毛細血管から血液が漏れ、皮膚細胞に栄養や酸素が届かなくなると皮膚はくすみ、肌の老化が進行します。これと同じことが全身の臓器でも起こると考えてください。そこで私が提案しているのが、「シナモン紅茶」と「炭酸浴」です。【解説】橋本洋一郎(熊本市民病院首席診療部長・神経内科部長)
解説者のプロフィール
橋本洋一郎(はしもと・よういちろう)
1981年、鹿児島大学医学部卒業後、熊本大学医学部、国立循環器病センターなどを経て、熊本市民病院神経内科医長、部長、 診療部長などを歴任し2014年より現職。熊本大学医学部臨床教授。脳卒中治療の第一人者であり、救急医療や地域医療連携の現場にも立つ。著書に『毛細血管で細胞力は上がる』(小学館)など多数。
毛細血管の損傷が皮膚のくすみを招く!
2016年4月、熊本にまさかの事態が起こりました。14日、16日と続けて2回、震度7の大地震が襲ったのです。そのとき、私の脳裏を真っ先によぎったのが、エコノミークラス症候群への危惧でした。
東日本大震災でも問題になりましたが、狭い車の中で長時間座っていると、足の静脈に血栓(血の塊)ができ、それが飛んで肺の血管を詰まらせることがあります。これを「肺塞栓症」、別名エコノミークラス症候群といいます。
肺の血管が詰まると、呼吸が困難になり、命にもかかわります。私はすぐに、エコノミークラス症候群の予防プロジェクトチームを立ち上げ、被災地の避難所に駆けつけました。
私の専門の一つは、脳卒中の治療です。脳卒中(脳梗塞)もエコノミークラス症候群も血管が詰まる病気で、予防手段はほぼ同じです。血管を健康に保ち、全身の細胞に栄養と酸素を速やかに送ることが基本です。
そこで重要となるのが、「毛細血管」です。毛細血管は、血管全体の95~99%を占める微細な血管で、全身の細胞との直接的なやり取りをしています。
動脈から流れてきた血液を小さなすきま(孔)から送り出し、細胞へ栄養や酸素を届けます。一方、細胞の中にできた老廃物や二酸化炭素を回収して、静脈へ運びます。
毛細血管は、一層の管である血管内皮細胞を、壁細胞が覆うという構造です。それらの細胞は「Tie2」という接着剤のような物質によりくっついています。
しかし、加齢などによってTie2の活性が落ちると、血管内皮細胞との接着が緩んで壁細胞がはがれます。
すると、毛細血管の孔が大きくなって血液が過剰に漏もれ出します。その結果、全身の細胞に栄養や酸素などを届けられなくなるのです。
その弊害が、いちばんわかりやすいのが皮膚です。
血管の末梢にある毛細血管は、全身の臓器につながっており、皮膚の表面にもたくさんあります。
Tie2の活性が落ちた毛細血管から血液が漏れ、皮膚細胞に栄養や酸素が届かなくなると、皮膚の新陳代謝は停滞します。老廃物も回収されなくなるので、皮膚はくすみ、肌の老化が進行するのです。
これと同じことが、全身の臓器でも起こると考えてください。毛細血管の老化は、脳や腎臓、肝臓などの老化でもあるのです。
そこで、毛細血管を元気にするために、私が提案しているのが、「シナモン紅茶」と「炭酸浴」です。
エコノミークラス症候群や脳卒中の予防に役立つ
シナモン紅茶は、適量のシナモンパウダーを紅茶に加えて飲むだけです。
シナモンに含まれるシンナムアルデヒド(桂皮アルデヒド)という成分には、Tie2を活性化して、毛細血管の健康を維持し、傷ついた毛細血管を修復する作用もあることがわかっています。
ちなみにシナモンは、漢方では桂皮と呼ばれる生薬で、冷え症や手足のむくみなどに用いられてきました。
体を温めることも、血管を元気にします。それには、入浴がいちばん手っ取り早くて効果的です。
入浴すると自律神経(意志とは無関係に内臓や血管の働きを調整する神経)のうちの休息時に働く副交感神経が優位になって、血流がよくなります。
ところが、42度以上になると活動時に働く交感神経が優位になって、逆に血管が収縮して血流が低下してしまいます。
38度前後の温度が低めのお湯でも体が温まるのが、炭酸ガス(二酸化炭素)を溶け込ませた入浴です。炭酸ガスの成分が皮膚から浸透し、末梢の毛細血管を拡張して血流を促します。
