私は、健康の出発点は手のケアだと信じています。毎日使う手を大切にすることこそが体を守ることにつながると思うのです。また手は、愛情を伝えるための重要な道具でもあるのです。どうぞその大切な道具の手入れを続けてください。【解説】大高博幸(ビューティ エキスパート)
解説者のプロフィール
大高博幸(おおたか・ひろゆき)
ビューティ エキスパート。1948年、神奈川県小田原市生まれ。24歳のとき、日本人として初めてパリコレクションでメイクを担当。美容業界歴51年(化粧品会社勤務約30年を経てフリーランスとして21年)。月間『美的』(小学館)で創刊以来の連載、『美的.com』では週1回配信の連載執筆を担当。最近は小規模なセミナータイプのイベントにも定期的に出演中。
心身の健康維持にハンドケアは必須
若々しい印象を保つために毎日のフェイスケアは欠かさないという人は多いでしょう。しかし顔と同様、ときにはそれ以上の好印象を相手に与える部分があります。それが、「手」です。
これは私自身の体験で証明できます。私は美容業界に身を置いて51年。ビューティ エキスパートとして、ときには人前でメイクのデモンストレーションをすることがあります。
そんなとき、「先生の手がきれいだった」「手にしたティッシュペーパーが天使の羽衣に見えた」などと、手についてのほめ言葉をいただくことが多いのです。
手は、その人の印象を左右する「第二の顔」だと、私は感じています。
私は幼い頃から手に強い関心を持っていました。近くの浜辺で網を繕う漁師さんたちや、鍛冶屋、箱根細工の職人さんたちの手の動きを眺めるのが好きな子どもだったのです。
19歳で化粧品会社に入社し、プロ意識に目覚めると、さらに手肌や手の動きに注意を払うようになりました。
肌は水で濡らすたびに潤いが失われる
体のなかで手ほど汚れる部分はありません。掃除や炊事、洗濯などの家事仕事では、ほこり、油、泥、雑菌などにまみれます。外出すれば、さらに汚れる機会が増えます。
汚れる機会が多ければ、手を洗う回数も増えます。洗顔はせいぜい1日に2回。これに対し、手は1日に何度洗っているでしょうか。
肌は水で濡らすたびに潤いが失われます。
これは手肌でも同じ。しかも手肌の場合、1度濡らすとヒュメクタント(肌の内側から分泌される水分や油分が一体化して形成する、潤いの膜)が元に戻るまでに時間がかかります。手には皮脂腺がほとんどないからです。
そのため、手を洗ったあと放っておくと、すぐに肌が荒れてしまいます。
また、手は細かい作業をするために、もともと肌のひだやキメの線がハッキリとしています。関節には折れ目のシワがありますし、指先には指紋もあり、とても精巧につくられている部位なのです。
以上のことからもわかるように、若々しく美しい手を維持するためには、こまめなハンドケアが必要となります。
また、ハンドケアは、心身の健康・美容の維持にも非常に役立ちます。まずは、常に清潔にしておくことで、体によくない菌やウイルスが体内に侵入するのを防ぎます。
それ以外にも、人は無意識に顔や髪など、体のあちこちを触ります。手が汚れていたり、荒れてゴワゴワしていたりすれば、触れた先の肌や髪が傷ついてしまうのです。
一方、ケアの行き届いたしっとりとした柔らかい手で触れれば、エステティシャンのような特別な技術はなくても、顔や髪、首、全身などの肌は傷つかず、美しさをキープできます。
また、ケアの行き届いた手は、触れた相手を喜ばせたり安心させたりもできます。
反対に、荒れた手で触れれば、不快な肌触りのうえに、相手に生活や心理面が満たされていないというマイナスの印象を与えかねません。
哲学者のカントは『手は体の外に出た脳である』と述べたそうです。細かい手作業をする人は、認知症になりにくいという説もあります。
人生が刻まれた美しい手は人を癒す
もちろん、適切なハンドケアが「美しい手」を作ります(詳しくは下記)。
私は、美しい手は大きく2種類に分けられると考えています。
一つは、形やキメ、質感などの見た目が完全に整った美しい手。いわゆる手タレ(手のモデル)のような手です。
この手は美しさの維持に大きな努力を要します。家事などは一切しないという人もいれば、日中は手袋をはめて過ごすという人もいるでしょう。
もう一つは、家事や仕事などを日々誠実に行い、それによって受けたダメージをケアし続けている手です。
