一般的な骨盤底筋を鍛える体操に加えて、骨盤を支えている周辺の筋肉も一緒に鍛えるヨガを行うことを私はお勧めしています。膀胱などを骨盤底筋だけで支えるよりも、周囲の筋肉と連携しながら骨盤全体として支えるほうが負担が少なく効率的だからです。【解説】金子透子(青空レディースクリニック院長)
解説者のプロフィール
金子透子(かねこ・さとこ)
1995年、千葉大学医学部卒業。松戸市立病院産婦人科勤務を経て、青空レディースクリニックを開院。ヨガインストラクターでもあり、西洋医学の標準的な治療のほか、鍼灸・漢方などの東洋医学的治療、運動療法・食事療法・呼吸法・瞑想法などの代替療法も取り入れ、局所的治療だけでなく体と心全部を使った治療に取り組む。クリニックに併設の、心と体の健康スタジオ「青空」ではヨガ講座などが開催されている。ヨガ教室の詳細はサイト参照。http://www.sora-cl.jp/pelvis/
3ヵ月ほどで尿もれが改善する人が多い
私はレディースクリニックを開くに当たり、投薬や手術などがメインの西洋医学だけでなく、漢方や代替医療も含め、女性の健康管理に関するさまざまなプログラムを導入していきたいと考えました。その一環として、クリニックに併設の健康スタジオで、骨盤底筋を鍛えるヨガ教室を開催しています。
来院する患者さんの話を聞いていると、尿もれや頻尿に悩んでいる女性が非常に多いことがわかります。尿もれ自体を主訴として来院されることはそれほど多くないのですが、何度も通院して信頼関係ができてくると、「実は……」と悩みを吐露されることがよくあるのです。
また、子宮や膀胱、腸などが下がって、膣から出てしまう骨盤臓器脱という女性特有の悩みを抱えている患者さんも少なくありませんでした。
そこで、お勧めしているのが骨盤内外の筋肉を柔軟にする「膀胱若返りヨガ」です。このヨガを始めて3ヵ月もすると、悩んでいた尿もれや頻尿がよくなったというかたが多く、大変好評なのです。
膀胱若返りヨガが、どのように尿もれや頻尿の改善に役立つのかをご説明しましょう。
尿もれや頻尿、骨盤臓器脱などの症状に深くかかわっているのが、骨盤底筋群です。骨盤の底にハンモックのように広がり、骨盤内にある膀胱や子宮、直腸などの臓器を支えてくれているいくつかの筋肉を総称して骨盤底筋群といいます。
女性では、尿道、膣、肛門に当たる部分に穴が開いています。これらの穴を必要に応じて開閉するのも、骨盤底筋群の大切な役割です。
この骨盤底筋群の穴が最も大きく開くのが出産のときです。妊娠中に胎児が入った重い子宮を支え続けるのと合わせ、骨盤底筋群は大きなダメージを受けます。
そこにさらに、加齢や肥満といった要素が加わると、ますます骨盤底筋がゆるんで膀胱の位置が下がり、尿もれや骨盤臓器脱が起こりやすくなるのです。
深い呼吸が自律神経も整える
一般に、骨盤底筋を鍛える体操として、おしっこを途中で止めたり、膣を締めたり、便を切ったりするときのような動きを行います。
リズミカルにキュッキュッキュと締めて力を抜くのを10回くり返したら、今度はギューッ、ギューッと長く締め続けて力を抜きます。3秒締め続けるところから始め、10秒を目標に締める時間を延ばしていきます。
この体操は非常に有効ですが、それに加えて、骨盤を支えている周辺の筋肉も一緒に鍛えるヨガを行うことを、私はお勧めしています。膀胱などを骨盤底筋だけで支えるよりも、周囲の筋肉と連携しながら骨盤全体として支えるほうが負担が少なく、効率的だからです。
もう一つ、尿もれや頻尿が起こる原因に、膀胱が硬くなるということがあります。
