眼の疲れは、眼そのものだけではなく、首のこりや後頭部の痛みなども引き起こします。体の上手な休め方がわからず、体や眼は緊張した状態がずっと続いています。体や眼も力を抜いて、ボーッとする時間や、動かす時間が必要。毎日の習慣が眼の不調に大きな影響を与えているのです。【解説】龍村修(龍村ヨガ研究所所長)
解説者のプロフィール
龍村修(たつむら・おさむ)
龍村ヨガ研究所所長、NPO法人沖ヨガ協会理事長、NPO法人日本YOGA連盟副理事長。1948年、兵庫県生まれ。1972年、早稲田大学文学部卒業。1973年、求道ヨガの世界的権威沖正弘導師に入門。以後、内弟子幹部として国内外で活躍。1985年、導師没後、沖ヨガ修道場長就任。1994年、独立して龍村ヨガ研究所を創設。40年にわたるヨガ研究の成果は、日本国内だけではなく海外でも広く認められている。著書に『龍村式ヨガ健康法 眼ヨガ』(日貿出版社)他多数。
http://www.tatsumura-yoga.com/
年齢に関係なくみんな眼が疲れている
近年、眼に関する悩みは、ずいぶん様変わりしました。昔は近視を治したい人が多かったのですが、今は眼精疲労に悩んでいる人が圧倒的です。
眼が疲れて、眼の奥が痛くなったり、目薬をささないとつらいかたも多いのではないでしょうか。
眼の疲れは、眼そのものだけではなく、首のこりや後頭部の痛みなども引き起こします。年齢はいっさい関係なく、みんな眼が疲れているのです。
眼精疲労の主な原因は、スマートフォン(スマホ)やパソコンを長時間見続けていることです。端的にいうと、眼にかかわる一部の筋肉と神経を使いすぎているのです。
電車に乗っているとき、周囲を見渡すと、手元のスマホを見る人ばかりで、窓の外の景色や、変化する雲の形を見る人は皆無といってもいいでしょう。
今の日常生活の中では、近くを見ることはあっても、遠くを見ることはほとんどありません。昨今は、近くは見えても遠くが見えない「スマホ老眼」という言葉もあるほどです。
また、体の上手な休め方がわからず、体や眼は緊張した状態がずっと続いています。体や眼も力を抜いて、ボーッとする時間や、動かす時間が必要。毎日の習慣が眼の不調に大きな影響を与えているのです。
こうした社会的背景があり、私は眼精疲労やドライアイ、近視、遠視、老眼などのさまざまな眼の不調を改善する「眼ヨガ」を考案しました。
「眼ヨガ」はカルチャースクールや、企業への講習会でも人気を博しています。
カルチャースクールでは教室に視力検査表を貼り、眼ヨガの前後に視力を確認してもらっています。すると、0.1の人が0.3になったり、0.3の人が0.5に改善したりすることはよくあります。
眼ヨガを始める前に見えていたものの、2つ、3つ上が簡単に見えるようになるのです。
また、眼ヨガの講習会などでも、来るときには見えていなかった看板が、帰りには見えたという話をよく聞いています。
眼ヨガは、眼の周りの緊張していた筋肉や神経をほぐすので、滞っていた血液や気の流れがよくなります。すると、眼の疲れが取れて、視界が明るくなり、よく見えるようになるのです。
ヨガでは心でイメージすることがたいせつ
そもそもヨガとは、本来の自分の体が持っている力や、命の働きを最大限に引き出す哲学とエクササイズのこと。「眼ヨガ」でいえば、眼の持っている能力を最大限に発揮させることです。
体や眼の使い方の悪い習慣によって、もともと持っている能力を発揮できていないので、「眼ヨガ」で本来の能力を引き出し、回復力を高めるのです。
眼ヨガは、単に体や眼を動かすエクササイズではありません。体と呼吸と心を一体化させることが非常に重要なポイントです。
体と呼吸と心の「三密」を一体化させて、体を動かしながら、呼吸と心の力を一緒に使うことで、今までにない体の使い方や柔軟性、しなやかさが数倍速く身に付くのです。
ここで紹介する「眼の照気法」は、手から眼に新鮮な「気」を送り、眼の周りを温め、血流をよくして、疲れや老廃物を早く取り除く、ヨガの浄化呼吸法を眼に応用したものです。
気とは、その人の生命エネルギーです。その人の生命エネルギーの状態が悪ければ「病気」だし、逆に状態がよければ「元気」といわれます。
この気をよりよい状態にするために、心と呼吸の力を使っていきましょう。
眼に手のひらの真ん中を当て、手のひらから清浄な気が送り込まれているようにイメージしながら、ゆっくりと息を吸い込みます。
次に、眼の疲れを口から吐き出すようにイメージしながら、ゆっくりと息を吐きます。息を吸って吐くことを繰り返すうちに眼の周りの血流がよくなります。
