晩秋から初冬にかけて私たちの目を楽しませてくれるのが、色鮮やかな紅葉・黄葉です。全国各地の「紅葉の名所」と呼ばれる場所はもちろん、自宅近くの街中や公園や寺社などでも、美しく色づいた紅葉を見ることができます。ただし、そういう身近な場所の紅葉撮影では、目障りなモノが写り込んだり、画面が散漫になり印象の弱い写真になったりと、問題も起きやすくなります。今回の記事では、日常生活の中の紅葉を"印象深い作品"に仕上げるヒントや注意点などを、いくつか挙げてみたいと思います。
執筆者のプロフィール
吉森信哉(よしもり・しんや)
広島県庄原市生まれ。地元の県立高校卒業後、上京して東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)に入学。卒業後は専門学校時代の仲間と渋谷に自主ギャラリーを開設し、作品の創作と発表活動を行う。カメラメーカー系ギャラリーでも個展を開催。1990年より、カメラ誌などで、撮影・執筆活動を開始。ライフワークは、暮らしの中の花景色、奈良大和路、など。公益社団法人 日本写真家協会会員。カメラグランプリ2022選考委員。
撮影の基本
まずは被写体と背景の見定めが重要
紅葉に限らず、すべての撮影の基本として"被写体をよく観察すること"が重要です。日常生活の中で思わずカメラを向けたくなるような紅葉・黄葉なら、被写体としての魅力はあるでしょう。しかし、その衝動に任せて撮影しても、なかなか満足できる写真になりにくいものです。まずは、被写体を見定めるポイントを考えてみましょう。
紅葉を見定める場合、どうしても色彩やボリュームに目を奪われがちです。しかし、どんなに鮮やかでボリュームのある紅葉・黄葉でも、枝ぶり(枝自体の形や、付いている葉のバランスなど)に問題があると、切り取り方が難しくなります。その結果、ポイントのない散漫な写真になりやすいのです。
また、背景の条件や選択も重要になります。日常生活に密着した場所だと必然的に建造物や人工物も多いので、それらが紅葉の美しさや存在感を阻害する要因にもなります。ですから、お目当ての紅葉の背後や周囲は、できるだけシンプルにまとめたいもの。晴れた日の青空などならベストです。
✖ メインの紅葉が曖昧で全体的に雑然としている
半逆光で立体的な紅葉の姿が、爽やかな青空に映える
街中の街路樹を撮る
建物や人工物も入れたいが"注意書き"など無粋な情報は避ける
街中の大通りなどでは、道路に沿って植えられた街路樹を目にする機会が多いでしょう。そんな街路樹の中には、秋に美しく色づく品種が多くあります。カエデやモミジ(いわゆる紅葉)、イチョウ、ポプラ、プラタナス。これらの品種が代表的です。街中で見かける美しい街路樹にも、積極的にカメラを向けてみましょう。
街中にある街路樹でも、望遠ズームレンズや大口径レンズを使用すれば、建物や人工物を避けたり目立たなくして撮影することは可能です。しかし、そういった撮り方ばかりだと"どこで撮ったか分からない紅葉"ばかりになります。せっかく街中を散策するのですから、その場の雰囲気や状況が伝わる紅葉写真も撮りたいものです。
撮りたい街路樹が"単体"なのか"並木"なのかで撮り方は変わりますが、できれば街路樹の後ろや周辺には、建物や人工物は入れないのが無難です。もちろん、それらの写り込みが避けられない状況も多々あります。しかし、無粋な文言の看板・ポスター類、刺激的なデザインや色彩の人工物。こういった特に目立つ人工物は、意識的に避ける必要があるでしょう。
✖ 防犯機器やメッセージが目障り
超高層ビルと歩道の要素で"都市の黄葉"の雰囲気を演出
歩道橋の上から望遠レンズでイチョウ並木を切り取る
神社や寺院の紅葉を撮る
看板や張り紙に注意しながら、寺社仏閣も取り入れる
街中や郊外の地味な神社や寺院でも、美しく色づく紅葉・黄葉を見ることができます。そういう所で撮影する場合にも、現場の様子や雰囲気が伝わるような紅葉写真にしたいものです。本殿や本堂、狛犬や灯籠など、紅葉と絡めて撮りたくなる建物や施設は多いでしょう。また、街中よりは目障りな建物や人工物が少ないので、撮影しやすいはずです。