膀胱は筋肉でできた水風船のようなもので、元気な膀胱は伸縮性があり、400mlくらいの尿を優にためられるようになっています。
しかし、老化や骨盤のゆがみで骨盤内の血行が悪くなると、膀胱の筋肉が硬くなってしまいます。そうなると、少しでも尿がたまると、尿意を感じやすくなるのです。
ヨガを続けることで、骨盤周りの筋肉の柔軟性が高まり、血流が盛んになります。それに伴い、骨盤内にある膀胱の筋肉の血行もよくなり、膀胱も柔軟性を取り戻します。
また、ヨガのメリットとして、深い呼吸とともに体を動かすという点も挙げられます。
頻尿や尿もれには、ストレスも大きく関係しています。緊張した状態で、トイレが近くなった経験は多くのかたがお持ちでしょう。
ストレスを抱えていると、自律神経のうちの交感神経の働きが過度に高まってしまい、膀胱が尿意に過敏に反応するようになりやすいのです。
膀胱若返りヨガでは、ゆっくりと息を吐きながら、体を動かします。ゆっくりとした呼吸は、副交感神経を優位にし、交感神経を落ち着かせて、リラックスをもたらす効果があります。自律神経のバランスを整えることも、尿トラブルの解消にはとても大事です。
膀胱若返りヨガは、食後すぐや寝る直前に行うのは避けてください。体を動かすと多少交感神経が緊張するので、就寝の直前だと眠りづらくなったり眠りが浅くなったりする恐れがあります。入浴後など、体が温まり、筋肉が軟らかくなっているときだとやりやすいです。
できれば、毎日続けるのが望ましいのですが、週に2回以上できれば、十分効果が感じられるはずです。
「膀胱若返りヨガ」のやり方
《橋のポーズの応用》
❶あおむけに寝て、腕は両脇に伸ばし、足は腰幅に開く。かかとをお尻に近づけてひざを曲げる
❷一度息を吸い、ゆっくりと吐きながら、腰を持ち上げ、首からひざまでが一直線になるようにする
※足を上げるのがきつい人はこのポーズだけでOK! ❸〜❻を飛ばして❼へ
❸一度息を吸い、ゆっくりと吐きながら、右足を伸ばす。このとき腰が落ちないように注意する
❹一度息を吸い、ゆっくりと吐きながら、右足を右側に開く。腰が落ちないように注意する
❺一度息を吸い、ゆっくりと吐きながら、右足を正面に戻す
❻一度息を吸い、ゆっくりと吐きながら、右足を床に下ろす
❼一度息を吸い、ゆっくりと吐きながら、腰を下ろす
❽左足でも同様に行い、左右交互に3回くり返す
《安らぎのポーズ》
❾あおむけに寝て、手のひらを上に向けて腕は自然に伸ばし、足は腰幅に開く。目を閉じて全身の力を抜いてリラックスする。呼吸が落ち着いてから3分ほど続ける
《エビのポーズ》
❿うつぶせに寝て、手を重ねた上に額を乗せる。ひざは腰幅に開いて曲げ、足首を絡める
⓫一度息を吸い、ゆっくりと吐きながら両ひざを持ち上げる
※両足同時に持ち上げるのがきつければ、片足ずつ行うとよい
⓬一度息を吸い、ゆっくりと吐きながら両ひざを下ろす
⓭⓫、⓬を3回くり返す
《安らぎのポーズ》
⓮あおむけに寝て、手のひらを上に向けて腕は自然に伸ばし、足は腰幅に開く。目を閉じて全身の力を抜いてリラックスする。呼吸が落ち着いてから3分ほど続ける
《カエルのポーズ》
⓯あおむけに寝て、手のひらを床につけ、腕を横に伸ばす
⓰一度息を吸い、ゆっくりと吐きながら、足の裏をつけた状態でかかとを股関節にできるだけ近づける。ひざができるだけ床から離れないようにすること
※⓰がらくにできる人は腕を頭の上に伸ばして行う
⓱一度息を吸い、ゆっくりと吐きながら、足を伸ばす
⓲⓰、⓱を3回くり返し、最後に安らぎのポーズ(⓮)を行う