岡山大学などの研究では、炭酸ガスの入浴剤を使った入浴は、さら湯の入浴に比べて、血流量が4倍近く増えるというデータがあります。
また、京都大学の研究では、炭酸浴を4週間続けたら自律神経の活動量が上がることが確認されました。自律神経は、毛細血管の収縮や拡張を調整する神経でもあります。この働きが高まれば、外的なストレスにも的確に対応できるようになると考えられます。
炭酸浴を行うと、血圧や心拍数を著しく上昇させることなく、入浴本来の血流促進効果を享受できるのです。
シナモン紅茶でTie2を活性化し、炭酸浴で血流をアップさせるだけで毛細血管は若返ります。それが、ひいては脳卒中やエコノミークラス症候群の予防につながるのです。
血流不全で冷え症の女性5名に試してもらった
毛細血管を元気にするには、「Tie2」という物質を活性化するシナモンが有効だとわかっており、私は、シナモンを紅茶に入れて手軽にとれる「シナモン紅茶」を勧めています。
作り方は簡単で、カップ1杯の温かい紅茶に、シナモンパウダーを適量入れてかき混ぜるだけです。これを1日2~3杯は飲みましょう。
紅茶が嫌いな人は、シナモンをプレーンヨーグルトなどに加えて食べてもかまいません。
私は、このシナモン紅茶を、毛細血管の血流不全で冷え症や肌の乾燥、シミなどに悩んでいる女性5名に、1週間だけ試してもらいました。
5名にはそれ以外にも、次のようなことも勧めました。
・血流をよくする炭酸入浴剤を使った入浴や足浴
・静脈血の流れを促すかかと落とし(かかとの上げ下げ)と足踏み
・あおむけになり手足を上げてブラブラさせる、末端の血流を改善する体操
・両手のひらをこすって温めた手を顔に当て、顔の重みの圧をかけるマッサージ
試験の前後に、被験者の毛細血管の変化を調べました。その結果と、5名の体調の変化を簡単に報告します。
足のむくみやだるさ冷え症、便秘も改善!
Aさん(39歳)
Aさんは、手足の冷え、肌の乾燥、シミ、シワが気になっていました。シナモン紅茶をポットに入れ、携帯して飲んだところ、汗をかきやすくなり、尿量も増えたとのこと。体が温まるだけでなく、老廃物を排出するデトックス効果もあったと驚いていました。
Kさん(53歳)
Kさんも手足の冷えや肌の老化が悩みでしたが、炭酸浴などで体が温まり、よく眠れるようになったそうです。
Kさんは、試験前は表層の毛細血管が見えませんでしたが、1週間後はしっかり確認できました。それも、血流がよくわかるくらい毛細血管が太くなっていました。シナモン紅茶などで毛細血管が修復され、血液の漏れが改善されたのでしょう。
Sさん(47歳)
Sさんは、手足の冷えや疲れやすさ、肌の乾燥、シミなどに悩んでいました。特に効果を感じたのはシナモン紅茶と炭酸浴で、いずれも実施後は、体が内側からポカポカ温まり、リラックス効果も感じたそうです。
Nさん(42歳)
Nさんは、手足の冷えがだいぶひどかったようですが、炭酸浴をしたあとは寝るまで手足が冷たくならず、ぐっすり眠れたと喜んでいました。また、かかと落としを勤務中などに行ったところ、足のむくみやだるさが取れたそうです。
Tさん(33歳)
被験者のなかでいちばん若いTさんですが、手足の冷え、肩こり、便秘、肌のシミなどの悩みがありました。しかし、1週間で便秘が改善し、肌のシミが少し薄くなったという、うれしい結果が出ました。
5人の毛細血管を調べた医師(小 角卓也氏)によると、5人とも1週間前より毛細血管が太くなり、血流が改善していることが確認できたそうです。
また、Sさんは特に表層側まで毛細血管が増加していました(下の写真参照)。
《Sさん(47歳)の毛細血管の変化》
1週間という短い試験期間にもかかわらず、体が温まった、眠れるようになった、シミが薄くなったなどの変化があったのは、意義ある結果だと思います。
被験者からも、簡単で効果があったと好評で、もっと続けたいという声もありました。もっと長く続ければ、肌の改善など、顕著な効果が得られる可能性は大きいと思われます。