慢性痛では、不安や恐れ、怒りなどで脳がモヤモヤとしていると痛みにつながる場合もあります。まずは頭をもんで、脳のもつれた感情や思考をときほぐし、スッキリさせることがたいせつです。【解説】能見登志惠(とちの実健康倶楽部クリニック院長)
解説者のプロフィール
能見登志惠(のうみ・としえ)
とちの実健康倶楽部クリニック院長。鳥取大学医学部卒業、同大麻酔科入局、同大学手術部から公立豊岡病院麻酔科部長を経て、2001年に山本記念病院へ。09年、山本記念会都筑ふれあいの丘クリニック院長、漢方外来や在宅医療を担当。17年、とちの実健康倶楽部クリニック開院、気功体操の指導や講演会にも精力的に取り組む。学生時代より東洋医学を探求し、中健次郎師に師事。気功歴26年。全日本鍼灸学会認定医。日本東洋医学会会員、日本麻酔科学会会員。日本リハビリテーション医学会会員。
多くの痛みは運動不足やストレスが原因
体の痛みや不快感を訴える患者さんに対して、いろいろと検査しても、異常が見つからない——。
多くの医師がこんなケースを体験します。皆さんの中にも、痛みがあるのにもかかわらず、医師から「異常なし」と言われた経験のあるかたは少なくないことでしょう。
現代医学(西洋医学)では、不調があるからには「目に見える異常」があるはずだと考え、レントゲンやMRIなどの画像検査、あるいは血液検査で、数値的な異常を探します。
一方、東洋医学は「目に見えない異常」も想定しています。東洋医学の考え方の基本は「気・血・水」の三要素が正常に体を巡ることによって、健康が保たれるというもの。「血」と「水」は、血液やその他の体液に該当します。
しかし「気」は生命の源となるエネルギーで、目には見えない存在です。この気が枯渇したり、流れが滞ったりすると、心身の不調を招くのです。
現代人は、慢性的な運動不足やストレスによって、気・血・水が滞り、体の痛みや不快感を抱えています。しかしこの現象は、西洋医学的な検査では、なかなかとらえられません。
痛みがすぐ改善し驚く人が続出!
私自身、現代医学の知見に基づきながら、それだけでは対応できない患者さんには、気の観点からもアプローチしています。
その一環として、患者さんにお勧めしている健康法が、気功法(気のトレーニング)や、今回ご紹介する「頭もみ」です。
特に、頭もみは、体の痛みや不快感に即効性があります。実践した人が「すぐに痛みが和らいだ!」と驚くことがめずらしくありません。
体に痛みや不快感がある人の頭に触れると、多くの場合、特定の場所に異常が現れています。押すと痛んだり、柔らかくブヨブヨとしていたり、しこりのように硬くなっていたり、へこんでいたりするのです。
頭はまるで、全身の健康状態を映す鏡。体のどこかに気の滞りがあると、それが頭部の特定の場所に、痛みや硬さなどの異常反応として現れるのです(下の「頭もみ治療地図」参照)。
その場所をご自身の指で探し、丁寧にもむと、滞りが解消され、症状はみるみるよくなります。
【頭もみ治療地図】
体のどこかに気の滞りがあると、体の痛みや不快感が発生するとともに、頭部の特定の場所に反応として現れる。その場所を探し、丁寧にもむと、気の滞りが解消され、痛みなどの症状はみるみるよくなる。「脳のモヤモヤを抜く頭もみ」(下項)を一緒に行うと、より効果を得やすい。
★体の右側が痛むなら、頭の左側をもむ。体の左側が痛むなら、頭の右側をもむ。例えば右肩が痛ければ、治療地図の左側の肩のポイントを探し、左手でもむと、痛みはすぐ治まる
脳のモヤモヤが痛みにつながることもある
痛みは本来、体の危険を知らせる信号です。しかし慢性痛では、脳が誤って痛みを記憶し、その必要がないのに、繰り返し、痛みを再現してしまうのです。それゆえ、痛みの改善には心理療法が有効です。
体に痛みがあると、脳がその不快感にとらわれ、感情や思考も沈みがちになります。反対に、不安や恐れ、怒りなどで脳がモヤモヤとしていると、そのモヤモヤが痛みにつながる場合もあります。
ですから、まずは頭をもんで、脳のもつれた感情や思考をときほぐし、スッキリさせることがたいせつです。心地よい頭もみで、思考も痛みも落ち着きます。
なお、心理面の不安定さが体の不調に現れやすい、自律神経失調症や更年期障害の改善にも、脳のモヤモヤを抜く頭もみは有効です。
痛みやこりの部位別「頭もみ」のやり方
【ポイント】
●1カ所を20回以上刺激しないでほどほどに。過刺激に注意。湿疹や皮膚炎のときは行わない。
●手法(1)と(2)を併せて行うのがお勧め。
