本格的な冬がやってきました。大雪は突然やって来ます。その際に気を付けたいのがタイヤのスリップ。スタッドレスタイヤが必需品となります。今回はそのスタッドレスタイヤにまつわるお話をしたいと思います。
タイヤが雪でスリップする原因は?
まず、そもそもタイヤが雪の上で滑るのはどうしてななのかを考えてみましょう。
そのポイントは、雪が溶けた際に生まれる「水」にあります。
この水は、路面に積もった雪とタイヤの間に水膜を作り出し、これによってタイヤは路面に密着できなくなるのです。これがスリップを生み出す最大の要因です。
それでも、積雪路であれば、スタッドレスタイヤの溝が雪を噛んでグリップさせることが出来ます。やっかいなのは凍結路(アイスバーン)です。
スタッドレスタイヤがアイスバーンを苦手とする理由
アイスバーンは、スタッドレスタイヤが噛むべき雪がなく、ほぼグリップすることは不可能です。
しかも、氷はタイヤが通過することで溶け出して水膜を生み出します。
つまり、積雪路は得意なスタッドレスタイヤであっても、アイスバーンは大敵というわけです。
では、この水膜がない状態だったらどうなるでしょう。
先日、スケートリンクの氷盤でクルマを走らせ、それを試す機会を得ました。
ここで驚いたのは、夏タイヤであっても、速度を抑えれば何とか走れたことです。
スケートリンクは、氷盤が溶け出さないよう温度管理が徹底されているからで、やはりスリップの原因が水膜であることは明らかです。
とはいえ、屋外ではこのような温度管理は一切行われません。
特に日本は、昼夜気温の高低差がある上に、0度付近で凍結した路面が溶け出し、滑りやすいツルツルとした状態が生まれやすい環境にあります。
その意味では、「世界で最もタイヤには過酷な路面環境」と言われています。
そこで、この克服のために日本のタイヤメーカーは様々な工夫を凝らしている、というわけです。
吸水剤を3倍にした次世代スタッドレスタイヤ
逆転の発想「タイヤが水を吸えばいい」
その開発の一端を知るために、2019年1月北海道・旭川市にある横浜ゴムの「スタッドレスタイヤ取材会」に参加してきました。
この日は、トラック用スタッドレスタイヤによる登坂デモや、ラリーカーによるドリフト同乗体験走行など、多彩なメニューが用意されましたが、最大の関心事は、開発中の「次世代スタッドレスタイヤ」の体験試乗でした。
“次世代”と謳っているこのタイヤ、なんと市販されているスタッドレスタイヤの3倍もの吸水剤を配合した特別仕様でした。
前述したように、スリップの要因は水膜にあることは明らかですから、この水膜を取り除くために、市販品よりも吸水剤を増やして、その効果を体感しようというわけです。
この日は、凍結路での効果を体験するために、市販されているヨコハマタイヤのスタッドレスタイヤ「アイスガード6」を履いた車両も用意され、両者の比較を実施しました。
体験試乗したのは、横浜ゴムが所有する屋内氷盤路で、ここは風や降雪の影響を受けず安定した条件での試乗が可能となる施設として一昨年、この場所に建設されました。
リム径:15インチ
タイヤサイズ:185/60R15 84Q
対応車種:ハイブリットカー、スポーツカー、セダン、コンパクトカー、ステーションワゴン、ミニバン
グリップ力の違いは想像以上。制動フィーリングも良好
結果は、明らかな差となって表れました。
制動テストでは、30km/hでフルブレーキングすると、ノーマルのアイスガード6が10m程度で停止。それに対して、吸水剤3倍仕様は9m程度で停止し、およそ10%の短縮となったのです。
制動フィーリングも良好で、ブレーキペダルを踏んだ瞬間に、グッと踏ん張ってくれるので安心感もありました。
これは、想像以上の違いでした。
ここまで性能が上がるのなら、吸水剤をもっと配合したタイヤを提供すればいいではないか、誰もそう思うはずです。ところが、現実はそう甘くありません。
吸水剤を多くすると、製造コスト上がるだけでなく、耐久性までも落ちてしまい、さらにゴム自体の剛性も下がって走行性能の悪化にもつながる、ということでした。
ただ、ヨコハマタイヤとしては、吸水剤を増やすことの効果は掴んでいるわけで、あとは製品化する際に、これらの課題をどうバランスさせられるかにかかっています。
スタッドレスタイヤの性能は、まだまだ向上するのは確かです。
今後は、ドライビング性能も落ちず、耐久性もあり、凍結路にも強いスタッドレスタイヤの登場に期待したいと思います。
◆会田肇(フリージャーナリスト)
1956年茨城県生まれ。明治大学政経学部卒。モーターマガジン社に編集者として勤務後、1987年よりフリージャーナリストへ転身。カー雑誌などでカーナビをはじめとするカーAVを中心とした取材、執筆に従事する一方で、ビデオカメラやデジタルカメラの批評活動を積極的に続けている。現在、デジタルカメラグランプリの審査員も勤める。好きな音楽を聴きながらドライブするのが好きで、これがクルマからカーオーディオ、カーナビ、ひいてはITSにまでその関心は及ぶ礎となった。モーターショーやITS世界会議などのイベント取材にも出掛け、その行き先は海外にまで及ぶ。