これまでの栄養学は「何を」「どれくらい」食べるのがよいか、といった点を重視してきました。それに「いつ」という視点を加えて、生体リズムを食事にも応用しようというのが、時間栄養学です。そして、魚油による脂質代謝の改善には、朝に摂取するほうがより効果的と判明したのです。【解説】大石勝隆([国研]産業技術総合研究所バイオメディカル研究部門生物時計研究グループ長)

解説者のプロフィール

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大石勝隆(おおいし・かつたか)

国立研究開発法人産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門生物時計研究グループ長。東京大学大学院 新領域創成科学研究科客員教授。東京理科大学大学院 理工学研究科客員准教授。体内時計の乱れと疾患発症の関係を分子レベルで研究。食を中心とした生活習慣の改善による生体リズムの制御により、予防的観点から健康医療に貢献することを目指している。

朝に魚油を摂取すると最大限に効果を発揮!

今回お話しする「サバ缶みそ汁」について、クイズです。サバ缶をみそ汁に入れたサバ缶みそ汁には、健康にいい成分が豊富に含まれています。これはいったい、いつ食べるのが最も効果的でしょうか?

正解はです。
サバ缶に含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)は、朝に摂取したほうが、最大限に健康効果を発揮することが、私たちの研究によって明らかになりました。

私は、体内時計の乱れが体のさまざまな機能に与える影響を調べるとともに、時間栄養学と呼ばれる研究を行っています。

こういうと、イメージがしづらいかもしれません。けれども読者の皆さんも、「夜に食べると太りやすい」というのは、漠然と知っているかと思います。

生物の睡眠やホルモン分泌、体温調節などのさまざまな生理機能には、約24時間周期のリズムがあります。

例えば、「アトピー性皮膚炎の症状は、夜に重くなる」「ぜんそく発作は、早朝に起こりやすい」といった、特定の症状の傾向も、その疾患を持つ人たちの間では、よく知られていることです。

体内時計というのは、こうした生体リズムを制御する、体内のシステムのことを指します。

体内時計のメカニズムが解明できれば、例えば、「この症状には、いつ薬を飲むのが最も効果的か」ということがわかってくるわけです。

これまでの栄養学は、「何を」「どれくらい」食べるのがよいか、といった点を重視してきました。それに「いつ」という視点を加えて、生体リズムを食事にも応用しようというのが、時間栄養学です。

先述した「夜に食べると太りやすい」というのも、ほんとうです。私たちの実験により、同じ物を食べるにも、朝よりも夜のほうが肥満になりやすいことが証明されています。

朝にとったほうが肝臓の中性脂肪が減少

では、冒頭の研究について、詳しくご報告しましょう。
DHAEPAは、体にいいとされるオメガ3系の、不飽和脂肪酸、つまり油の一種です。サバやイワシといった青魚の油に多く含まれており、脂質代謝を改善する効果があります。

私たちは2016年に、魚油の摂取時刻により脂質代謝効果に違いがあるかを調べるため、マウス実験を行いました。

マウスは夜行性なので、マウスが活動を始める時間を中心とした12時間を、朝食の時間帯とみなします。それに対して、活動を終える時間を中心とした12時間を、夕食の時間帯とみなしました。

実験では、脂肪肝を誘発するため、マウスに高果糖食のエサを好きに食べさせつつ、
●何も介入しない
●朝食の時間帯に、魚油を含んだエサを与える
●夕食の時間帯に、魚油を含んだエサを与える
といった3群に分けました。

朝にとる群と夜にとる群で、魚油の摂取量に違いはありません。これらのマウスを2週間飼育したあと、血液と肝臓を採取して脂質の蓄積状態を調べました。

その結果、何もしなかったマウスに対して、朝に魚油を与えたマウスは、血液中と肝臓中の中性脂肪の量が、明らかに減っていました。こうした作用は、DHAとEPAによるものと考えられます。

魚油を朝に与えた群と、夜に与えた群の、血液中のDHAとEPAの量も調べました。いずれのマウスもDHAとEPAは実験前より増えていましたが、朝に与えた群のほうが、夜に与えた群よりも、有意に増加していました。

《マウス実験の結果》

画像: 魚油の摂取による中性脂肪の低減(1日の平均値)

魚油の摂取による中性脂肪の低減(1日の平均値)

これはつまり、朝に魚油をとったほうが、DHAとEPAの血中濃度が高まるということを示します。

また、マウスの糞便を採取し、DHAとEPAの含有量を調査。すると、朝に魚油を与えた群の糞便には、夜に与えた群と比べてDHAとEPAが有意に少なかったのです。

朝に魚油を与えたほうが体外への排出が少ない、ということは、すなわち体内での吸収率が高いといえます。

こうしたマウス実験の結果により、魚油による脂質代謝の改善は、朝に摂取するほうがより効果的と判明したのです。

マウスでそうなら、ヒトでもきっと、同様のことがいえるはず。私たちは、マウス実験の結果を踏まえて、2017年に、臨床試験を行いました。

血中のDHAとEPAも明らかに多かった!

協力してもらったのは、健康な成人男女20名(20~60歳)です。被検者には朝と晩に1本ずつ、1日に計2本のソーセージを食べてもらいます。

しかしこのソーセージには仕掛けがあり、1本は魚油入り、1本は魚油のかわりに同量のオリーブオイル入りです。

被検者を2群に分けて、
①朝に魚油入りのソーセージを食べる(夜にオリーブオイル入りのソーセージを食べる)
②夜に魚油入りのソーセージを食べる(朝にオリーブオイル入りのソーセージを食べる)
という食事を、2ヵ月間続けてもらいました。

ちなみに試験で用いた魚油入りのソーセージには、DHAが1010mg、EPAが240mg含まれています。この含有量は市販されている魚油入りのソーセージより少し多いくらいで、大差はありません。

試験期間中の2ヵ月間、試験を始める前と、1ヵ月後、2ヵ月後の3回、それぞれ午前と午後に採血をしています。

採血前日の夕食と当日の朝食は、皆さんに同じ規定食を提供し、採血前の8時間は絶食してもらうなど、できるだけ条件をそろえたうえで、結果を比較しました。

すると、臨床試験においてもやはり、朝食時の摂取に有利な結果が出ました。

朝に魚油入りソーセージを摂取した①群では、夜に摂取した②群よりも、試験前に比べて、血中の中性脂肪値が有意に下がっていたのです。

加えて、血中のDHAとEPAの量も、明らかに増えていました。マウス実験とは異なり、便の中のDHAとEPAの量は測定しませんでしたが、朝に摂取したほうが、体内への吸収がいい可能性が考えられます。

朝食時に魚油入りソーセージを摂取した①群では、血中の飽和脂肪酸濃度が低下していたことから、脂肪酸の分解が促進された結果、中性脂肪の再合成が抑制されたのではないかと思われます。

こうしたわけで、DHAやEPAを多く含むサバ缶みそ汁は夜よりも朝に食べたほうが、その健康機能がより効果的に発揮されるといえるのです。

時間栄養学は、まだまだ新しい研究分野です。食品の機能性をより有効に活用できる、こうした知識を広めることで、予防医学分野に貢献できると考えています。

この記事は『壮快』2019年6月号に掲載されています。

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