この手は、前者のような美しさはなくても、これまでの人生が刻まれ、人に優しい印象を与えたり、自身や触れた人を癒したりすることができるのではないでしょうか。
大高流ハンドケア六つのアドバイス
正しいハンドケアを続ければ、自分の人生が刻まれた手に輝きが増します。その成果は、フェイスケアよりも早く、如実に現れるはずです。
ハンドケアは、若いうちに始めるほど効果が早く得られます。もちろん、年配者であっても、効果は確実に現れます。
私が挙げるアドバイスは六つです。
(1)「むやみに手を濡らさない」
前述したように、手肌は濡らすとヒュメクタントが元に戻るまで時間がかかります。汚れた手を洗うのは当然ですが、食器洗いなどの水仕事はまとめて行い、手を水に濡らす回数を減らしましょう。
(2)「水の温度は人肌程度がお勧め」
お湯の温度も肝心です。40℃以上の温かいお湯は手肌の潤いを洗い流してしまいます。逆に、冷たすぎる水も毛細血管を収縮させるため、手肌にはよくありません。人肌程度の36℃前後のぬるま湯がお勧めです。
(3)「濡れた手はタオルで完全に乾かす」
手洗い、水仕事のあとは、タオルなどで、できるだけ早く手を乾かしてください。水分を自然に蒸発させると手荒れの原因となるので、完全に乾かすことが重要です。
(4)「手にある二つのツボ[労宮・合谷]を刺激する」
労宮は、中指の下、手のひらの中央付近にあるツボで(次項の(8)参照)、刺激すると疲れが取れるといわれています。
合谷は、手の甲側の、親指と人さし指の骨が交差するあたりにあるツボで(次項の(9)参照)、押すと肩こりや目の疲れなどに効果があるといわれています。
私自身、カイロプラクティックやハンドケアサロンなどで受けたマッサージで、この二つのツボは本当に効くと実感しました。ハンドクリームをぬりこむ過程で、刺激する(押す)ことをお勧めします。
(5)「症状により、使用するハンドクリームを選ぶ」
ハンドクリームは、保湿を第一に考える場合、ヒアルロン酸やグリセリンを配合したタイプか、濃厚な成分であるシアバターなどの植物オイルやコラーゲンを配合したタイプがお勧め。
かゆみや痛みなどに対する鎮静的効果を期待したい場合は、カンフル(カンファー)などを配合したタイプがよいでしょう。
また、日中はサラッとした使い心地で見えない手袋のように皮膜を形成するタイプを、就寝前にはオイルリッチでコクのあるタイプを使うなど、時間帯によって変えるのもお勧めです。
(6)「ハンドクリームを家中に分散して置いておく」
気がついたときにハンドクリームを手にぬる習慣が身に付き、瞬時に手の潤いが復活します。私の家には4ヵ所にハンドクリームが常備されています。外出時の携帯用に一つ持つことも忘れません。
私は、健康の出発点は手のケアだと信じています。毎日使う手を大切にすることこそが体を守ることにつながり、衛生的な気遣いが、日々の生活態度にも表れると思うのです。
ハンドケアをすると、幼い頃の思い出が甦ります。両親は私のカサついた手に、よくクリームをすりこんでくれました。介護などで誰かのお世話をするときも、なめらかな優しい手であれば、相手は穏やかな気持ちになれるはずです。
手は、愛情を伝えるための重要な道具でもあるのです。どうぞその大切な道具の手入れを続けてください。
しっとりスベスベに手が若返る!ハンドクリームのぬり方
❶ハンドソープで洗浄して、タオルで拭いた手の甲に、500円玉程度の大きさになる量のハンドクリームをつける。
❷ハンドクリームをのせた手の甲に反対の手の甲を重ねて、すり合わせる。そのまま手を回し、全体になじませる。
❸全体にラフになじませたら、すりこむように手の甲、指、手のひらの順に、しっかりなじませる。
❹片手の親指から順番に10本の指を、つけ根から指先に向かって丁寧にマッサージする。
❺爪の生え際と横を少し強めに押しながらハンドクリームをもみこむ。ささくれがあるときは、強く押さない。
❻両手を組んで重なった指全体を左右に回し、指先で手の甲を指圧する。血行を促すマッサージ効果がある。
❼合計8つある指の間にも、ハンドクリームを忘れずにのばす。
❽手のひらの中央付近にある「労宮」のツボを押して、疲労を和らげる。
❾「合谷」のツボを押す。肩こりや目の疲れに効果がある。
❿手首は案外シワが気になる部位。ハンドクリームを少量追加して保湿する。
理想は1日5回以上の手の保湿。習慣にすれば、しっとりとした美しい手になっていく