ロス」は、食品に関わる事業者(製造業・卸売業・小売業・外食業)と家庭(消費者)から発生する「食べられるのに捨ててしまっている食品」に限られます。

しかも、この「食品ロス」は、いわば氷山の一角。「食品廃棄物」の約2割です。

さらに、生産の現場で発生しているロスも含まれていません。世界では、FAO(国連食糧農業機構)が「フードロス」についてのレポートを発信しています。その「フードロス」は、生産の現場から消費までに発生する「すべてのロス」を含むようです。日本の「食品ロス」と世界の「フードロス」の違いは、図表(6)で確認ください。

図表(6)

ともあれ、私たちの生活で「食品ロス」が発生しているのも事実。すでに食品ロス削減に取り組んでいる人の事例(図表(4)-2)や図表(7)を参考にすれば、工夫できることはまだまだあります。「食品ロス」を含めた「食品廃棄物」の削減についても工夫したいと思います。

執筆者のプロフィール

加藤直美(かとう・なおみ)

愛知県生まれ。消費生活コンサルタントとして、小売流通に関する話題を中心に執筆する傍ら、マーケット・リサーチに基づく消費者行動(心理)分析を通じて、商品の開発や販売へのマーケティングサポートを行っている。主な著書に『コンビニ食と脳科学~「おいしい」と感じる秘密』(祥伝社新書2009年刊)、『コンビニと日本人』(祥伝社2012年刊、2019年韓国語版)、『なぜ、それを買ってしまうのか』(祥伝社新書2014年刊)、編集協力に『デジタルマーケティング~成功に導く10の定石』(徳間書店2017年刊)などがある。

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加藤直美(消費生活コンサルタント)

愛知県生まれ。消費生活コンサルタントとして、小売流通に関する話題を中心に執筆する傍ら、マーケット・リサーチに基づく消費者行動(心理)分析を通じて、商品の開発や販売へのマーケティングサポートを行っている。主な著書に『コンビニ食と脳科学~「おいしい」と感じる秘密』(祥伝社新書2009年刊)、『コンビニと日本人』(祥伝社2012年刊、2019年韓国語版)、『なぜ、それを買ってしまうのか』(祥伝社新書2014年刊)、編集協力に『デジタルマーケティング~成功に導く10の定石』(徳間書店2017年刊)などがある。

加藤直美(消費生活コンサルタント)をフォローする
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