昔はその機能が付いていなかったのに、今は多くの洗濯機に標準装備されているものがあります。それは、お風呂のお湯を汲む「ポンプ」です。そう、多くの日本人に支持されている「もったい精神の権化」のような機能です。果たして、これはイイことなのでしょうか。これを「洗う」という視点から見てみましょう。
そもそも「洗濯」とは?
洗濯とは、洗剤などの化学的な力、洗濯機の物理的な力を駆使して、「洗濯物の汚れを水に移し替えること」です。このため、基本は「水」が必要です。また、化学的な活性を得るためには、温度は高い方がよく、ベストな洗濯は「お湯洗い」です。
では、そのお湯が「風呂の残り湯」だとしたらどうでしょうか?
お風呂の残り湯は、かなり汚い
風呂の湯は、水道水を沸かしたものです。水道水は、衛生管理が徹底した水で、日本では蛇口から出た水を飲んでも問題ない。しかも、かなり美味い。こんな国、世界を見てもほとんどありません。
日本の洗濯機は「水」の想定を、この「水道水」を標準に設計されています。
この「水」が、水道水ではなく、「風呂の残り湯」となった場合、どうでしょうか?
通常、湯船につかる前には、体をざっと流しますね。しかし、ここで体の垢(あか)が全部落ちるわけではありません。
そして、湯船につかっている間に、垢の一部はお湯の中へ出ていきます。また、風呂の中は高温ですので、汗もかくでしょう。それらの分泌物も、微量ですがお湯に溶けていきます。
そして、湯殿で石けんを使い、垢をすり落とします。体を洗い、また湯船へ。この時、韓国式垢スリでもしてもらうとはっきり分かりますが、まだまだ体には、垢や分泌物は付着しています。
要するに、風呂の残り湯は、垢や分泌物が混じっている「かなり汚い」水なのです。
水が汚いと、洗濯物の汚れは移動しにくい
さて、洗濯槽の中。洗剤が洗濯物の汚れを落とせるのは、「洗濯物以外に汚れているモノがない」状態だからです。要するに、繊維に付着している汚れを集中攻撃できるわけです。
ところが、水が汚れているとどうでしょうか。洗剤の一部は、その汚れを「攻撃」します。元々、体の垢は、洗濯汚れの一つですからね。こうなると、「水道水で洗う」という想定条件が、変わって来ます。しかも悪い方向へ、です。
結果的にどうなるか、言いましょう。
スゴーく端的に言いますと、洗剤のパワーが足らなくなり、洗濯物に汚れが残ってしまいます。
すすぎを繰り返しても「ニオイ」が発生しやすい
洗濯物に残った汚れは、すすぎを繰り返しても、布繊維の隙間に「風呂の残り湯」として入り込みます。先述したように、風呂の残り湯には垢が多く含まれています。これは、見方を変えれば、水道水より「はるかに栄養が豊富にある」ということです。干している間に、「臭いのもと」になる雑菌が繁殖し易い状況であり、乾きが悪いと「臭い」が発生します。
昔は、基本的にすべて「天日干し」でしたから、紫外線の「日光消毒」効果もありましたが、今の都会は基本的に部屋干し。つまり、乾きが遅いです。つまり、それだけ雑菌が繁殖し易く、くさくなりやすいわけです。
まとめ
洗濯物のニオイが気になる人は、残り湯ではなく水道水で試してみて
洗濯を「コスト」で考えた場合、水道代が電気代以上に掛かっていることは、間違いありません。
風呂の残り湯を使って水道代を浮かす、たしかにこれは、コスト面からは有効でしょう。
しかし、それはもしかしたら、洗濯本来の「洗う」という目的の一部を、犠牲にしている可能性があるのです。
洗濯の仕上がり具合は、人によってそれぞれ許容範囲が違います。中には、「全然大丈夫。今までやってきて問題なかったから、俺は風呂の残り湯を使うぜ!」という人もいると思います。
事実は上記の通りですが、結論は人それぞれです。
ただ、洗濯に風呂の残り湯を使うと、部屋干しをしたときに臭いやすいということは科学的に証明されています。もし、部屋干しをしたときに臭いが気になる人で、風呂の残り湯を使っている人がいたら、まずは水道水で洗濯してみてください。臭いが違ってくると思います。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング、ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京歴史散歩とラーメンの食べ歩き。