認知症は、認知機能の低下が主たる症状で、認知症=もの忘れと考えられがちですが、それ以外の症状が出てくることもあります。そのひとつ「妄想」は、認知症の人自身が「被害者」である、被害的なものが多く、周囲が疑われて困ってしまいます。ここでは認知症の被害妄想の種類や対応方法について説明しましょう。
認知症の「被害妄想」とは
認知症の人の妄想は、不安や焦りが根底にある、といわれ、実際に不安感などを軽減すると、症状が軽くなる場合があります。
いずれにしても、被害妄想の対象にされると、面と向かって暴言を吐かれたり、どんなに「ひどい目にあわされているか」を、ほかの人に訴えられたりして、巻き込まれがちです。被害妄想の対象になった人こそ、「ひどい目にあう」ことが多いものです。
被害妄想に種類はある?
多くの場合、被害妄想の中で加害者になるのは、もっとも身近な人です。一番近くでお世話している人ほど、「この人がひどい」と言われて、とてもガッカリするものです。
様々なタイプの妄想を紹介しましょう。
【物盗られ妄想】
もっとも多い妄想です。しまい忘れたり、置き忘れたりした、財布や大事な金品を、人に盗まれたと信じ込みます。
【迫害妄想】
家族やヘルパーに、悪口を言われたりいじめられている、という妄想です。普段の様子を知らない人や、警察などに訴えられると、虐待を疑われて、困ります。
【毒盛られ妄想】
家族やヘルパーが作った料理に、毒が盛られていると信じ込みます。
【嫉妬妄想】
夫や妻が浮気をしている、と信じ込みます。
被害妄想は薬で治る?
認知症の被害妄想は、抗精神病薬によって、症状を抑えられることがあります。
ほかにも、睡眠障害に睡眠薬、うつ症状に抗うつ薬、といった向精神薬は、一定の効果が期待できると、医学的に証明されています。
でも、高齢者は、すでにほかの薬を毎日飲んでいたり、薬の副作用が出やすいことから、まずは薬を使わない治療を試みるのが、望ましいです。薬を使わなくても、対応の方法や、ちょっとした工夫で、症状が軽くなることがあるからです。
被害妄想への対応対策
認知症の被害妄想は、否定しても、逆効果です。自分の言うことを信じてもらえない、と憤りや怒りが高まり、かえって妄想が強まります。
被害を訴えられたら、否定も肯定もせず、「それは、困りますね……」など、相づちを打って、受け流すといいでしょう。
◆大田ひとみ
精神科専門のソーシャルワーカー・精神保健福祉士。フリーランスで医療相談や生活支援、家族相談、ときに講師、と幅広い仕事に従事。専門は認知症。たとえ認知症であっても地域で穏やかに過ごし続けられる、シニア生活の環境改善をライフワークとする。近年は特に在宅医療の支援に注力している。