【ふくらはぎマッサージの健康効果】全身の血流を改善する要は「ふくらはぎ」。目安は「痛いけれど気持ちいい」強さで

美容・ヘルスケア

心臓は手で触れることはできませんが、ふくらはぎはじかに手で触れることができます。しかも、痛みやしこりや冷たいところを感じとって、自分の手でほぐせます。ふくらはぎというポンプ機能を正常に働かせて、不調や病気を誰でも自分の手で改善できるのです。【解説】槙孝子(身心健康堂院長)

解説者のプロフィール

槙孝子(まき・たかこ)
身心健康堂院長。鍼灸師。ふくらはぎマッサージ療法の創始者、外科医の故・石川洋一師に出会い、ふくらはぎ療法の手ほどきを受ける。ふくらはぎマッサージの普及活動を展開中。著書『長生きしたけりゃふくらはぎをもみなさい』(アスコム)は100万部を超える大ベストセラーとなる。
http://www.shinshin.info/

外科医が考案した「ふくらはぎ療法」

「すべての病気は血流と関係している。よくするには、ふくらはぎをマッサージすればよい」

これは、「ふくらはぎ療法」の施術や指導を、十数年間続けてきた私の頭に、しっかりと刻み込まれている言葉です。

ふくらはぎ療法は、医師の故・石川洋一先生が、今から40年ほど前に考案されました。石川先生は、世界で活躍される外科医でありながら、ある出来事をきっかけに、ふくらはぎの持つ力に着目されたのです。

それは、脱水症状を起こしていた患者さんの腕に、石川先生が点滴を投与したときのことでした。なぜか点滴液がスムーズに落ちないので、先生は、患者さんの体の向きを変えてみようと、足に触れました。そのとき、患者さんの腕は温かいのに、足が冷たいのに気づきました。

無意識のうちに足をさすっていると、点滴が少し落ち始めたのです。「もしかすると足をさすったからか?」と思った先生が、今度は意識的に足に触れたところ、特にふくらはぎが、硬く冷たくなっていました。

そこで、ふくらはぎをさすったり、押したりしていると、点滴が規則的に落ち始めたのです。青ざめていた患者さんの顔にも赤みが差しました。

ふくらはぎをマッサージすると全身の血流が瞬時によくなることを、先生が目の当たりにした瞬間でした。この出来事をきっかけに先生は研究を重ね、ふくらはぎ療法を確立し、生涯その普及に尽力されたのです。

ふくらはぎマッサージの講習会を行う石川洋一医師

石川洋一先生は、アメリカの病院の救急外科部長という職を辞し、帰国後メスを捨て、ふくらはぎ療法に専念します。

「救急医療では外科に敵うものはありませんが、外科だけで病気が治るわけではありません。大切なことは常日頃からの、未病・予防を心がけて、病気にならないようにすることです。それには、いつでもどこでも、誰でもできる『ふくらはぎマッサージ』が一番。これは器具を使わず、簡単で、効果が歴然とあります」と述べています。

ふくらはぎを刺激して血液を心臓に戻す

私は、石川先生から直接、ふくらはぎ療法を学ぶ機会に恵まれました。そのときの石川先生の教えとして、頭に刻まれているのが冒頭の言葉です。

石川先生は、「とにかく血液を心臓に戻しましょう。そのためにはふくらはぎですよ」と、くり返しおっしゃっていました。

『安心』誌で石川洋一先生のふくらはぎ健康法が紹介されたのは2001年のこと。記事がきっかけで、先生の著書『万病に効くふくらはぎマッサージ』が生まれ、その後のふくらはぎ健康法のブームが起こりました。
◀︎2001年11月号『安心』のふくらはぎ健康法の記事

ふくらはぎへの刺激で、なぜ血流がよくなるのでしょうか。

私たちの体のすべての器官は、酸素や栄養素を運び、老廃物を取り去る血液がないと生きていけません。この大切な血液は、心臓というポンプで押し出されて全身に届けられます。このとき、「行き」は、心臓と弾力性に富む動脈とで力強く運ばれますが、問題は「帰り」です。

心臓への血液の帰り道である静脈は、動脈のような弾力性がなく重力の影響を受けるため、勢いが衰えます。それを補うのが筋肉の力です。静脈は筋肉の中にあり、筋肉を動かすことでポンプ作用が得られるのです。

上半身の血液は、心臓に近いうえ、重力の助けもあって比較的簡単に帰ります。

一方、血液の約70%を占める下半身の血液は、重力に逆らって帰らなければならないので、滞りやすくなります。そこで活躍するのが、ふくらはぎです。ふくらはぎの筋肉が下半身のポンプの役目を果たし、心臓へと血液を戻してあげることで、全身の血流がよくなるのです。

