逆流性食道炎は、患者数が増えている病気です。10年くらい前の報告では、逆流性食道炎の罹患率は、人口の約20%くらいでした。私の所見なども考え合わせると、現状では、受診した人の30~40%が、逆流性食道炎に罹患している可能性があると思います。ではなぜ、逆流性食道炎はこれほど増えてしまったのでしょうか。ここで、ぜひとも触れておかなければならないのが、逆流性食道炎と「ピロリ菌」の関係です。【解説】近藤慎太郎(近藤しんたろうクリニック院長・医師・医学博士)

解説者のプロフィール

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近藤慎太郎(こんどう・しんたろう)

近藤しんたろうクリニック院長・医師・医学博士。1972年、東京都生まれ。北海道大学医学部、東京大学医学部医学系大学院卒業。日赤医療センター、東京大学医学部附属病院、山王メディカルセンター内視鏡室長を経て、現在は近藤しんたろうクリニック院長。日本内科学会認定医、日本消化器内視鏡学会指導医、日本消化器病学会専門医、日本肝臓学会専門医、日本人間ドック学会専門医、日本医師会認定産業医、医学博士。
消化器の専門医として、これまで数多くのがん患者を診療。年間2000件以上の内視鏡検査・治療を手がける。特技のマンガを活用して、がんについての啓蒙活動にも取り組んでいる。近著に『日本一まっとうながん検診の受け方、使い方』(日経BP)がある。
▼近藤しんたろうクリニック(公式サイト)
▼医療のX丁目Y番地(ブログ)
▼近藤慎太郎(Wikipedia)

高血圧や花粉症に並ぶ日本人にとっての国民病

逆流性食道炎は、怖ろしいスピードで患者数が増えている病気です。私が、消化器内科の医師として働いてきたこの20年ほどの間に、罹患率がグングン伸び、いまやすっかりメジャーな病気となってしまいました。

10年くらい前の報告では、逆流性食道炎の罹患率は、人口の約20%くらいでした。内視鏡検査をした私の所見なども考え合わせると、現状では、受診した人の30~40%が、逆流性食道炎に罹患している可能性があると思います。

逆流性食道炎は、日本人にとって、高血圧や花粉症と並んで国民病となりつつあるといっても決して過言ではありません。ではなぜ、逆流性食道炎はこれほど増えてしまったのでしょうか。

ここで、ぜひとも触れておかなければならないのが、逆流性食道炎と「ピロリ菌」の関係です。ピロリ菌は、正式にはヘリコバクター・ピロリという細菌で、胃に棲みつくと、萎縮性胃炎を引き起こします。

その萎縮性胃炎が悪化すると、結果的に、胃がんを発生させやすい状態を作り出します。ピロリ菌は、胃がんを引き起こす有力な因子なのです。 

かつての日本人は、ピロリ菌に感染している人が大多数を占めていました。

ピロリ菌によって萎縮性胃炎になると、胃酸の分泌が恒常的に低下します。胃酸自体が増えることがないので、逆流性食道炎という病気は、昔の日本ではほとんど見られなかったのです。

その後、日本の環境が清潔になって、ピロリ菌感染が起こりにくくなってきました。さらにその後、胃がんになる危険性を下げるため、ピロリ菌の除菌が積極的に行われました。こうして、日本人のピロリ菌感染率が激減した結果、胃酸の分泌量も、正常レベルまで戻ってきたのです。

加えて、食生活の欧米化や過食によって、胃酸が非常にさかんに分泌されるようになりました。こうした条件が積み重なったために、逆流性食道炎の患者さんが激増することになったのです。

暴飲暴食を避けて太りぎみならやせること

逆流性食道炎になると、胃酸が口にまで達する呑酸、胸やけ、ゲップ、食欲低下、睡眠障害などさまざまな症状が出てきます。

実際、逆流性食道炎の症状に悩まされているかたのなかには、「ちょっと体調が悪くなるくらいで、そんなに気にするほどではない」「わざわざ病院に行くような病気ではない」とたかをくくっているかたがおられるかもしません。

しかし、この病気は、決して甘く見てはいけません。というのも、逆流性食道炎は、食道がんになる危険性を高めるからです。

逆流性食道炎にかかると、胃酸がたびたび逆流します。すると、食道の粘膜が変性して「腺がん」が起こりやすくなるのです。ちなみに、欧米の食道がんは、半数以上が腺がんです。肥満した人が多い欧米では、逆流性食道炎からくる「食道腺がん」が増えて、深刻な社会問題となっています。

一方、日本人の場合、これまでは、食道がんの90%以上が「扁平上皮がん」という、腺がんとはまた別のタイプでした。したがって、「日本人は欧米人と違って、体質的に腺がんになりにくいのだろう」と考えられてきました。

しかし現在では、それはどうやら、根拠の薄い楽観論であったといわざるをえません。

先ほどお話ししたように、ピロリ菌を除菌→胃酸が増える→逆流性食道炎も増える、という構図があります。さらに、その結果として、日本人に腺がんが増え始めているのです。食の欧米化や肥満を改めない以上、今後も食道の腺がんが増えていくと予想されています。

このようなお話をすると、「胃がんにならないためにピロリ菌を除菌したのに、そのせいで食道がんになるのでは意味がないじゃないか」と思われるかたもいらっしゃるでしょう。

ただし、食道の腺がんと胃がんの罹患率を比べてみると、腺がんは、胃がんの50分の1に過ぎないのです。

つまり、食道がんになる心配をするよりも、胃がんになる危険性を減らすほうが先決、ということになります。

もちろん、ピロリ菌を除菌したからといって、自動的に逆流性食道炎になるわけではありません。除菌によって胃酸の分泌が以前より活発になったとしても、それは、あくまでも「胃酸の分泌量が、本来あるべきレベルにまで戻った」ということに過ぎないのです。

ピロリ菌を除去して胃酸の分泌量がもともとのレベルになった以上、それが逆流するかどうかは、どんな食生活を送っているか、肥満の程度はどれくらいか、ということにかかっています。

いわずもがなですが、暴飲暴食をしない、太りぎみのかたはダイエットを心がけるなど、改善を心がけてください。

それにもかかわらず、逆流性食道炎にかかってしまった場合には、胃酸の分泌を抑える薬(PPI)などを服用し、当座の症状を抑えましょう。

ただし、長期間の服用は、骨粗鬆症や腎臓病の原因になるともいわれています。胃酸というのは、必要だからこそ分泌されるのです。薬で抑えれば済むという問題ではありません。

逆流性食道炎の改善には、生活習慣を改めることが欠かせないのです。それこそが、食道がんを防ぐことにもなります。

画像: この記事は『壮快』2019年8月号に掲載されています。 www.makino-g.jp

この記事は『壮快』2019年8月号に掲載されています。

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