現在、糖尿病は血糖値を下げるだけでなく心疾患を見据えた治療が必要と考えられています。食事によって血糖値が急激に上がりその後急激に下がる「血糖値スパイク」が、動脈硬化を起こす大きな原因だとわかってきたのです。【解説】槇野久士(国立循環器病研究センター 糖尿病・脂質代謝内科医長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

槇野久士(まきの・ひさし)
国立循環器病研究センター 糖尿病・脂質代謝内科医長。1988年、北海道大学医学部卒業。医学博士。京都大学医学部附属病院、社会保険小倉記念病院などを経て現職。日本内科学会内科認定医、総合内科専門医。日本糖尿病学会専門医、指導医、評議員。日本腎臓学会認定専門医、指導医。

血管の老化が加速度的に進むので初期でも危険!

糖尿病の三大合併症として有名なのは、網膜症腎症神経障害です。血液中の糖分量が多い状態が慢性的に続くと、細い血管が傷むことが知られています。そのため、微細な血管が密集する、目の網膜や腎臓の糸球体、神経に栄養を与える血管がダメージを受けるのです。

悪化すれば、最終的には失明、腎不全による人工透析、壊疽による足の切断など、深刻な状況に陥ります。いずれも深刻ですが、糖尿病を発症してから数十年後にリスクが高くなる合併症です。

加えて、糖尿病の初期から突然死を引き起こす合併症があります。それが、心筋梗塞脳梗塞などの心血管疾患です。

心筋梗塞は動脈硬化、すなわち血管の老化が原因で起こる病気です。糖尿病はこの血管の老化を、加速度的に進めてしまいます。

しかもこれは、三大合併症と異なり、糖尿病が軽度のうちから突然死の危険があるのです。

糖尿病がない人の心筋梗塞リスクを1とした場合、糖尿病がある男性は2.7倍、女性は4.3倍に、心筋梗塞のリスクが跳ね上がるといいます。

また、糖尿病があると、平均余命が短くなることがわかっています。24年間にわたり患者を追跡調査した日本の研究では、男性は約9年、女性は約7年短いのです。

さらにいえば、糖尿病で服薬治療中の人にも、低血糖を起こしやすいというリスクがあります。糖尿病の薬は日進月歩しており、以前より安心して使うことができます。とはいえ、服薬している人にとって、低血糖は常に注意すべき副作用です。

低血糖を起こすと、自律神経(血管や内臓の働きを調整する神経)のうちの交感神経が優位になり、動悸や頻脈によって心血管に負担を与えます。加えて、血管に炎症が起こったり、血液が凝固する作用が働いたりすることもわかってきました。

低血糖と心血管疾患の関連を調べた研究では、低血糖のあった糖尿病患者は、そうでない患者より心疾患のリスクが79%高かったという報告もあります。

A1cの数値を下げても心血管疾患は減少しない

こうしたことから、現在、糖尿病は血糖値を下げるだけでなく、心疾患を見据えた治療が必要と考えられています。

実際、血糖値やヘモグロビンA1cがそれほど高くなくても、動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞で亡くなるかたは少なくないのです。

動脈硬化を促進するのは、「長期的な高血糖状態」だけではありません。「血糖値スパイク」という言葉をご存じでしょうか。食事によって血糖値が急激に上がり、その後急激に下がる現象です。これが、動脈硬化を起こす大きな原因だとわかってきたのです。

血糖値は常に変動しています。健康な人は食後血糖値が緩やかに上がり、元の状態に戻ります。しかも、その上昇幅は小さいものです。

しかし、糖尿病の初期段階や予備軍の人は、食後、急激に血糖値が上がってしまいます。すると、血糖値を下げるために大量のインスリンが分泌されて、場合により、数時間後に低血糖を起こすこともあります。

空腹時血糖値が正常でも、食後に血糖値が上昇しやすい人は、そうでない人に比べて動脈硬化が進みやすいという研究データがあります。また、血糖値スパイクをくり返すことが動脈硬化を進行させ、心血管疾患のリスク増大につながることもわかっているのです。

さらに、大規模な臨床試験の結果、ヘモグロビンA1cの数値を下げても、心血管疾患は減少しないことがわかりました。

以上のような流れから、糖尿病の初期から起こっている血糖値スパイクが、動脈硬化の危険因子であるということが判明したのです。

血糖値スパイクが動脈硬化を進行させる機序については、実はまだよくわかっていません。一つには、血糖値が急激に上がるときに活性酸素が発生し、血管を傷つけるからではないかと考えられています。

「できれば薬は飲みたくない」というのは、多くの人の希望でしょう。とはいえ、普通は測定できない血糖値スパイクに、私たちはどうやって気づけばいいのでしょうか。

まず健康診断を毎年受け、空腹時血糖値と、過去1~2ヵ月間の血糖状態がわかるヘモグロビンA1cを測定してください。血糖値が110mg/dl以上、もしくは、ヘモグロビンA1cが6%以上の場合は、血糖の状態がより詳しくわかる「糖負荷検査」を受けることをお勧めします。

糖負荷検査は、食後1~2時間の血糖値を測ります。これが200mg/dl以上だと、血糖値スパイクを起こしている可能性が高いといえます。

また、毎年11月14日は、WHO(世界保健機関)が定めた「世界糖尿病デー」です。11月中旬には、多くの医療機関で、糖尿病に関心を持ってもらうためのイベントを実施します。血糖値や血管年齢の測定、医師の無料相談などを行うところもあります。近くの病院やクリニック、自治体などに問い合わせてみるといいでしょう。

次項では、食後の高血糖を防ぎ、血糖値スパイクを起こさない生活習慣をご紹介します。できるところから、実践してみてください。

野菜を先、ご飯をあとに食べる効果は絶大!