大切なふくらはぎが硬く冷たくなっていると、心臓への血液の帰りが悪くなり、不調や病気を招きます。ふくらはぎを押すことでポンプ作用を活性化させるのが、石川先生の考案されたふくらはぎ療法なのです。

《ふくらはぎマッサージが効く理由》
ふくらはぎマッサージで血流が改善すると次のような効果が期待できます。
全身に血液がたっぷり届く▶︎自然治癒力が高まる
免疫力が高まる▶︎病気にかかりにくい
心臓や腎臓の負担が軽くなる▶︎高血圧、心臓病、腎臓病
自律神経のバランスが調整される▶︎自律神経失調症、更年期障害
ホルモンの働きが活性化する▶︎美容
代謝が高まり、体温が上がる▶︎ダイエット、冷え症
老廃物を排毒する力が高まる▶︎便秘
細胞が活性化する▶︎若返り、認知症

ふくらはぎは「下半身の心臓」

ふくらはぎへのマッサージで多くの患者さんがよくなっていく例を見ると、私は、つくづく石川先生が着目されたふくらはぎの持つ力に驚かされます。

石川先生は、ご著書『万病に効くふくらはぎマッサージ』の中で、「ふくらはぎは最近、『第2の心臓』などと言われますが、それ以上に心臓の働きをもコントロールする大切な器官なのです」とも述べておられます。

《健康状態はふくらはぎに反映される》
(基準は、温度、筋肉の硬さ、弾力性)
熱くて硬い▶︎高血圧
熱くて硬くない▶︎急性炎症、カゼなど
冷たくて硬い▶︎冷え症、自律神経失調症、婦人病
冷たくて軟らかい▶︎糖尿病
冷たくて軟らかい、まったく弾力がない▶︎腎臓病

心臓は手で触れることはできませんが、ふくらはぎはじかに手で触れることができます。しかも、痛みやしこりや冷たいところを感じとって、自分の手でほぐせます。それによって、ふくらはぎというポンプ機能を正常に働かせて、不調や病気を、誰でも自分の手で改善できるのです。

手で触れられる下半身の心臓」を、健康づくりに役立てない手はありません。ぜひ自分の手で触れて、まずはふくらはぎと対話をしてみませんか。

「ふくらはぎ押しマッサージ」のコツ

【ウォーミングアップをしよう】

まずウォーミングアップをしましょう。ふくらはぎは、いきなり押すよりも、軽くストレッチをしたりさすったりしたほうがほぐれて押しやすくなり、マッサージの効果も高まります。

《健康的な「よいふくらはぎ」の5カ条》
さすりながら、ふくらはぎの状態をチェックしましょう。
適度に体温が感じられる
軟らかくて弾力がある
皮膚にハリがあり、押さえて気持ちがいい
コリコリした塊がなく、中まで軟らかい
押した指を離すと同時に、元の状態に戻る

ウォーミングアップをするときには、ふくらはぎをさすって、ふくらはぎの状態をチェックしましょう。ふくらはぎには自分の健康状態が現れます。たとえ「悪いふくらはぎ」であっても、「よいふくらはぎ」に変えていくことは、十分可能です。

健康的で、よいふくらはぎの目安は上の表を参考にしてください。どれか一つでも当てはまらない場合は、病気ではないにしても、体に不調を感じているはずです。

ウォーミングアップ
ふくらはぎの筋肉は、縮んで硬くなっているので、いきなり押すのではなく、まず筋肉をほぐして柔軟にします。

足首の曲げ伸ばし
床に腰を下ろし、足を伸ばす。息を吐きながら、つま先を前方に思いっきり伸ばす。

次に、息を吸いながら、つま先をそらす。足の裏と床が直角になるつもりで。
※10回くり返す。

ふくらはぎ全体をさする、もむ
ふくらはぎをつかみ、足首からひざ裏に向って優しくさすったりもんだりする。
※10回くり返す

【痛いけれど気持ちいい強さでゆっくり押す】

ふくらはぎマッサージの基本的なやり方は、ふくらはぎの筋肉を三つの部位に分けて、内側中央外側を、下から上に向かって押していくだけです。

ふくらはぎを押すときのコツは、指で押すのではなく、両親指の腹を重ねて、体重をかけながら押すことです。押す強さは、「痛いけれど気持ちいい」が目安です。

ふくらはぎの3つの部位
下記の症状のある人は、特にココを念入りに押しましょう。

内側(親指側)
頭痛、首痛、肩こり、腰痛、めまい、耳鳴り、ひざ痛、肋間神経痛など

アキレス腱から中央
動悸、息切れ、不眠、イライラ、頭痛、座骨神経痛、腰痛、むくみなど

外側(小指側)
冷え症、更年期障害、月経不順、便秘、排尿困難、肝臓の不調など

もう一つのコツは、呼吸に合わせて押すことです。押すときに口から息を吐き、指の力を抜きながら鼻で息を吸います。それによって痛みが緩和され、押しやすくなります。

三つの部位をひととおり行ったあと、しこりや痛みがある部位を、さらに丁寧に押して、ほぐしておくことも重要です。

仕上げには、アキレス腱ひざの裏をもみほぐし、ふくらはぎのストレッチをしましょう。

ふくらはぎマッサージを行うと汗や尿が出やすくなるので、水やぬるま湯をこまめに飲んでください。

【忙しいときはさするだけでもいい】

マッサージは、1日2回、朝と夜、毎日行いましょう。1回10分ぐらいを目安に行います。ふくらはぎが温まっていると筋肉がほぐれてより効果的なので、お風呂上がりは最適です。

