みそは、発酵過程でさまざまな有効成分が生まれます。私たち研究チームが発見した「グルコシルセラミド」もその一つです。我々はグルコシルラミドがある善玉菌を増やすことを突き止めました。それが「ブラウティア・コッコイデス」という菌です。【解説】北垣浩志(佐賀大学農学部教授)
解説者のプロフィール
北垣浩志(きたがき・ひろし)
佐賀大学農学部生物環境科学科教授。農学博士。東京大学農学部卒業。国税庁醸造研究所研究員、米国サウスカロライナ医科大学などを経て現職。専門は醸造微生物学。日本の伝統食品の機能性開発や、グルコシルセラミドの化粧品・機能性食品の開発などに携わる、こうじ研究の権威。科学技術分野の文部科学大臣表彰、日本農学進歩賞など、受賞歴多数。
肌細胞を引き締めて水分蒸発を防ぎ肌が潤う
私は、みそやしょうゆ、日本酒、甘酒など、日本の発酵食品のほとんどに含まれている「こうじ」の健康機能性について、数多くの研究を行っています。
そして、私たち研究チームが発見したのが、こうじに含まれる「グルコシルセラミド」という成分です。
みそは、加熱した大豆にこうじと塩を加え、発酵させて作られます。この発酵過程で、さまざまな有効成分が生まれます。グルコシルセラミドも、その一つです。
私たちが、このグルコシルセラミドの作用を調べてきた結果、多くの効果が期待できるとわかりました。
まずは、美肌効果です。
私たちは、こうじから抽出したグルコシルセラミドを、肌の培養細胞に投与する実験を行いました。それぞれに熱刺激を与えて、肌細胞の活性を比較します。
すると、グルコシルセラミドを投与した群の細胞は、通常の細胞よりも、より活性化するとわかったのです(下図参照)。
《 みそに含まれる成分が肌細胞を活性化する! 》
ここで重要なのが、肌の表皮の下層にある、基底層です。グルコシルセラミドが基底層に達すると、そこから肌全体の細胞が活性化しました。
つまり、この層には、肌全体の細胞を活性化させるスイッチがあり、グルコシルセラミドがそのスイッチを押した、と考えられるのです。
また、グルコシルセラミドによって、基底層の細胞がギュッと引き締められることで、水分の蒸発を防ぎ、肌の保湿に役立つことも示唆されました。
これらの結果は、直接、肌細胞にグルコシルセラミドを投与したケースですが、食事によってグルコシルセラミドを摂取しても、内側から効果を発揮する可能性が認められています。
肝臓に吸収されたグルコシルセラミドが、血液を通じて全身に運ばれて、肌の細胞を活性化させたと考えられるのです。
インスタントみそ汁でも成分は摂取できる!
次に、腸内環境の改善効果です。
通常、食べ物は小腸で分解・吸収されますが、グルコシルセラミドの大半は、大腸で直接分解・吸収されます。そして我々は、グルコシルラミドが腸内細菌のエサとなり、ある善玉菌を増やすことを突き止めました。
それが、「ブラウティア・コッコイデス」という菌です。ブラウティア菌は、日本人の腸内に多く存在する腸内細菌で、抗不安作用や、腸の炎症を抑える作用があります。
また、ブラウティア菌のような善玉菌が増えて、善玉菌に多様性があるほうが、腸内環境は改善するといわれています。腸内環境がよくなれば、腸の働きもよくなり、便秘の解消や免疫力のアップなどが期待できるのです。
さらに、メタボリック・シンドローム対策にも有効です。
グルコシルセラミドの一部は小腸で分解・吸収されますが、私たちの研究で、それが肝臓に運ばれると、肝臓内のPPARという因子に作用して、脂肪の代謝を活性化させることが判明しました。代謝がスムーズに行われれば、脂肪肝やメタボの改善にも有効です。
また、肝臓のコレステロール値を下げる作用も確認しました。
肝臓の余分なコレステロールは、胆汁酸として腸内に排出されます。胆汁酸は、脂肪を分解する働きがありますが、過剰に分泌されると、腸内で二次胆汁酸に変わり、大腸の粘膜細胞をガン化させる恐れがあります。
しかし、グルコシルセラミドによって腸内環境が整えば、余分な胆汁酸が、どんどん体外に排出されて、二次胆汁酸の発生を防ぎます。こうして、胆汁酸の循環がよくなれば、より一層、メタボの改善につながるわけです。
グルコシルセラミドの補給という点で考えれば、日本を代表する発酵食であるみそ汁は、手軽にとれるうってつけの食品といえます。
1日1杯程度なら、塩分のとり過ぎにならず、みそ汁のさまざまな健康効果を享受できるでしょう。インスタントのみそ汁でも、グルコシルセラミドは問題なく摂取できます。
ちなみに、私は、発酵食品の研究者として、みそ汁をはじめとする発酵食品を日々とっているおかげで、便秘とは無縁です。ところが、出張でみそ汁などをとれなくなると、とたんに便秘になります。やはり、発酵食パワーは偉大です。
ぜひ皆さんも、毎日のみそ汁で健康体を維持してください。
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