AMラジオとFMラジオそれぞれの特長を比べても、AM放送を維持し続けるというのは放送局という民間企業にとってはメリットよりも負担が大きすぎる。「近い将来にAMラジオはなくなる可能性が高いのだろうか?」という読者の疑問に専門家が回答する。
あなたの疑問にズバリお答え!
AM放送は、将来的になくなるの?
読者から質問
AM放送をやめてFM補完放送(ワイドFM)一本にできるよう、関係団体が総務省に要請しました。AM放送はモノラルで雑音も多く音質が悪いため、「radiko」がスタートしてからは、まったく聴かなくなりました。災害時には必要な放送技術だとは思うのですが、将来的に消滅してしまうのでしょうか?(H・Iさん 千葉県 52歳)
専門家の回答
編集部:
AMラジオがなくなるかも……というニュースがありましたね。これは、フリーライターの福多利夫さんに聞きます。
専門家:
「先日のニュースは『民放連がAMラジオ局がワイドFMに一本化することも選択できるように法改正してほしいと総務省に制度改正を求めた』というもの。民放連、つまり放送局側が、『AMをやめて、AMと同じ内容のワイドFMに一本化したいという放送局が出てきたら、これを認めてやってほしい』ということですね。
放送局側の事情は容易に想像できます。現在、AMとワイドFMで同じ内容を放送しており、設備としてAM用とFM用の両方を維持しています。これをFMに一本化して運用コストを下げたいのでしょう。
放送局のCM収入が減っているという懐事情もあると思いますが、なぜAMではなくFMに一本化なのかといえば、やはりAMは音が悪く、AMしか受信できないラジオ(受信機)も皆無といえる状況なので、AMにこだわる必要がなくなったのでしょう」
編集部:
AM放送は、なくなってしまうのでしょうか?
専門家:
「個人的な感触としては、AMはなくなると思います。ご指摘のように『radiko』、つまりスマホでラジオを聴くことが多くなっていて、聴く側にはAM・FMの区分けが関係なくなりつつあります。ラジオ受信機を使う場合でも、AMは集合住宅の室内ではほとんど受信できませんから、ワイドFMのほうで聴くことが多くなっているはずです」
編集部:
AMがなくなると、災害時に困ることになりませんか?
専門家:
「AM放送の特性がカギです。AMは建物の中では受信しにくいのですが、山や大きな建物を回避する特性に優れています。つまり山間の平地で屋外だと、FMよりAMのほうが受信しやすいですし、より遠くでも聴けます。
また、FMは電波強度が低いと何も聴こえませんが、AMは電波強度が低くてノイズだらけでも、わずかに放送が聴こえます。さらに、AMはゲルマニウムラジオ(鉱石ラジオ)のように、電源を必要としない回路でも聴くことができるのです。これらの特徴は、災害時に役立つ可能性があるわけですね。
とはいえ、これらの極限的なレアケースのためにAM放送を維持し続けるというのも、放送局という民間企業にとっては負担が大きすぎるでしょう。よって、AM維持に国からの補助でも出ないかぎり、近い将来にAMはなくなると思います」
編集部:
AM放送は風前のともしびなんですね。今のうちに独特なAMの音を楽しんでおきます。
イラスト/はやし・ひろ