シュラフには、ダウンや化繊、封筒型、マミー型など様々なバリエーションがあり、初心者が最適なモデルを選ぶのは非常に骨が折れるものだ。だったら、高額なダウンシュラフでも買っておけば間違いないと思うかもしれないが、キャンプ用途に限っては一概にそうとは言い切れない事情もある。今回は、そんなややこしいキャンプのシュラフ事情のほか、選び方、おすすめモデルまで詳しく解説する。
キャンプにおすすめなシュラフは「ダウン」それとも「化繊」?
ダウンと化繊の違い
キャンプ初心者でもアウトドア用品店などでシュラフをチェックしていると、なんとなく「ダウン」タイプは高額、「化繊」は低価格ということがぼんやりとわかってくるはずだ。
そもそも「ダウン」は「羽毛」、「化繊」は「化学繊維綿」をそれぞれ示している。そうと分かると我が意を得たりではないが、おそらく「ダウンは天然素材だけあって、やっぱり高級=高機能」と考えるのではないだろうか。
確かにダウン素材は、プロの登山家にも愛用されるだけあって、抜群の保温性を誇ることは間違いない。しかし、キャンプ用途でも最善かというと決してそうとは言い切れない事情がある。
ダウンと化繊シュラフの特徴についてだが、基本的に下表でまとめたような違いがある。
ダウン&化繊シュラフ比較表
ダウン | 化繊 | |
価格 | × 高い | ◎ 安い |
保温性 | ◎ 非常に暖かい | ○ 暖かい |
重量 | ◎ 非常に軽量 | △ やや重い |
水濡れ | × 弱い | ○ 強い |
洗濯 | × 原則丸洗い不可 | ◎ 丸洗い可 |
メンテナンス | × 手間がかかる | ◎ とても簡単 |
収納性 | ◎ 高い | △ ややかさばる |
高額なダウンに低価格の化繊が思いのほか食い下がっていて不思議に思うかもしれないが、もちろんこれには理由がある。
有り体にいえば、ダウンとは「軽量性・保温性・収納性」を徹底追求した「特化素材」だということだ。重量はできる限り軽く、それでいて保温力は犠牲にしたくない──そんな装備の軽量化を重要視する登山家には、まさにうってつけの素材が他ならぬ「ダウン」といえる。
しかし、その反面、水に濡れると保温力がガタ落ちになってりまったり、洗濯機の利用はだめだったり、保管も通気性の良い場所で広げておく必要があったりなど、デメリットも多い。
装備の軽量化は登山の場合は命に関わることなので、他はある程度目をつぶってもこだわる意味は大いにあるが、かたやキャンプの場合はそこまでの重要性はない。特にオートキャンプの場合は、化繊シュラフだからといって荷物の積載に大きな支障が出ることもないはずだ。
むしろ、重量と収納性さえこだわらなければ、化繊シュラフのほうが価格も安く、保温性もまずまずなうえ、さらに水濡れにも強く、丸洗いもできてメンテンナスも簡単と良いこと尽くしといえる。
形状は「マミー型」と「封筒型」のどちらがいい?
