足の小指が変形してストッパーが効かなくなると、ひざとひざの間が開いてО脚になっていきます。それに伴い股関節も外側に開き、骨盤にゆがみが生じます。これが、ひざや腰、股関節の痛みを引き起こします。【解説】今井一彰(みらいクリニック院長・日本病巣疾患研究所副理事長)
解説者のプロフィール
今井一彰(いまい・かずあき)
みらいクリニック院長。日本病巣疾患研究会副理事長。さまざまな方法を駆使しながら、薬を使わずに体を治す独自の治療を行う。「あいうべ」による息育や「足指を伸ばす」足育の普及に力を入れている。著書に『自律神経を整えて病気を治す口の体操「あいうべ」』(マキノ出版)、『足腰が20歳若返る 足指のばし』(かんき出版)など多数。
足指が変形すると体がゆがみ痛みが出現!
「痛みと姿勢の外来」を掲げる私のクリニックには、足腰の痛みに悩む人が日々訪れます。患者さんたちからよく聞くのは、「整形外科へ行ってもよくならない」「薬や手術を勧められるけど、ほんとうによくなるのか不安」といった声。
それもそのはず、体の痛みは、必ずしも痛む部位に原因があるとは限りません。根本原因を解決しなければ、いつまで経っても痛みがなくなることはないのです。
当院では、ひざ、腰、股関節、肩など肩など、体のさまざまな痛みは、足指の変形から始まっていることが多いと考えています。
足指は、全身を支える土台です。足指がしっかり伸びて開いていると、地面との接地面積が大きいため、まっすぐ安定して立つことができます。
ところが、靴下や靴の中で足指が縮こまり変形してくると、不安定になって、体にゆがみが生じます。その結果、あちらこちらに痛みが出てくるのです。
足指のなかでも、まず注目すべきは小指(第5趾)です。
足腰の不調を訴えて来られる患者さんの約9割に、小指が親指側に曲がった「内反小趾」や、小指が横を向いて寝たような状態の「寝指」といった変形が見られます。足指の変形は小指から始まるといっても過言ではありません。
足の小指には、ひざが外側に傾くのを防ぐストッパーの役割があります。その小指が変形してストッパーが効かなくなると、ひざとひざの間が開いてО脚になっていきます。それに伴い、股関節も外側に開き、骨盤にゆがみが生じます。
これが、ひざや腰、股関節の痛みを引き起こし、さらにはその上に乗っている上半身にも影響を及ぼして、さまざまな不調を招くわけです。踏ん張ることもできないため、転倒したり、捻挫などのケガもしやすくなったりします。
足の親指( 母趾)が小指側に曲がった状態の外反母趾も、実は内反小趾を経て起こります。小指も親指も内側に変形した「棺桶型」になってしまったら、かなり危険な状態です。
できれば、そうなる前に対処したいもの。それには、小指の異常にいち早く気づき、ケアすることが大切です。小指を整えることは、外反母趾や体の痛みを防ぐことにつながるのです。
内反小趾や寝指のほかに、指が地面から浮いている「浮き指」、第1関節が折れ曲がっている「かがみ指」も、指の変形が始まっているサインです。
足指をチェックして、一つでも当てはまるものがあれば、今すぐケアを始めましょう。
《 主な足指の変形 》
「かがみ指」
指が曲がってかがんだ状態
「寝指」
指が横を向いて寝たような状態
「浮き指」
指が地面に着かず、浮いている状態
「外反母趾」
親指が小指側に曲がった状態
「内反小趾」
小指が親指側に曲がった状態
「棺桶型」
小指も親指も内側に曲がったかなり危険な状態
「足指のばし」のやり方
足指のケア方法として、私がお勧めするのは「足指のばし(ゆびのば体操)」です。この体操は、子供の足指の変形に危機感を持った保育士のかたがたといっしょに、私が考案しました。
【ポイント】
優しくゆっくり行う。
・床かイスに座り、片方の足をもう片方の足の太ももの上に乗せて行う。
・1日1~2回を目安に行う。
❶手の指を足指の間に入れる。
やり方は簡単。足指の間に反対側の手指を入れます。根もとまで入れるのではなく、先のほうにはさむ程度でけっこうです。痛くて指が入らない人は、足指を軽く握るだけでもかまいません。
❷足指を甲側に曲げて、5秒間保つ。
手をふんわり握ったら、足の裏側を伸ばすように、足指を足の甲側へ曲げます。このとき、強い力で曲げ過ぎるのは厳禁です。手首は固定して、わきを開くとよいでしょう。足指は30度も曲げれば十分です。その状態を5秒間保ちます。
❸足指を足裏側に曲げて、5秒間保つ。
次に、足の甲を伸ばすように、足指を足の裏側へ曲げます。やはり手首は動かさず、今度はわきを閉じていきます。そして、5秒間保ちます。
(2)と(3)を交互にくり返し、10~30往復したら、もう片方の足も同様に行います。
ひざ痛が改善し手術を回避できた人も!
足指のばしは、体操をしている実感がないくらい、子供でもお年寄りでも簡単に、無理なくできる足指のストレッチです。でも、たったこれだけで、体は一瞬にして変わります。
上の写真を見てください。79歳の女性が、体重72kgの私を背負えるようになるのです。足指が伸びて安定して立つことができると、体が持つ本来の力を発揮できるからです。これは、テレビでも実践しましたが、ゲストの皆さんが大変驚いていました。
実際、ひざ、腰、股関節の痛みが改善し、その場で正座ができるようになる人、スタスタ歩けるようになり、杖を忘れて帰る人もいます。
一例をご紹介します。変形性ひざ関節症で手術を勧められ、足を引きずって歩いていたAさん(60代・女性)。足指のばしを教えたところ、自宅で熱心に実践し、3週間で痛みが軽減して、普通に歩けるようになりました。もちろん、手術を受ける必要もなくなりました。
足指が伸びてまっすぐ立てるようになると、ネコ背や反り腰が改善して姿勢もよくなります。ふんばれるようになることで、転倒も防げるでしょう。
まっすぐ立てると、呼吸がしやすくなり、血流もよくなります。そのため、頭がスッキリして集中力がアップしたり、足の冷えやしびれ、肩こり、便秘の改善、血圧の安定にもつながったりします。
すでにО脚や外反母趾になっている人も、足指のばしを続けることで改善が期待できます。
定着させるには「小股歩き」をプラス
さらに、足指のばしで伸ばした足指を、体に覚えさせて定着させるには、「小股歩き」をプラスして行うことが有効です。
ふだん歩いている歩幅の約半分、女性なら30〜40cmの歩幅を目安にウォーキングを行いましょう。できるだけ多く歩くのが理想ですが、最初は無理をせず、少しずつ歩数を増やすようにしてください。
足指のばしの効果を高める「小股歩き」
足指のばしの後に行うと、足指が伸びた状態が定着する。足指を使って地面を押すように歩くと、ふくらはぎのポンプ作用も高まる。
小股歩きを行うと、自然と足指をしっかり使うようになります。足指を使うとふくらはぎの筋肉が動くため、下半身の血流を心臓に戻すポンプ作用が働きます。その結果、むくみやこむら返りが改善します。
下肢静脈瘤で、ふくらはぎの後部だけでなく前部まで血管が浮き上がっていたBさん(70代・女性)は、足指のばしと小股歩きを行ったところ、4ヵ月で血管の隆起が目立たなくなりました。
何歳になっても、体を変えることは可能です。皆さんも足指のばしで、足指から健康な体を手に入れてください。
《足指のばしで足指の変形や下肢静脈瘤が大改善》