変形性股関節症の治療は大きく分けて、保存療法、関節温存手術、人工関節置換術の三つがあります。いずれにせよ、今は「キアリ手術」に代表される関節温存手術など、治療法にさまざまな選択肢があります。まず専門医に率直に相談してみてください。【解説】大川孝浩(久留米大学医療センター病院長/整形外科・関節外科センター教授)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

大川孝浩(おおかわ・たかひろ)
久留米大学医療センター病院長/整形外科・関節外科センター教授。1990年、久留米大学大学院医学研究科修了。済生会二日市市病院整形外科部長、米国ベーラー医科大学への研究留学を経て、2019年より現職。日本整形外科学会専門医・スポーツ認定医・リウマチ医。主な著書に「変形性股関節症は自分の骨で治そう」(共著、メディカ出版)などがある。

運動療法は無理をしないこと

変形性股関節症の治療は、大きく分けて、次の三つがあります。 

保存療法
 装具療法(つえなど)、温熱療法、運動療法、薬物療法など
関節温存手術
 自分の骨を使っての手術
人工関節置換術
 人工股関節に置き換える手術

一般的に治療は、最初は股関節にかかる負担を減らすために①の保存療法が用いられます。保存療法の考え方から述べていきましょう。

まず、杖を使用すると、股関節にかかる負担が減少して、変形性股関節症の進行を遅らせるのに役立つことがわかっています。

運動療法については、ひざ関節症の治療ではそのエビデンス(医学的根拠)が認められています。大腿四頭筋(太ももの筋肉)を運動で鍛えると、ひざ関節が安定し、関節軟骨にかかる負担を抑制する作用があることが知られています。

同様に、股関節についても、周囲の筋肉を鍛えることで、筋力低下による関節軟骨への負担の防止につながるといわれています。

しかし、股関節についての運動療法の作用には、ハッキリとしたエビデンスが示されているわけではありません。

水泳を含めて、どのような運動療法であっても、患者さんが負担を感じるような運動は控えるべきだと思います。

運動中に痛みが出たり、運動後に疲れて、痛みが倍増したりするようなら、あまり無理をしないことです。

画像: 杖を使うと股関節にかかる負担が減少して股関節症の進行を遅らせることができる

杖を使うと股関節にかかる負担が減少して股関節症の進行を遅らせることができる

薬物療法はあくまでも対症療法

薬物療法に関しては、昔は選択肢が限られていて、消炎鎮痛剤という痛み止めだけでした。今はさまざまな作用の痛みを抑える薬が出てきています。

その意味では選択肢は増えたのですが、忘れてはならないのは、薬は副作用が伴うことと、あくまでも対症療法であって、病気の原因を治すものではありません。

薬で痛みが取れた結果、関節に無理な負担をかけ、逆に関節症が進行してしまうケースもあります。定期的なチェックを受けながら、その使用には十分な注意が必要となります。

これらの保存療法のメリットとデメリットを見ていくと、もっとほかにいい保存療法はないのかと思われる人もいるでしょう。

実は、私たちはその新しい試みとして、ジグリング(貧乏ゆすり様運動)と呼ばれる運動療法の研究をしているところです。

これについては、私たちのこれまでの研究では、進行期、末期の股関節症の患者さんでは痛みを取ることが期待されています。即効性はありませんが、副作用がないので、まず試してみる価値がある運動療法だと思っています。

ジグリングについては、別の記事でさらに詳しく解説をしましょう。

手術で痛みが消えれば快適な生活も可能

これら保存療法を続けても改善が認められない場合は、②や③の手術が検討されます。

手術については、強い拒否反応を示す患者さんがいます。しかし一方では、転倒して股関節を骨折し、手術をするケースは珍しくありません。

股関節の骨折は治りにくく、放置しておくと歩けなくなり、高齢の患者さんでは寝たきりになる恐れが出てきます。そうなると合併症も起こりやすく、場合によっては命の危険も出てくることがあります。それを避けるために、股関節の骨折では手術を選択する患者さんがたくさんいます。

変形性股関節症の手術についても、ほぼこれと同様に考えるといいと思います。

特に変形性股関節症の進行期・末期の場合は、強い痛みを伴うことがほとんどのため、③の人工股関節置換術の適応となります。

これは、股関節を特殊な金属やポリエチレン、セラミックなどでできた人工関節に置き換える手術です。

患者さんはこの手術で劇的に痛みが消えて、活動的な生活を取り戻すことが可能となります。その意味では、人工股関節置換術は優れた治療法です。

画像: 手術で活動的な生活を取り戻すこともできる

手術で活動的な生活を取り戻すこともできる

自分の骨を使った関節温存手術もある

ただし、問題がないわけではありません。人工股関節の耐用年数は、現在では約20年といわれています。人工関節には寿命があり、比較的若い年齢で人工関節の手術を受けた人は将来、人工関節の入れ替え(再置換術)をする確率が高くなるのです。

しかも、再置換術は簡単ではありません。能力の高い、多岐にわたる選択肢を持った医師がいる施設でなければ、できるような手術ではないのです。残念ながら、そうした施設は少なく、限られてしまいます。

現状から考えるなら、変形性股関節症の患者さんで青・壮年期の、比較的若い患者さんは人工股関節置換術を選ぶことは先送りして、関節を温存する方法を考えることが大切です。

その場合、ご理解いただきたいのが、②の関節温存手術があるということです。これは自分の骨を切って、股関節の形状を整える手術です。

その代表的な手術の一つが「キアリ手術」と呼ばれているものです。私はこれまでキアリ手術の症例を多く重ねて、良好な成績を残しています。手術には人工股関節の手術だけではなく、その他の選択肢があることを知っていただきたいと思います。

いずれにせよ、今は治療法にはさまざまな選択肢があります。素人判断はせず、まず専門医に率直に相談してみてください。

《変形性股関節症の主な治療法》

❶ 保存療法
・装具療法(つえなど) ・運動療法 ・温熱療法 ・薬物療法

❷ 関節温存手術
人工関節に置換せずに、自分の関節を残した状態での手術。キアリ骨盤骨切り術(キアリ手術)、寛骨臼回転骨切り術(RAO)、臼蓋棚形成術など。
※キアリ手術:骨盤を横に切り、臼蓋の面積を広げる。そうすることで、体重のかかる面積が広がり、股関節の負担を軽減する。

❸ 人工関節置換術
股関節を特殊な金属やポリエチレン、セラミックなどでできた人工関節に置き換える手術

画像: この記事は『安心』2019年10月号に掲載されています。

この記事は『安心』2019年10月号に掲載されています。

This article is a sponsored article by
''.