私たちは葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12の摂取と虚血性心疾患リスクとの関連について、の研究結果を2008年に国際専門誌で発表しました。これらの栄養素の摂取量が多い人ほど心筋梗塞リスクが低いことが、統計学的に明らかになったのです。【解説】磯博康(大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学教授)
解説者のプロフィール
磯博康(いそ・ひろやす)
大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学教授。医学博士。1986年、筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。ミネソタ大学研究員、ハーバード大学医学部客員准教授などを経て、 2005年より現職。専門分野は公衆衛生学、生活習慣病の疫学・予防医学。地域における生活習慣病の予防対策の研究・実践に高い評価を受ける。著書に『長寿の法則―悪習慣はいい習慣にトレード!』(角川書店)などがある。
ビタミンを多くとると心筋梗塞リスクが半減!
前記事では、魚の摂取量と、心筋梗塞をはじめとする虚血性心疾患(心臓の血流が悪化して起こる病気)の発症リスクについて、私たちの研究結果をご紹介しました。
この項では、その研究と同時期に調査した、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12の摂取と、虚血性心疾患リスクとの関連についての研究結果をお伝えしましょう。この研究結果は、2008年に国際専門誌で発表しました。
調査概要は、魚の摂取量の研究時と同様です。約11年間にわたって40~59歳の男女・計4万1578人を対象に実施しました。
私たち研究グループは、まず、食事調査を含む生活習慣についてのアンケートをもとに、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12の1日当たりの摂取量を算出。摂取量の最も少ない群から最も多い群まで、五つにグループを分けました。
そして、虚血性心疾患のリスクを高めるほかの要因(年齢、性別、喫煙、飲酒、肥満など)の影響を除き、総合ビタミン剤を摂取している人も除外しました。そのうえで、各栄養素と虚血性心疾患リスクとの関連を調べたのです。
その結果、ビタミンB6の摂取量が比較的多い群は、虚血性心疾患のリスクが明らかに低いことが確認できました。
さらに、心筋梗塞だけに限って調査してみると、ビタミンB6を最も多くとった群の発症リスクは、最も少ない群の0.52倍だとわかりました。
そして、葉酸、ビタミンB12においても、摂取量が多い人ほど心筋梗塞リスクが低いことが、統計学的に明らかになったのです(下図参照)。
《葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12の摂取量と心筋梗塞リスク》
三つの栄養素をくまなく摂取することが重要!
これらの栄養素が心筋梗塞リスクを低下させたのは、肝臓での代謝過程で一時的に作られるアミノ酸の一種「ホモシステイン」が関与していると考えられます。
葉酸やビタミンB6、ビタミンB12には、代謝を促進する酵素を補う役割があります。これらが不足すると、肝臓の代謝が滞り、血中のホモシステイン量が上昇します。
ホモシステインには、血小板を凝集させたり、血管を広げにくくしたりする作用があります。これが血中に増えると、動脈硬化を招きやすくなります。
つまり、葉酸やビタミンB6、ビタミンB12をしっかり摂取することは、血中のホモシステイン濃度を低下させ、動脈硬化の予防・心疾患リスクの低下につながると考えられるのです。
葉酸は、ホウレンソウやコマツナ、モロヘイヤなどの青菜全般、枝豆などに多く含まれています。海藻類にも豊富です。
ビタミンB6は、豆類やナッツ類、米などの穀類から摂取できます。ビタミンB12は、日本人の場合、魚が主な摂取源になります。
ビタミンB群は熱にも比較的強いので、加熱して食べても問題ありません。ただし、水溶性なので、栄養素が溶け出した状態でゆでこぼしてしまうおひたしよりは、汁ごととれるスープや炒め物のほうがよいでしょう。ちなみに、葉酸もビタミンB群の一種です。
私たちの研究では、これら三つの栄養素の摂取量がすべて少ない群と、すべて多い群を比べたところ、すべて少ない群は、心筋梗塞リスクが約2倍高いことがわかりました。
また、栄養素の摂取量が一つだけ多くても、残りの二つが少ない人は、心筋梗塞リスクが高い傾向が見られました。
つまり、心疾患を予防するには、どれか一つではなく、三つの栄養素をまんべんなく摂取することが重要といえます。
別記事:磯博康先生監修「血管イキイキ!美味レシピ」→
また、栄養学的見地からいっても、多彩な食材を摂取したほうが、それぞれの食材に含まれるいろいろな成分を取り込むことができます。
特に和食は、葉酸、ビタミンB6、ビタミンB12をはじめ、さまざまな栄養素をバランスよくとれる、理想の食事といえます。ですから、和食で多く使われている食材を意識してとるといいでしょう。
ぜひ皆さんも、できるだけ偏りのない食生活を心がけて、動脈硬化や心疾患予防に努めてください。