前項では、軽度の糖尿病でも、血糖値スパイク(血糖値の乱高下)によって動脈硬化が進行し、心筋梗塞や脳梗塞につながるというお話をしました。

ここでは、血糖値スパイクを抑制して血管の健康を保つ生活習慣をご紹介しましょう。

皆さんにとっては「耳にタコ」かもしれませんが、糖尿病対策の基本は、食事と運動です。とはいえ、その内容は、ひと昔前とは変わっています。

以前は、糖尿病の食事療法は、一日の総摂取カロリー(エネルギー)を抑えることが重視されていました。しかし現在は、「食後血糖値の急上昇を抑える」ことが主流になっています。

食後の血糖値を上げるのは、紛れもなく、米や小麦などの糖質です。ラーメンやどんぶり飯をかき込むような食事は、当然、血糖値を急上昇させます。

「バランスのよい適量の食事をゆっくり食べる」のが理想ですが、なかなか難しいでしょう。

そこで提案したいのが、私自身が実践し、患者さんにも勧めている食べる順番を変える」食事法です。

食事は、サラダやおひたしなどの野菜から口にします。野菜から先に食べる効果は絶大です。私の職場にも、食前に生のキャベツを食べる食事法で減量し、高かった血糖値が正常化した医師がいます。

最初に野菜や海藻・キノコ類、次に肉や魚などの主菜、最後にご飯を食べると、先にとった糖質の吸収を抑制してくれるのです。また、ある程度満腹になってからご飯を食べるので、少量でも満足できます。

こんなデータもあります。2型糖尿病患者を対象に、糖質を最初に食べる場合と、最後に食べる場合の血糖値の推移を比較しました。

すると、糖質を最後に食べたほうが、血糖値のピークが平均70mg/dl以上も低く、インスリン分泌も少なくなりました。これは、血糖値スパイクを抑制していることを意味します。

実際、患者さんに聞いても、野菜を先に食べるだけで、食べたい物や食べる量を制限するわけではないので、実践しやすいようです。

血糖値を上げるのは糖質なので、糖質をとり過ぎないほうがいいことに間違いはありません。しかし、完全に糖質をとらないほうがいいかというと、現段階では結論は出ていません。

私としては、「糖質の極端な制限は長続きしない」という意味も含め、野菜から先に食べて最後にご飯という食事法が効果的だと思っています。

それから、「食事を抜かない」というのも大切です。たまに「ダイエットのために」とか「時間がない」という理由で、朝食をとらない人がいますが、これは血管にとって非常に危険です。

朝食を抜いて、飢餓状態でいると、昼食時の血糖値スパイクが大きくなるのです。一日の総摂取エネルギーを抑えるメリットよりも、血管を傷つけるリスクのほうが高くなります。朝食は必ずとりましょう

また、飲み物は糖分を含まないお茶や水にしましょう。例えば、のどが渇いたときにスポーツドリンクを飲む習慣があると、無意識のうちに大量の糖分をとってしまいます。加糖飲料は、血糖スパイクを最も起こしやすい物の一つです。

さらに、「カロリーオフだから大丈夫」という人がいますが、食品表示基準法では、100ml当たり40kcal以下であれば「カロリーオフ」と表示できるので、注意が必要です。

家の中で座っている時間を短くしよう

血糖値スパイク対策のもう一つの柱は、運動です。

皆さんのなかにも、「1日1万歩のウォーキング」や「週に2~3回の水泳」にチャレンジし、挫折してきた人がいるのではないでしょうか。

屋外で行う運動や、お金がかかる運動は、ちょっとしたきっかけでやめてしまうことが多いようです。ですから私は、ふだんの生活のなかで体を動かすように勧めています。

特に、定年退職後の男性は要注意。運動量が一気に減るからです。仕事をしていれば、たとえデスクワークでも、「終日イスに座ったまま」ということはないでしょう。ところが、退職後の男性は、「トイレに行く以外は動かない」という人も少なくありません。

掃除や洗濯物干しなどを日課にすれば理想的ですが、もっと簡単なことでもいいのです。まずは、立って歩いてください

例えば、「郵便受けに新聞を取りにいく」「キッチンで自分のお茶を淹れる」「家の電話が鳴ったら取る」でもOKです。

「食後すぐに横になって昼寝」では、食後血糖値が上がるだけでなく、体脂肪の蓄積にもつながります。「テレビを見ている時間が長い人ほど、糖尿病や心臓病になりやすい」というデータもあります。まずは、座っている時間を短くすることを、心がけてください。

さらに、積極的に運動したければ、食後30分~1時間のタイミングで体を動かしましょう。

ウォーキングができれば最高ですが、私がお勧めするのは、イスに腰かけたままの足踏みです。テレビや新聞を見ながらできますし、転倒の危険もなく安全です。回数や時間は決めず、できる範囲で行ってください。

こま切れでも、やるのとやらないのとでは、雲泥の差が生まれます。「ちりも積もれば山となる」を座右の銘にして、こまめに動きましょう。

画像: テレビを見ながら足踏みするだけでOK!

テレビを見ながら足踏みするだけでOK!

画像: この記事は『壮快』2019年10月号に掲載されています。

この記事は『壮快』2019年10月号に掲載されています。

This article is a sponsored article by
''.