また、体の力を抜いて、ひと呼吸ごとに「緊張がほぐれていく、ほぐれていく」と自己暗示をかけるといいでしょう。ゆっくり丁寧に行うと、眼の疲れが取れて、視界が明るくなってくるのがわかるはずです。気を動かすには心でイメージすることがたいせつです。
こうすることで、体の動きと、呼吸と心が合わさり、ヨガの効果がより高まります。
眼ヨガ「眼の照気法」のやり方
「眼の照気法」はイスに座って行っても効果はありますが、寝る前に、あお向けに寝て全身の力を抜いてリラックスする「くつろぎのポーズ」で行うと、心身の緊張が取れて眠りが深くなるので、お勧めです。
❶手のひらをこすりあわせて、温める。両手のひらをお椀のような形にする
❷両手のひらで両眼をおおう。このとき、手のひらの中央部がちょうど眼球の上に来るようにする
❸手のひらから眼へ、気を吸い込むようなイメージで、ゆっくりと息を吸う
❹口から眼の疲れを吐き出すイメージで、ゆっくりと口から息を吐く
就寝前に行う照気法では宇宙をイメージする
部屋を暗くし、あお向けに寝て行う。真っ暗闇の向こう側に宇宙をイメージする。ゆっくり呼吸しながら行うと、くつろぎが深くなり、翌朝の眼の感覚が違ってくる
眼ヨガ「眼の6点刺激」のやり方
次に紹介する「眼の6点刺激」は、眼の不調と体のゆがみを同時に解消できる方法です。
実は眼の周りは、体のさまざまな部位とつながり、関連しています。眼に起こっている異常や不調は、体のゆがみの表れでもあるのです。
【やり方】
・ひと息を吸って、吐きながら、指で軽く押して刺激する
・終わるときは息を吸ってゆるめる
・10回ずつ、2セット行う
※痛みを感じるところは気の流れが悪くなっているところなので、多めに刺激する
※コンタクトをしている人は外したほうが安全
私たちは神経を集中させて何かを見ようとするとき、眉間に力が入って縦ジワが寄りがちですが、こうした過緊張した眼の疲れには、第1点がお勧めです。
親指と人さし指で、眉間をつまむようにして、息を吸ってから、吐き出しながらもみます。息を吐くときは、口から悪い気を吐き出すイメージを持つといいでしょう。首のこりも取れていきます。
第2点の眼頭は、手や腕と関連しています。パソコン作業や家事などで、手や腕を酷使して疲れがたまると、眼の内側にも疲れが出てくるのです。
それを確認する簡単な実験があります。鏡の前で、両腕を真上に上げて、左右の手の長さを見比べ、右手が短かった場合、右の眼頭を指圧します。再度、両腕を上げると、右手がスムーズに上がり、腕の長さが伸びたのがわかるでしょう。
第3点は、脳の疲れからくる眼の疲れに効果的です。もともと眼と脳は、視神経で結ばれていて、深く関係しています。
眼の周りの骨の縁の上側に親指を当て、息を吐きながら、下から上へとグーッと押し上げることで、脳の疲れをやわらげ、左右の脳のアンバランスも整えます。
親指の位置を少しずつ左右にずらしながら押圧し、効いていると感じるところを重点的に刺激しましょう。視界が広がって、明るくなるのがわかるはずです。
第4点の目尻は、脚と深く関係しています。脚の血流が悪くなって疲れていたり、左右の脚がアンバランスになったりすると、眼の疲れも出てくるのです。
息を吐きながら、目尻にある骨の縁の外側を、押圧します。こうすると、眼や脚の疲れのみならず、左右の脚の不均等なところも整えられます。
第5点の眼窩の下は、肝臓や胃腸が疲れているときに、眼の下にも疲労がたまり、たるみやクマができやすくなります。
人さし指を眼の骨の縁の下側に引っかけて、息を吐きながら下方向に押圧します。肝臓と胃腸という内臓のバランスを整える働きもあります。
指圧の前後は、肋骨の下あたりを押してみて、硬さや痛さの変化をチェックしてみてください。硬さや痛さを感じる側を多めに刺激すると、より効果が出やすくなります。
第6点のほお骨の下は、眼圧が上がって、眼がうっ血している人にお勧めです。
眼圧が上がると、視神経が押しつぶされて傷つき、緑内障(視神経が障害され視野が狭くなる病気)を発症しやすくなります。緑内障予防の意味でも、人さし指でほお骨の下を下から上へと押し上げましょう。
「6点刺激」は、ただ刺激するだけでなく、呼吸と心(イメージ)を合わせることがたいせつです。口から「悪い気」を吐き出すイメージで、息を吐きながら刺激してください。2~3分するだけで眼の疲れが取れていくのが実感できるはずです。
眼の運動不足を解消!体のゆがみも改善!
