私たちは魚の摂取量と、虚血性心疾患(心臓の血流が悪化して生じる疾患)発症リスクの関係を調べました。魚を週8回程度食べる人は、週1回程度しか食べない人に比べて、心筋梗塞と診断が確定された場合に限ると、なんと6割もリスクが低くなっていたのです。【解説】磯博康(大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学教授)
解説者のプロフィール
磯博康(いそ・ひろやす)
大阪大学大学院医学系研究科公衆衛生学教授。医学博士。1986年、筑波大学大学院医学研究科博士課程修了。ミネソタ大学研究員、ハーバード大学医学部客員准教授などを経て、 2005年より現職。専門分野は公衆衛生学、生活習慣病の疫学・予防医学。地域における生活習慣病の予防対策の研究・実践に高い評価を受ける。著書に『長寿の法則―悪習慣はいい習慣にトレード!』(角川書店)などがある。
心筋梗塞リスクか゛6割も低かった!
欧米の研究では、「週1回程度、魚を食べることで、心筋梗塞のリスクが半減する」という研究結果が、これまでいくつか報告されています。では、欧米人よりも魚を食べる頻度の多い日本人では、実際どうなのでしょうか。
私たちの研究グループが2006年に発表した研究結果を、ご紹介しましょう。
私たちは、日本の各地域の保健所を基盤とする「JPHC(Japan Public Health Centerbased)」研究の集団追跡をもとに、魚の摂取量と、虚血性心疾患における発症リスクの関係を調べました。
虚血性心疾患とは、心筋梗塞のように、心臓に血液を送る動脈が硬化したり血栓が生じたりすると、心臓の血流が悪化して生じる疾患です。
調査対象は、岩手・秋田・長野・沖縄の4県の一部の保健所管内に住む、心臓血管系疾患およびガンではない40~59歳の男女・計4万1578人です。
1990~1992年に、食事調査を含む生活習慣についてのアンケートを実施。その後、2001年まで追跡調査を行いました。
この調査結果をもとに、私たちは魚の摂取量によって、対象者を五つのグループに分けました。最も少ない群の魚の摂取量は週1回程度、2番めの群は週3回、3番めの群は週4回、4番めの群は週5回、最も多い群は週8回程度に相当します。
そして、虚血性心疾患のリスクを高めるほかの要因(年齢、性別、喫煙、飲酒、肥満など)の影響を除いたうえで、魚の摂取量による発症リスクを比較しました。
その結果、魚の摂取量が最も少ない群に比べて、その他の群ではいずれも、虚血性心疾患のリスクが下がっていました(下図参照)。
特に、魚の摂取量が最も多い群と最も少ない群を比較すると、魚を週8回程度食べる人は、週1回程度しか食べない人に比べて、心筋梗塞リスクがおよそ4割低くなっていました。特に、心筋梗塞と診断が確定された場合に限ると、なんと6割も低くなっていたのです。
《魚の摂取量と心筋梗塞リスク》
なお、心臓停止による突然死など、1時間以内に亡くなるような心筋梗塞では、有意差は見られませんでした。これは、日本人の場合、魚の摂取量が最も少ない群でも週1回程度は食べていることから、突然死の原因となる不整脈の出現リスクがもともと低いためと考えられます。
しかも、週1~2回魚を食べるだけでも予防効果は期待できますが、それ以上食べるとさらに効果が高まることが、この研究で明らかになりました。
魚に豊富な脂肪酸が血管を広げて血流アップ
では、魚のどの成分が心疾患リスクを低下させたのでしょうか。
私たちは、魚の摂取量から、EPAやDHAなどの「n-3系脂肪酸」の摂取量を算出し、その量による虚血性心疾患のリスクの比較も行いました。
すると、魚の摂取量で見た場合と同様、最も摂取量の多い群は、最も摂取量の少ない群に比べて、心筋梗塞と診断が確定された場合に限ると、65%低くなっていたとわかったのです。
n-3系脂肪酸には、血小板を凝集させにくくする作用、血管を広げる作用、中性脂肪を減らす作用などがあります。
つまり、魚を多く摂取すると、魚に含まれるn-3系脂肪酸の働きによって、動脈硬化の進行を防ぎ、血流がよくなることで、不整脈などのリスクも低くなると考えられるのです。
今回の調査では、魚の摂取量が最も多かった群の平均摂取量は、1日180gでした。2003年の厚生労働省の調査によると、日本人の魚介類摂取量は、1日平均40~49歳で、93.2g、50~59歳で105.5gです。
魚の切り身一切れがおよそ80gとすると、例えば夕食以外にもう1食、魚料理を食べれば180gに近づく計算です。
n-3系脂肪酸を最も多く含むのは青魚ですが、白身魚にも多く含まれています。また、新鮮な魚であればあるほど、含有量も豊富です。
とはいえ、毎日鮮魚を食べるのは難しいかと思います。もし手軽にとりたい場合は、ツナやサバなどの缶詰を利用してもよいでしょう。
今より少し魚を増やす意識で、日々の食事に取り入れてみてはいかがでしょうか。
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