シュラフの形状は大別すると、身体にフィットする「マミー型」のほか、長方形でスペースにゆとりがある「封筒型」の2種類がある。
基本的には、身体に密着して冷気が入りにくいマミー型のほうが保温力が高いが、だからといって、すべてにおいてマミー型のほうが優れているわけではない。
形状による特徴の違い
マミー型 | 封筒型 | |
保温力 | ◎ 非常に高い | ○ 高い |
スペース | △ 窮屈 | ◎ ゆとりがある |
フィット感 | ◎ 非常に高い | ○ ほどほど |
シュラフからの出入り | △ やや面倒 | ○ 簡単 |
上記がマミー型と封筒型シュラフのおもな違いとなる。
簡単にまとめれば、マミー型は保温力に優れる代わりに寝心地がイマイチ、封筒型は保温力はまずまずで、寝心地も良いという傾向がある。
このように、マミー型のほうが構造上、保温性能的には優位ではあるものの、肝心の寝心地があまりよくないと安眠は難しいし、それにスペースが窮屈だと身体が動かしにくくなって体温もなかなか上がりにくいはずだ。
従って、キャンプ初心者の場合は、家庭での睡眠とあまり勝手の変わらない封筒型シュラフを選ぶのが無難だ。もし、マミー型と比べて保温性能に不安があるなら、念のため、快適使用温度がより低めのタイプを選んでおけばいいだろう。
晩秋以降のキャンプは「氷点下(0度)」対応のシュラフを選ぼう
もちろん、だからといって化繊シュラフならどんなものでもいいというわけではない。とりわけ保温力は製品によって大きく異なるので、注意深く選ぶ必要がある。
もっとも、春夏秋のキャンプならさほど気温も下がることもないので、3シーズン対応の安い化繊シュラフでも十分だろうが、10月以降の晩秋キャンプとなると話は別だ。というのも晩秋キャンプでは、場所や天候によっては氷点下になることも珍しくないからだ。
シュラフの性能を示すわかりやすい基準として「最低使用温度」や「快適使用温度」などがあるが、10月以降のキャンプでは「快適使用温度」が最低でも「氷点下(0度)」程度はほしい。
筆者の体験上、特に寒がりな人の場合は気温が10度を下回ると「快適使用温度」が-10度以下の性能がないと厳しく感じる。あくまで目安であるが、快適な睡眠を得るには実際の気温から最低「5度」、寒がりな場合は、少々行き過ぎかもしれないが「10~15度」を引いた値の「快適使用温度」はほしいところだ。
一方、シュラフに限った話ではないが、初めてシュラフを買うようなビギナーの場合は、ある程度価格には目をつむって大手メーカーに絞って購入したほうが無難だ。
中小のメーカーでもいい製品は多数あるが、初心者が目利きをするのは難しいし、初期不良や修理依頼など、なにかあった場合のサポートにも不安が出てくる。しかし、高い実績を持つ大手ならこうした心配もないし、公式サイトの製品情報やユーザーレビューも充実していて、購入前に下調べもしっかり行える点も安心感がある。
晩秋~初冬キャンプにもおすすめ「本当に暖かい」化繊シュラフはこれ!
【封筒型・快適使用温度-5度】
コールマン
マルチレイヤースリーピングバッグ
防寒の基本は「レイヤリング(重ね着)」だということは広く知られているが、そのセオリーを取り入れたのがコールマンの化繊シュラフ「マルチレイヤースリーピングバッグ」だ。
「アウトレイヤー」と「ミッドレイヤー」、さらに「フリース」の3層構造を採用しており、秋冬キャンプでも余裕で対応できる「快適使用温度-5度」をしっかり実現している
さらに、各レイヤーを個別に組み合わせて使用することも可能。例えば、春や秋はアウトレイヤーとフリースだけを使用したり、夏はフリースだけを夏掛け布団代わりに使用したりなど、季節や天候によってさまざまなカスタマイズもできる。
サイズは幅90センチ×全長200センチ。洗濯機での丸洗いにも対応している。
●使用時サイズ : 約 90×200cm
●収納時サイズ : 約52×29×38cm
●重量 : 4.9kg
●材質 :
表地/ポリエステル
裏地/ポリエステル
中綿/ポリエステル
●付属品 : 収納ケース
[商品詳細]…
【封筒型・快適使用温度-12度】
Snugpak
スリーパーエクスペディション スクエアライトハンド
リーズナブルな価格ながら、快適使用温度-12度の圧倒的な防寒性能を誇る本格派がこちら。
発売元のSnugpakはイギリス発の老舗アウトドアメーカーで、同社のギアは英国軍やNATO軍でも多数採用されている。厳格で知られる軍規格品も手掛けているだけあって、製品の品質や耐久性は折り紙付きといっていい。
そんなSnugpakが日本だけのオリジナルモデルとして販売している化繊シュラフが、ベースキャンプシリーズ「スリーパーエクスペディション スクエアライトハンド」。冬キャンプにも十分耐えうる保温性能を備えるほか、開放感のある封筒型を採用し、就寝スペースにもゆとりがあって寝心地もバツグンだ。