この項では、会社のデスクでも簡単にできる、眼ヨガの「腕伸ばし&眼の運動」を紹介しましょう。
スマホやパソコン操作などで長時間、ネコ背の姿勢で同じ画面をじっと見ていると、眼の動きは当然制限され、眼筋は運動不足になります。
肩を動かさないと、肩周辺の筋肉がこってしまうのと同様に、スマホやパソコンの画面を凝視し続けていると、眼筋もこってしまうのです。
酷使されてこり固まった眼筋は、血流が悪くなって疲労物質がたまります。ですから、体をほぐすストレッチを行うときと同じく、眼球も大きく動かして、眼筋のこりをほぐし、血流を促進することがたいせつなのです。
眼の周りの血流をよくすれば、たまっていた疲労物質や老廃物が排出され、眼筋の柔軟性が高まって、本来持っている眼の能力が取り戻せるようになります。
「腕伸ばし&眼の運動」は、腕と眼の動きを連動させることで、眼を大きく動かすことができ、眼筋のこりがほぐれていきます。
さらに、両腕を大きく動かすことで、首や肩、背中のこりもほぐれ、血行がよくなり、疲れが取れていきます。
特に眼は、大げさに思えるほど、大きく動かすくらいでちょうどいいです。腕の動きとともに、眼だけを限界まで上下に大きく動かしてみてください。
眼ヨガ「腕伸ばし&眼の運動」のやり方
背すじを伸ばして、両手を胸の前で合わせます(合掌)。手を高く上げることで、肩や背中の緊張をほぐしていきます。
❶背すじを伸ばして合掌し、呼吸を整える
❷息を吸いながら、合掌した手を頭上高く伸ばす。できるだけ上に伸ばす。このとき、指先を眼で追いながら上を見る。顔は動かさないで眼だけ動かす
❸腕を伸ばし切ったら、息を吐きながら、手のひらを外側に向けて左右に下ろす。このとき、眼も一緒にスーッと下に動かす。顔は動かさないで眼だけ動かす
※3回行えるときは、手を下ろすときに、眼の動きを変えてみましょう。1回目の眼は垂直に上から下へ、2回目の眼は右手を見ながら右回りで下へ、3回目の眼は左手を見ながら左回りで下へ下すとより効果的です。
❹最後に合掌して、呼吸を整える
呼吸が深くなり目に酸素が届く
スマホやパソコン作業などでネコ背のまま、眼を酷使していると、呼吸が浅くなってしまうのも問題です。視神経がじゅうぶん働くには、酸素が必要だからです。
そこで、ヨガの浄化呼吸法を取り入れ、浅い呼吸から深い呼吸に切り替えて、眼に酸素を行き渡らせましょう。
ヨガの浄化呼吸法は、鼻から新鮮な気をたっぷり吸い込むイメージで息をゆっくりと吸い、口から悪い気や老廃物を全部吐き出すイメージでゆっくりと吐きます。
こうした深い呼吸を繰り返すことで、気の流れがよくなり、心身がリラックスしていくのが体感できるでしょう。
別項で述べましたが、ヨガの呼吸法は体の動きと心(イメージ)を一致させることがたいせつです。
・息を鼻から吸うときは、腕を伸ばしながら、新鮮な気をたっぷり吸い込むイメージで行います。
・息を口から吐くときは、腕を下ろしながら、悪い気や老廃物を吐き出すイメージで行います。
これを繰り返していけば、全身の動きと呼吸と心が一体化され、眼ヨガの効果がいっそう高まります。
「眼ヨガ」に届いた感激の手紙
前述したように最近多い眼の疲れや視力低下の主な原因は、スマートフォン(スマホ)やパソコンの長時間使用による眼の酷使です。
特にガラケー(旧来の携帯電話の端末)からスマートフォンに変えてから、視力が一気に悪化した人は、後を絶ちません。
つい先日も、私の眼ヨガの著書を読んだ24歳の女性から、感激の手紙をもらいました。その女性は幼い頃から視力にはまったく問題がなく、いつも視力検査の評価はもっともよいAだったそうです。
しかし、大学生になってガラケーからスマートフォンに変えてから、通信アプリ(LINE)やゲームなどを使用するようになり、スマートフォンを見る時間が、中毒並みに急激に長くなったそうです。
よかったはずの視力は、たちまち遠くがぼんやりとかすむようになりました。
周りを見渡すと、友人は全員視力が悪く、コンタクトやメガネをする人ばかり。このまま流されていては、視力はますます悪化する一方だと、一念発起して眼の健康にいいものを探したそうです。
眼ヨガに行き着き、さっそく試してみたところ、すぐにぼやけていた眼がスッキリし、見えづらかったものも見えるようになったとのことでした。こうした眼ヨガの即効性も、支持されている理由の一つです。
今回ご紹介した眼ヨガを、ぜひ毎日の習慣にしてみてください。眼だけでなく体も軽くなり、心も前向きになってくるでしょう。