2019年に誕生100周年を迎えたカルピスだが、「はたらくアタマに」シリーズは、カルピスの製造過程で生まれる一次発酵乳から発見された「ラクトノナデカペプチド」という成分を配合しており、年齢とともに低下する注意力と計算作業の効率が維持されるという機能性表示食品だ。
話題の商品徹底解剖! アサヒ飲料「はたらくアタマに」のキーパーソンに訊け!
アサヒ飲料が2019年9月に発売した「はたらくアタマに」シリーズは、日本初の乳酸菌飲料「カルピス」の製造過程で生まれる一次発酵乳から発見された「ラクトノナデカペプチド」という成分を配合しており、年齢とともに低下する注意力と計算作業の効率が維持されるという機能性表示食品だ。この成分の詳細や発見に至る経緯、開発の苦労などを開発担当者に訊いた。
●キーパーソンはこの人!
カルピス酸乳から発見された成分
読者のみなさんは、脳の働きに衰えを感じることがあるだろうか。筆者は40代前半だが、ときどき感じる。脳の神経細胞は年齢とともに減少するそうだし、もうあらがえないことなのだろうと受け入れ始めているところだ。
そんな折、気になる商品が登場した。アサヒ飲料が2019年9月に発売した「はたらくアタマに」シリーズだ。開発を担当した宮本菜々子さんは、商品の概要を次のように説明する。
「『はたらくアタマに』シリーズは、アタマの働きをサポートする成分『ラクトノナデカペプチド』を配合した機能性表示食品です。継続摂取することで、年齢とともに低下する注意力と計算作業の効率が維持されることが実証されています。コーヒーや炭酸飲料など、仕事の合間に飲みやすい5種類の商品をラインアップしました」
ラクトノナデカペプチドは聞き慣れない名前だが、ペプチド(2個以上のアミノ酸がつながったもの)の一種だ。そして、ラクトは「乳由来の」、ノナデカは「19個の」という意味。
機能性関与成分としての正式名には、「NIPPLTQTPVVVPPFLQPE」という19個のアルファベットも含まれており、それぞれのアルファベットはアミノ酸の略号(例えば、「N」はアスパラギン)になっている。つまり、ラクトノナデカペプチドは19個のアミノ酸がつながってできているわけだ。
乳由来というのは、このラクトノナデカペプチドが「カルピス酸乳」から発見された成分だから。カルピス酸乳とは、誰もが知る国民的な乳酸菌飲料「カルピス」の製造過程で生まれる一次発酵乳のことだ。
「カルピスは、牛の生乳から脂肪だけを取り除き、乳酸菌による一次発酵、酵母による二次発酵を経てできた発酵乳に、砂糖や香料などを加えて風味を整えることで完成します。この一次発酵の過程で、乳酸菌の働きにより、さまざまなペプチドが生み出されます。ラクトノナデカペプチドはその一つなのです」
カルピス酸乳の中から発見とだけ聞くと、簡単なことのようにも思えるが、これは長年にわたる地道な研究のたまものだ。
8週間継続摂取によって効果が現れる
2019年に誕生100周年を迎えたカルピスだが、発売当初から乳酸菌や発酵乳の研究が続けられてきた。カルピス酸乳の本格的な研究が始まったのは、1970年代のこと。以来、寿命延長作用や血圧降下作用など、さまざまな発見がされている。
今回の商品につながる発見は、1996年に見つかった学習記憶力向上効果だ。その後も、この効果が何によってもたらされているかの研究が続けられ、発酵乳を成分ごとにふるい分けして効果を調べるという地道な作業が繰り返された結果、2009年にラクトノナデカペプチドが発見された。
「ラクトノナデカペプチドの働きですが、脳内の神経伝達物質の一つである『アセチルコリン』と、脳の栄養分のような働きをする『BDNF』の遺伝子発現を増加させることが明らかになっています。これにより、注意力(事務作業の速度と正確さ)の維持や、計算作業の効率維持に役立つことが、ヒト試験によって確認されています」
このヒト試験は中高年を対象にしたものだったが、今後は幅広い世代で効果を検証する。8週間あるいは12週間にわたってラクトノナデカペプチドを継続摂取することで、効果が得られるという。
中高年の方に限らず、幅広い世代の人たちに飲んでもらいたいです。
ラクトノナデカペプチドを飲料に配合することにした理由は、即効性を感じにくい脳領域の機能効果のため、サプリメントなどでコツコツ続ける人は限られるのではないかという判断だった。そこで、ふだんから飲んでいる飲料に“プラスα”の価値として加える方法をとったのだという。
そのため、「はたらくアタマに」シリーズの商品ラインアップは、「WONDA」や「カルピス」「Welch’s」など、複数ブランドを横断している。また、商品カテゴリーもコーヒーや炭酸飲料、甘系飲料など、多岐にわたるのが特徴だ。
「多くの人が仕事中に、アタマをシャキッとさせたいとか、リフレッシュしたいとか、あるいは癒やしが欲しいという理由で、飲料を飲んでいます。我々としては『はたらくアタマに』シリーズを、中高年に限らず、なるべく幅広い世代の人たちに飲んでもらいたいと考えているので、こういう展開になりました」
ところで、ラクトノナデカペプチドをさまざまな飲料に配合するに当たっては、ある問題をクリアする必要があった。それは、この成分の“味”。ラクトノナデカペプチドは苦味が特徴で、これが飲料にはじゃまになるのだ。
「開発をスタートさせた当初に、ラクトノナデカペプチドの粉末を既製品に混ぜただけの試作品を飲んでみたのですが、おいしくありませんでした。そこで、酸味を加えるなど、苦味を目立たなくするための工夫を研究チームと一緒になって繰り返し、完成にこぎ着けました」
ラクトノナデカペプチドの粉末は苦い
筆者は取材時に、ラクトノナデカペプチドの粉末を味見させてもらったが、確かに苦味が強く、そのまま飲料に入れたのではおいしくないことがわかる。
ただ、商品を試飲してみたところ、宮本さんが「自信作」というだけあって、イヤな苦味は感じなかった。よほど味覚の鋭い人でない限り、意識していても気づかないレベルだろう。
現在、「はたらくアタマに」シリーズはテレビCMを中心に、大々的な広告展開がされている。筆者がおもしろいと感じたのは、この商品を「働き方改革」と結びつけた訴求がされている点だ。
「2019年4月から働き方改革関連法が施行されるなど、人々の関心が高まっているトピックですが、個人で何をすべきなのかという点は、あまり明確ではないと感じます。
そこで我々が提案するのは、ふだんの飲み物をちょっと変えるという習慣の変化が、働き方改革にもつながっていくという考え方。身近なことから働き方をよりよくしていくのに、『はたらくアタマに』シリーズが役立ってくれたらうれしいですね」
身近な働き方改革として「はたらくアタマに」が役立てばうれしいです。
Memo
飲料が多くの人にとって手軽なのは確かだが、アタマの働きを維持したいという欲求をより切実に抱える中高年にとっては、サプリメントも利便性は高い。今後のさらなる展開に期待したい。
◆インタビュー、執筆/加藤肇(フリーライター)