とはいえ、ときには疲れていて気が進まない日もあるでしょう。そんなときは、ふくらはぎをさするだけでもかまいません。

床に座ってマッサージしにくいときや、指が疲れたときなどには、下記やり方(3)でご紹介する方法も参考にしてみてください。

効果の出方は人によってさまざまです。継続してマッサージすれば、必ずよくなっていきますので、焦らずに続けることが大切です。

ふくらはぎは、全力であなたを支えてくれています。ふくらはぎを観察し、マッサージして、ふくらはぎと体調の変化をぜひ実感してみてください。

毎日マッサージをすれば、きっとふくらはぎが万病からあなたを守ってくれるでしょう。

「ふくらはぎ押しマッサージ」のやり方

ポイント1押す強さは「痛いけれど気持ちいい」が目安
ポイント2体重をかけて押す。手で押すのではない
ポイント3呼吸に合わせて押す。息を吐きながら押す

(1) 基本のマッサージ
内側の筋肉、中央の筋肉、外側の筋肉と3つの部位に分けてマッサージしましょう。
※両足とも同じようにマッサージする。
※しこりや痛みがあるところは、特に丁寧に時間をかけてマッサージする。

❶内側の筋肉をマッサージする
座って写真のように足を組み、内側の筋肉(骨の際)を、両親指の腹を重ねて押していく。重要なのは、指で押すのではなく、指に体重をかけて押すこと。前かがみになると体重がかかりやすい。

押すときは両手の親指の腹を重ねる。

内くるぶしからふくらはぎの骨に沿って、ひざ裏まで押していく。ひざ裏まできたら、内くるぶしに戻る。※3回くり返す。

❷中央の筋肉をマッサージする
足の組み方は(1)の状態で、今度はふくらはぎの真ん中の筋肉を、同じように押していく。

アキレス腱の上からひざ裏まで、両手で押していく。ひざ裏まできたら、足首に戻る。※3回くり返す。

❸外側の筋肉をマッサージする
写真のように片方の足を横座りにして、ふくらはぎの外側(足の小指側)の筋肉(骨の際沿い)を押していく。

横座りができない場合は、ひざを立てて両手でふくらはぎをつかみ、両親指を重ねて押す。

外くるぶしからひざ裏まで押していく。ひざ裏まできたら、外くるぶしに戻る。※3回くり返す。

(2) 仕上げのマッサージ

アキレス腱をほぐす
アキレス腱から、ふくらはぎの下3分の1くらいまでの範囲を、つまむようにしてよくもみほぐす。

ひざ裏を押す
ひざ裏に両手の親指を当てて押す。リンパの流れがよくなり、老廃物が回収されるので、ひざ痛の人には特にお勧め。

アキレス腱とふくらはぎを伸ばす
壁に両手をついて立ち、足を前後にして、アキレス腱とふくらはぎをゆっくり10秒伸ばす。後ろ足のかかとは地面につけること。※左右の足を各10回

(3) やり方を工夫しよう
マッサージのやり方は、自分でやりやすいようにいろいろ工夫してください。

イス(またはソファ)に座り、足同士でマッサージ
イスに座って足を組み、組んだ上の足を上下に動かす。

イスに座り、踏み台を使ってマッサージ
イスに座って踏み台を使うとらくにマッサージができる。踏み台は洗濯かごや箱などでOK。

寝て、足同士でマッサージ
あおむけに寝て、片足のひざを立て、そのひざに、もう片方の足のふくらはぎを乗せてこすりつける。

道具を使ってマッサージ
身近な道具を使ってマッサージしてもよい。ラップの芯、すりこぎ、ビール瓶、テニスボール、ストレッチポールなどが利用できる。

【マッサージの回数や時間】
1回を10分程度、1日2回、朝と夜にマッサージする。回数は多くてもよい。
効果的で続けやすい時間は、筋肉が柔軟になっている入浴後、または寝る前。朝の起床直後に行うと、体も頭もスッキリして1日を気持ちよくスタートさせることができる。
押すことができないときは、さするだけでもいい。

この記事は『安心』2019年7月号に掲載されています。

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