ただし、神社や寺院の境内にも、注意書きや説明文などの看板や貼り紙は見られます。ですから、そういう要素は極力画面内に入れないよう注意しましょう。
また、美しく色づいた紅葉は、建物や施設を撮る際の背景や添え物としても有効です。その色彩や形に着目しながら、ボケ効果を利用したり、主要被写体(建物や施設)の周囲に写し込みます。これによって、季節感のある魅力的な社寺仏閣の写真になるでしょう。
紅葉以外の要素も絡めて"季節のうつろい"を表現
色鮮やかな紅葉を背景ボケとして利用
夜の街路樹を撮る
人工光の色味や周囲の光源を生かす。夕暮れ時の自然光も魅力的
ある時季に同じ場所を訪れても、時間帯が変わると風景や被写体の見え方や雰囲気が変わってきます。ですから、自宅近くやよく行く場所で目を引く紅葉を見かけたら、違う時間帯にも訪れてみましょう。特におすすめなのが、夜間の時間帯です。そういう時間帯に訪れると、人工光に照らされる独特な雰囲気の紅葉を見れますし、周囲にある光源などを"光のアクセント"として取り入れることも可能です。
ただし、照明の明るさや周囲の状況によっては、手振れ補正機能を使用しても手ブレが発生することがあります。そういう場合には、ISO感度を高めに設定したり(1600や3200など)、開放F値が明るい単焦点レンズ(F1.4など)を使用する、といった低輝度対策を講じると良いでしょう。
また、完全に暗くなった夜間ではなく、夕暮れの時間帯に撮影すれば、手ブレは起きにくいはずです。しかも、日が暮れる前に撮影すれば、夕暮れ空の明るさや色味を生かした幽玄な雰囲気が得られるのです。ですから、夜間撮影を考えている場合でも、まだ明るさが残る時間帯から撮り始めることをおすすめします。
日中の街路樹
夜間の街路樹
街灯の光と存在が、夜の街路樹を演出する
夕暮れ空と街灯に照らされる木の組み合わせが魅力的
公園の設備と紅葉を撮る
人物の扱いに注意して遊具も取り入れる
街中や住宅地ある平凡な公園でも、秋が深まると美しい紅葉・黄葉を見ることができます。そういう場所でも、紅葉撮影を楽しみましょう。
「たしかに紅葉はキレイだけど、特に目を引く木や並木じゃない。それに公園としても平凡だし……」
そんなテンションが上がらない"イマイチな紅葉"でも、公園の設備をうまく取り入れて撮影すれば、味わいのある紅葉写真に仕上げることができます。ブランコ、滑り台、ジャングルジム、シーソーなど。これらの公園遊具をさり気なく写し込むと、見ていて心が落ち着くような紅葉写真になりますよ。
ただし、子供たちが遊んでいる遊具に無造作にカメラを向けるのは、このご時世いろいろ難しいでしょう。ですから、そういった様子を写し込む場合には、撮影距離やカメラアングルに注意しながら、個人を特定しにくい大きさやタイミングで写るように、注意する必要があります。もちろん、無人の遊具ならばそんな心配はありませんが。
公園内の鮮烈な紅葉を、離れた遊具と人々も入れて撮影
大きな樹木や太陽をアクセントに、交通遊園内の黄葉を写す
公園遊具と自然の色の取り合わせが鮮烈な印象を与える
まとめ
気軽に見られる身の回りの紅葉で、自分の視点や価値観を確かめたい
日本の四季風景の中でも"紅葉"は、春の桜に並ぶ人気の高い被写体です。それだけに、紅葉シーズンを迎える前から「今秋はどこの紅葉を撮りに行こうか?」と、期待に胸を膨らませて旅行計画を練る人も多いでしょう。そんな撮影旅行で得られる楽しさ・充実感は格別ですよね。
ですが、日常的に目にする"身の回りの紅葉"にも注目したいものです。いつでも気軽に見に行ける近所の紅葉なら、色づき具合の変化の把握や、天気や時間帯を選んだ撮影も容易です。また、紅葉の名所とは違う"自分なりの視点や価値観"でじっくり撮影できる……といった点も、身の回りの紅葉の魅力的なところです。
撮影・文/吉森信哉