【伊東ゆかりさん】歌いたい!大腿骨頭壊死の激痛を手術とリハビリで乗り越えた体験談

美容・ヘルスケア

あの痛みは、経験した人でないとわからないと思います。なんと表現していいかわからないほどの、耐え難い激痛でした。ステージの真ん中まで歩いて行き、歌を歌い、舞台袖に引っ込むという、たったそれだけの動作をすることが、ほんとうにつらかったのです。【体験談】伊東ゆかり(歌手)

プロフィール

伊東ゆかり(いとう・ゆかり)
歌手。東京都生まれ。1958年、キングレコードより『クワイ河マーチ』で歌手デビュー。その後、中尾ミエ、園まりとともに「3人娘」として人気を集める。1967年に発表した『小指の想い出』が爆発的なヒットを記録し、日本レコード大賞・歌唱賞を受賞するなど一世を風靡。翌年からも『恋のしずく』『朝のくちづけ』が立て続けにヒットし、1969年のNHK紅白歌合戦では紅組司会を担当する。歌手活動だけにとどまらず、女優としての才能もいかんなく発揮している。

骨が砕けたレントゲンを見て手術を決意した

股関節の調子が最初におかしくなったのは、2015年の夏のことでした。前触れのようなものは何もありません。まさに、ある日突然でした。

その朝、仕事先への飛行機に乗る前に、足が痛いと思っていたところ、右足を地面につけただけで、ビリビリとものすごい痛みが走りました。翌日には、さらに痛みが増し、心配した主催者から「伊東さん、車イスを用意しましょうか?」と気遣われるほど、ひどい状態になってしまったのです。

あの痛みは、経験した人でないとわからないと思います。なんと表現していいかわからないほどの、耐え難い激痛でした。ステージの真ん中まで歩いて行き、歌を歌い、舞台袖に引っ込むという、たったそれだけの動作をすることが、ほんとうにつらかったのです。

公演を終えて受診したところ、「大腿骨頭壊死」という診断でした。

私の場合、仕事でハイヒールをはくことが多く、もともと体のバランスが悪かったのかもしれません。こうしたことが積み重なって、ある日突然、症状として現れたのでしょう。

ただし、この最初の痛みは、痛み止めなどを飲んでいるうちに、1週間ほどでいったん消えたのです。もちろん、症状が根本的に治ったわけではありません。

その後、痛みはぶり返しました。よくなったり悪くなったり、ということをくり返しながら、私は、股関節の状態がだんだんひどくなっていくのを感じていました。

その翌年の夏になると、ほとんどまともに歩けない状態になっていましたが、手術にはどうしても抵抗がありました。しかし、骨が粉々に砕けたレントゲン写真を見せられたとき、私にも「これは手術するしかない」とわかったのです。

これからもステージに立って歌いたい

そして私は、ついに順天堂大学附属浦安病院で、人工関節に交換する手術を受けることになりました。2016年の10月のことです。

手術は無事に成功しましたが、その後、ハードなリハビリが始まりました。

股関節痛のために運動できない期間が続いたため、私の筋力はかなり落ちていました。術後は、歩き方を忘れていたほどです。

とはいえ、これからもステージに立って歌いたい。その一念から、筋トレやストレッチなど、必死でリハビリに取り組みました。

病院でのリハビリのほかにも、電車で立っているときには、「かかと立ち」をするようにしました。重心を後ろにかけるようにして立つのです。また、足の裏側を伸ばすようにするほか、ネコ背にならないように、できるだけ骨盤を立てることを常に心がけました。

電車の中でも「かかと立ち」で鍛えた!

千昌夫さんがくれた杖がリハビリに役立った!

そんな私を助けてくれたのが、愛犬のヨークシャーテリア「トム3」です。ほんとうなら、毎日散歩に連れていかないといけません。でも、うまく歩けなかった1年間、あまり相手をしてあげられませんでした。そのせいか、トム3の態度も、なんとなくよそよそしかったのです(笑)。

それだけでなく、痛みがひどいため、私はいつもイライラ、ピリピリ。もしかすると、そんな私を、トム3は怖がっていたのかもしれません。

手術後、リハビリも兼ねて散歩に連れていくようになったらトム3も大喜び。たぶん、私一人だったら、ふだんからこんなに歩くことはなかったと思います。ですから、トム3は私の命の恩人です。

最初のころは、千昌夫さんからもらった杖をついて、20分散歩するのがやっと。続けているうちに、40~50分くらい歩けるようになってきました。

以前は、速く歩けないために、信号が渡り切れず途中で立ち往生したこともありました。今では、ちゃんと信号を渡り切れるようになっています。

また、自宅から駅まで歩くと20分くらいかかっていましたが、駅に着くまでの時間もかなり短縮できました。

歩行に支障はなく大好きなテニスを再開!

こうしてリハビリを続けているうちに、股関節の痛みはほとんどなくなり、普通に歩けるようになりました。おかげで、今では大好きなテニスを再開しています。

手術をする前は、人工関節を入れることに抵抗がありました。でも、すばらしい先生に出会うことができたおかげで、思い切って手術をする決意がついてよかったと思います。

たとえ人工関節を入れても、きちんとリハビリやトレーニングを続ければ、以前のような筋肉がついて普通に動くことができるのです。

もし、皆様のなかで迷っていらっしゃるかたがいたら、私の体験をぜひ参考にしていただき、思い切って手術をする選択を考えてみてはいかがでしょうか。

これからは、まさに人生100年時代。私もせっかく股関節の悩みから解放されたのですから、声の続く限り歌手としてステージに立ちます。

筋肉を温存する手術法で歩行できるのも早い(順天堂大学附属浦安病院整形外科准教授 湯浅崇仁)

股関節は、骨盤側(臼蓋)と太もも側(大腿骨)により構成される関節です(左図参照)。

体重がかかる関節のため、年齢とともに関節の軟骨がすり減ってしまいます。

この病態が、変形性股関節症です。関節の軟骨が減少すると、臼蓋や大腿骨の骨にも変形が生じ、疼痛のため歩行困難となります。

通常、関節の変形は数年単位で進行するので、大腿の筋肉(大腿四頭筋)を鍛える訓練や杖を使用して負担を軽減すれば経過観察が可能です。

しかし、伊東さんの股関節は、短期間で急速に関節の破壊が進行するような病態でした。大腿骨頭壊死と似たレントゲン所見が見られ、疼痛のため歩行困難な状態となりました。

このように、股関節の破壊が進行すると手術で治療するしかなく、人工股関節全置換術を行います。この手術を受けると痛みがほとんどなくなり、歩行が可能になりますが、人工関節では動きによって、外れてしまう(脱臼)可能性があります。

伊東さんの手術に際しては、筋肉を切らない方法で行ったため、早期での筋力回復が可能となりました。また、筋肉を温存することで脱臼しにくく、術後、足の動きの制限もなくなりました。この方法で手術を受けた患者さんは、通常、術後3ヵ月で杖がなくても歩行が可能な状態となります。

この記事は『壮快』2019年6月号に掲載されています。

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