平衡感覚が乱れて、めまいや耳鳴り、難聴を訴える患者さんに対し、西洋医学では「内リンパ水腫」(内耳のむくみ)とし、利尿を促す薬が処方されることが多いようです。一方、東洋医学では、五臓の一つである「腎」と耳には、深い関係があると考えます。腎は、血液をろ過して、老廃物を尿として排泄する働きを持ちます。腎と関係の深い耳を刺激することで、腎が活性化し、利尿作用が高まって内耳のむくみを取る効果が期待できます。【解説】森田茂人(モリタ整体院総院長)
解説者のプロフィール
森田茂人(もりた・しげと)
1990年モリタ整体院を開院。MCメディカル系列院の総院長。延べ28万人の施術を行う。手技により筋肉・骨格のこわばりを取り、ゆがみを整えて自然治癒力を高めている。
ストレスや加齢で耳の症状が出やすくなる
「あれ以来、たびたびめまいが起こって困っています」「耳鳴りが止まりません」「耳が聞こえづらいのですが」
2011年、日本を襲った東日本大震災の後、当院には、こうした不調を訴える患者さんが急増しました。大地震によって、多くの人が自律神経(内臓や血管の働きを調整する神経)のバランスをくずしたことが原因の一つでしょう。特に、平衡感覚が乱れて、めまいを起こす人が多かったようです。平衡感覚は、耳の奥の内耳が受け持っているため、耳鳴りや難聴の訴えも増えたと考えられます。
西洋医学では、そのような症状を「内リンパ水腫」(内耳のむくみ)と診断することが多いようです。この場合、治療の一環として利尿作用を促す薬が処方されたりします。
一方、東洋医学では、五臓の一つである「腎」と耳には、深い関係があると考えます。
腎は、血液をろ過して、老廃物を尿として排泄する働きを持ちます。腎と関係の深い耳を刺激することで、腎が活性化し、利尿作用が高まって内耳のむくみを取り去る効果が期待できます。
そのうえ、腎は「先天の気」と呼ばれる、生まれたときからの生命エネルギーが宿る場所、とされます。そのエネルギーが、ストレスや加齢などで衰えると、耳の症状が出やすくなるのです。
通常の整体では、直接的に耳を扱うことはあまりありません。しかし、急増した患者さんの訴えに応えるには「耳がポイントだ」と感じた私は、通常の整体に加えて、耳を念入りにもんでみることにしました。
東洋医学では、形の似た器官は働きも密接と考えますが、腎臓と耳は形もよく似ています。耳をもむことで、逆に根源的なエネルギーである腎の気を補い、自律神経にもよい影響を与えられるのではないかと考えたのです。
耳が柔らかくなると「気」の流れがよくなる
狙いはピタリと当たり、めまい・耳鳴り・難聴が劇的に改善するケースが続出しました。私はこの「耳たぶあんま」(正式名称は「耳もみ整体」)を本格的に取り入れました。
多くの患者さんに試すにつれ、耳たぶあんまは、耳の症状以外にも、高い効果を発揮することがわかってきました。
たとえば、頭痛、不眠、眼精疲労、肩こり、腰痛、ひざ痛、むくみ、鼻づまり、鼻炎、ぜんそく、うつなど、幅広い症状の改善・解消に役立つのです。
「むくみが取れて小顔になる」「代謝がよくなってやせた」「肌や髪がきれいになる」など、美容的な効果も得られます。
耳たぶあんまを取り入れ、多くの人の耳に触れるようになって、実感したことがあります。体調が悪い人ほど、耳が硬く冷たくなっており、耳を触ると嫌がります。
耳たぶあんまを行って、耳が柔らかく温かくなると、耳に触れるのが心地よく感じられるようになり、体調も改善してくるのです。
普通、耳は、「顔の横についている」と認識されていますが、頭部を横から見ると、耳は、頭・顔・首の境目にあり、実は、真ん中に位置します。耳の周囲には、重要な筋肉や血管、リンパ管が集まっています。
耳は、ちょうど巾着袋の口のような存在と考えることができます。耳が硬くこわばっていると、周辺の筋肉や血管などもこわばり、気の流れも滞ります。
逆に、耳たぶあんまで耳をもみほぐして柔らかくすると、巾着の口がゆるむかのように、筋肉や血管などが一気にゆるんで、気の流れも促されるのです。
「耳たぶあんま」のやり方
【両手でやっても片手ずつ行ってもOK】
❶指の腹全体を使って、耳を前後に素早く10往復こする。
❷耳のつけ根を人さし指と中指で挟み、上下に10往復こする。
❸耳輪(耳のきわで内側に丸まった部分)を広げるように伸ばす。3回行う。
❹耳を放射線状に引っぱり、よく伸ばす。5ヵ所くらいに分けて、各5回ずつ引っぱる。
❺耳珠(耳の顔側のつけ根にある出っぱり)をもみほぐす。10秒行う。
❻耳を顔側に倒し、耳の裏側を伸ばす。次に、耳上部は下に、耳たぶは上に倒して、耳の裏をまんべんなく伸ばす。3ヵ所を各3回ずつ行う。
❼耳の上下をつまみ、二つ折りにする。5回くり返す。
❽耳を二つ折りにしたまま、円を描くように回す。5回行う。
❾耳たぶの裏の凹みにあるツボ、翳風(えいふう)に親指を当て、ほかの4指は側頭部に軽く当てる。親指でツボを押しながら、側頭部をゆるめるように4指を後ろに5回回す。
❿小鼻のふくらみのわきで、押して圧痛がある場所が、迎香(げいこう)というツボ。迎香に人さし指(または中指)を当てながら、同じ側の耳を引っぱる。耳の上部、真ん中辺り、下部と3ヵ所に分けて、それぞれ耳管が通るイメージで5秒ほど引っぱる。
耳だけでなく全身が温まる
耳たぶあんまは、患者さん自身でも簡単に行えます。当院では、患者さんたちに指導して、自宅でも行っていただき、高い効果を上げています。
最近、音の聞こえが悪く、こもった感じがしたりする人を多く見ました。自律神経の乱れにより、耳と鼻をつなぐ耳管という管の開閉に異常をきたし、外気圧の調整がうまく働かなかったり、鼓膜の内側から出る分泌物がうまく排出できなかったりするのが原因のようでした。
そこで今回は、耳管を通す効果がある耳たぶあんまも加えました(上のやり方(10)参照)。
患者さんの中には、「異常な鼻の乾き」を訴えていた40代の女性がいましたが、耳たぶあんまでよくなりました。
頭が割れそうな耳鳴りがあるのに、耳鼻科では異常なしと言われていた20代の男性も、耳たぶあんまで耳鳴りがスッキリ消えて喜んでおられます。
耳たぶあんまを行うと、耳はもちろんのこと、全身が温まって気持ちよくなります。その気持ちよさを味わいながら実践してください。
ただし、睡眠不足があると、効果が出にくい場合があります。効果に不足を感じたら、夜のコーヒーは控えて、寝る前に耳たぶあんまを行うとよいでしょう。熟睡できると、耳たぶあんまの効果が高まります。