さらに、ファスナーは生地噛み込み防止対応を施すなど、老舗ブランドらしく細かい点まで配慮が行き届いている点もうれしい。
サイズは幅80センチ×全長220センチ。洗濯機での丸洗いにも対応している。
【マミー型・最低使用温度-12度】
イスカ
アルファライト1000EX
イスカといえば国内でも指折りのシュラフ専門メーカーで、縫製や素材の品質には高い定評がある。そんな同社が満を持して送る化繊シュラフが「アルファライト」シリーズで、今回取り上げる「1000EX」は「最低使用温度-12度」に対応した上位モデルに位置する。
中綿には、マイクロ繊維と中空ポリエステルを組み合わせた保温材である独自素材「マイクロライト」を採用。通常の化繊綿より収納性に優れるほか、保温性能も極めて高い。
さらに、上部に余裕を持たせた「3Dシルエット」のほか、放熱ロスや冷気の侵入を防ぐ「瓦ぶき構造」、冷えやすい足元に多めの中綿を封入し、スペースにもゆとりがある「ゆったり足元」を実現するなど、シュラフとしての機能面も文句なし。
快適使用温度は非公開となっているが、メーカーによると最低使用温度におおよそ5~10度をプラスした温度域をひとつの目安にしてほしいとのこと。つまり、「-2~7度」程度ならまずます快適に利用できると判断できる。
サイズは幅(肩幅)84センチ×全長211センチ。丸洗いについては、バスタブなどを利用した手洗いなら可能だ。
【マミー型・最低使用温度0度】
コールマン
コルネットストレッチ2 L-5
最大25%も伸縮可能とバツグンのフィット感を実現したマミー型の化繊シュラフ。身体に隙間なくジャストフィットして冷気の侵入をしっかり防いでくれるほか、最低使用温度も「0度」とまずまずの性能を有する。
さらに、センタージップを採用しており、シュラフの出入りも極めて簡単。また、足元のジッパーだけを開けば、そのまま手足を出して動き回ることも可能だ。
サイズは幅67~84センチ×全長205センチ。洗濯機での丸洗いにも対応している。
●使用時サイズ : 約205×67〜84cm
●収納時サイズ : 約Φ45×25cm
●重量 : 約1.6kg
●材質 :
表地/ポリエステル
裏地/ポリエステル
中綿/ポリエステル
[商品詳細]
抜群のストレッチ性で心地よいフィット感を実現。…
【マミー型・快適使用温度-3度】
モンベル
バロウバッグ #1
「バロウバッグ」は、国内きっての総合アウドドアブランド・モンベルの手掛ける化繊シュラフシリーズ。化繊綿には独自素材の「エクセロフト」を採用し、高い保温力と耐久性を両立。しかも、化繊シュラフとしては極めてコンパクトに収納できるため、携行性も極めて上々だ。
さらに、生地の繊維方向を斜めに配置し、ステッチには糸ゴムを使用することで135%もの伸縮率を実現させた「スーパースパイラルストレッチ」構造を採用。就寝中は隙間なく身体にジャストフィットしてくれるうえ、適度に伸びて身体の動きを妨げないため息苦しさを感じることもない。
快適使用温度はグレードによって異なるが、価格と性能のバランスがいいのがこちらの「#1」。快適使用温度は「-3度」となっており、秋キャンプ程度なら暖かな眠りを満喫できるはずだ。
ワンランク上の保温性能を求めるなら、少々値は張るが最上位グレードの「#0」をチョイスするのもアリだろう。
適応身長は183センチまで。丸洗いについては、バスタブなどを利用した手洗いなら可能だ。
まとめ
以前は暖かいシュラフといえばダウン一択だったが、最近はより高機能な化学繊維綿が開発されたことで、ダウンに負けない保温性能を持つ化繊シュラフが続々と登場している。
それでも収納性については、いまなおダウンが圧倒的に優れるが、登山と違ってキャンプの場合はそこまで装備の軽量化を要求されることもない。むしろ化繊のほうが水濡れにも強く、手入れも簡単などと、ライトにキャンプを楽しみたい人にうってつけのシュラフだといえる。
なお、どんなにシュラフの保温性能が優れていても、地面からの冷気は完全に防ぐことはできない。これは、背面にある化繊綿やダウンは押し潰れさてしまってロフト(厚み)がほとんどなくなり、本来の保温性能を発揮できなくなってしまうためだ。秋冬キャンプでは、かならずシュラフとともにコットや断熱マットなども併用して、背中の保温対策も万全を期すようにしてほしい。
◆篠原義夫(フリーライター)
パソコン雑誌や家電情報誌の編集スタッフを経て、フリーライターとして独立。専門分野はパソコンやスマホ、タブレットなどのデジタル家電が中心で、初心者にも分かりやすい記事をモットーに執筆活動を展開中。