●特に痛みや不快症状がない場合も手法(1)と(2)をひととおり行って頭全体をほぐしておくと、心身全体の流れがよくなり、気の滞りや心身の不調を予防できる。(全体で3分以内程度が目安)
●体の右側が痛むなら、頭の左側をもむ。体の左側が痛むなら、頭の右側をもむ。例えば右肩が痛ければ、治療地図の左側の肩のポイントを探し、左手でもむと、痛みはすぐ治まる
手法(1)
脳のモヤモヤを抜く「頭もみ」
効果のある症状:気の滞り(痛みの根本的な原因)、イライラ・不安・恐れ・落ち込み・思考過多、自律神経失調症による症状、更年期障害による症状
❶前後から頭を軽く押す
右手の人さし指の指先を、髪の生え際を結んだラインの左右中央の位置に当てる。左手の人さし指の指先を、「瘂門(あもん)」(右参照)に当てる。両手の指先で前後から、頭を3〜5秒程度押す
❷脳のもつれをほどき、抜く
頭の中でもつれていた糸を、前後の指で抜くように、両手の指を頭からスーッと遠ざける。「糸を両端から引っぱったら、グチャグチャにもつれていたのがスルッとほどけ、そのまま抜けてしまった」のをイメージし、「スーッ」と声に出すといい
手法(2)
今ある痛み・不快感を消す「頭もみ」
前掲の「頭もみ治療地図」のとおり、頭には大きく分けて5つのゾーンがあります。今ある痛みと対応するゾーンを探し、そのゾーン全体を丁寧にもみながら、特に違和感のあるポイントを探し、そのポイントをよくもみます(20回以内)。もんでいるうちに、痛みが和らいできます。
❶脚ゾーン
効果のある症状:股関節痛、ひざ痛、足首痛、ねんざ、足指の痛み
百会と耳の上端を結ぶラインを、両手の5本指でもむ。もむと痛み・しこり・ブヨブヨを感じる箇所が見つかったら、その部分を丁寧にもむ
❷腕ゾーン
効果のある症状:肩こり、四十肩・五十肩、ひじ痛、腱鞘炎、指の痛み
(1)の脚ゾーンより3cmほど前(額側)に寄ったラインのあたりを、両手の5本指でもむ。もむと痛み・しこり・ブヨブヨを感じる箇所が見つかったら、その部分を丁寧にもむ
❸体幹ゾーン ❹首ゾーン
効果のある症状:首痛、背中のこり、腰痛
瘂門と生え際を結ぶライン(頭の正中線)を、両手の5本指でもむ。首の痛みの場合は、生え際よりも頭頂に寄ったあたりを重点的にもむ。もむと痛み・しこり・ブヨブヨを感じる箇所が見つかったら、その部分を丁寧にもむ
❺目鼻ゾーン
効果のある症状:老眼・近視による目の不快感、飛蚊症、眼精疲労、鼻腔の不快感
手で耳をふさぐようにし、耳の周辺を、両手の5本指でもむ。もむと痛み・しこり・ブヨブヨを感じる箇所が見つかったら、その部分を丁寧にもむ
現代医学も「気」に注目し始めている
実は最近、現代医学の観点からも、気へのアプローチが評価されるようになってきました。
整形外科やペインクリニックの分野では近年、「トリガーポイント」が注目されています。体の特定の場所を押すと、その付近や場合によっては遠く離れた部位に痛みを感じるというものです。例えば、トリガーポイントのこりをほぐしたり、麻酔注射をしたりすることで、体の痛みを取る治療も行われています。
このトリガーポイントですが、実は東洋医学でいう「経穴(ツボ)」とほぼ一致します。
最近、イギリスの大学病院の医師であるダニエル・キーオン氏の著書『閃めく経絡』(医道の日本社刊)が話題になりました。本書では、東洋医学の鍼灸治療がなぜ効くのかが考察されています。
それによると、経穴や経絡(気の通り道のこと)を詳しく調べると、「筋膜=ファッシア」の間を通っていることがわかったそうです。
ファッシアとは、筋肉や内臓などを包む膜状組織の総称です。従来の画像検査では映りませんでしたが、近年、進化したエコー(超音波)検査器で観察できるようになりました。
観察によると、トリガーポイントではファッシアの癒着(くっつくこと)などの異常がよく見られるそうです。そこに液体を注入し、癒着をはがすと、痛みが改善するともわかってきました。
ファッシアの間を通る気が再びスムーズに流れ出すのと、なにか関係しているのかもしれません。キーオン医師は本書で、「氣の存在を否定することは、生命自体を否定すること」とも述べています。
頭もみは、誰もが「自分で」「手軽に」気の流れを回復できる手法です。ぜひ取り組んでみてください。
ただし、1カ所を20回以上刺激しないようご注意ください。過刺激は、逆効果になることも多いです。「過ぎたるはなお及ばざるがごとし」。何事もほどほどがいちばんです。