プリンター(複合機)選びのコツは、使用目的に合った製品を選ぶこと。というと、「当り前じゃないか」と言われそうですが、実は、使用目的に合わない製品を買ってしまい、本来の成果を得られなかったり、余計なコストがかかったり、製品寿命を縮めている人が少なくありません。今回は、中小のオフィスや個人で仕事をしている人に役立つインクジェット方式のA3ビジネス複合機を紹介します。
プリンター(複合機)選びの基本的なポイント
(1)プリンターと複合機の違い
プリンターは、印刷機能だけの機種です。複合機は、印刷のほかにスキャナーやコピーの機能も付いています。ビジネス向けだとFAX機能が付いているものもあります。
(2)インクジェット式とレーザー式の違い
家庭用として普及しているのは、液体のインクを使うインクジェット式です。大きなオフィスでは、トナーと呼ばれる粉で印刷するレーザー式が主流です。
しかし今は、ビジネス向けインクジェット複合機の進化が目覚ましく、特に中小のオフィスや個人事務所で使うならインクジェット式の方が便利で低コストです。
(3)染料インクと顔料インクで用途が違う
インクジェット式のプリンター(複合機)で使われているインクには、染料インクと顔料インクの2種類があります。
今回は細かな説明を省きますが、写真をきれいに印刷するなら染料、文字や文書をくっきり印刷するなら顔料と覚えておいてください。ビジネス用は顔料インクが主流です。
(4)年賀状の印刷にも使うならハイブリッド型
写真しか印刷しないなら染料インクだけの機種、文書しか印刷しないなら顔料インクだけの機種がいいでしょう。
しかし年賀状は、宛名は黒文字で、通信面にはきれいな写真を入れたいというケースが多い。そこで今は、家庭用を中心に黒インクは顔料、カラーインクは染料という機種が主流になっています。
これを、2種類のインクを使うという意味で「ハイブリッド型」といいます。
(5)印刷コストの削減は互換インクより特大容量インクで
インクジェットプリンター(複合機)で気になるのがインク代。純正インクは高いので互換インクを使う人も少なくありません。
ビジネス文書の場合、写真印刷ほど色の正確性を問われないことが多いので、コスト削減のために互換インクを使うのも悪くはないでしょう。ただし、インクの値段が下がるほど目詰まりなどのリスクが上がります。
それと、互換インクを使うとメーカー保証を受けられなくなるので、保証がある間(通常1年)は純正インクを使うほうが安心です。
今は、特大容量インクを使える機種も増えているので、たくさん印刷する人はそうした機種を選ぶといいでしょう。
キヤノンは「GIGA TANK(ギガタンク)」、エプソンは「eco tank(エコタンク)」、ブラザーは「FIRST TANK(ファーストタンク)」という名称で、特大容量インクに対応した機種を出しています。
(6)詰まり防止のために小まめに使う
インクジェット複合機の買い替え理由で目立つのが、しばらく使わなかったら「目詰まりして直らない」というもの。
こうなると、いくらヘッドクリーニングを繰り返しても改善の可能性は低く、本体を買い替えざるを得ません。これはキヤノンでもエプソンでも同じですが、私の接客経験では、特にエプソンの6色機に多いように感じました。
予防策は、特に使用目的がなくても、週に何度か電源を入れてヘッドクリーニングすることです。
なお、ブラザーのプリンター(複合機)は、家庭用でもビジネス用でも使用後に電源を切らないでスタンバイ状態にしておくと、定期的に起動して自己点検し、必要に応じて自動的にクリーニングして目詰まりを防止する機能が標準装備されています。
自分の経験でも、以前、エプソンのプリンターを使っていたときは、ヘッドの目詰まりで何度も買い替えを余儀なくされましたが、プラザーの機種に変えてからは5年以上、まったく問題が起きていません。
仕事に役立つA3ビジネスインクジェット複合機はこれだ!
以上を踏まえて、中小オフィスや個人で仕事をしている人に最適な、A3対応のビジネスインクジェット複合機を選んでいきましょう。
仕事用として考えると、印刷だけでなくコピーを取ったり文書をスキャンしたりすることもあると思うので、プリンターではなく複合機がいいと思います。スキャナーがあると、紙の文書をPDFにすることもできます。ファクスが必要なら、FAX機能が付いた機種を選んでください。
ビジネスインクジェット複合機のインクは、基本的に顔料になります。ただ、店舗などでポスターやチラシを印刷したいという場合は、写真がきれいなハイブリッド型がいいでしょう。
第3位エプソン PX-M5081F
インクジェットFAX複合機
PX-M5081F
ビジネス用インクジェット複合機で唯一A3ノビに対応。
第1位に選んだブラザーの「MFC-J6983CDW」のライバルにあたります。印刷、コピー、スキャンに加えてFAX機能も付いています。
プリンターというとキヤノンかエプソンという思い込みが強くて、最初から「エプソンのビジネス用は、どれ?」という感じで選んでいく方もいます。
しかし実は、A3ビジネスインクジェット複合機や小型プリンターの分野ではブラザー製品の信頼性とシェアが高く、同じ顔料インクを使いながら写真などの発色はエプソンよりブラザーの方がきれいです。
また、印刷コストや使い勝手、耐久性など、ひとつひとつ見ていくと、ブラザー機の方が優れていることがわかります。しかも、ブラザー機の方が少しコンパクトで軽い。
しかし一点だけ、エプソンのPX-M5081Fには他社機にない利点があります。それは、A3ノビサイズの用紙が使えること。
A3ノビは、普通のA3より一回り大きなサイズ。印刷の分野では、原稿の周囲にトンボと呼ばれる切り落とし線を入れます。A3ノビに対応していると、こうした印刷が可能です。
ただ、顔料4色なので写真の美しさは期待できません。そのため、広告系より出版系で、たくさんのページを印刷する人に向いていると思います。
なお、ほぼ同じで機能でカセットトレイが1段の「PX-M5080F」もあります。印刷枚数が多い場合はeco tank搭載の「EW-M5071FT」がありますが、こちらは黒インクのみ顔料、カラー3色が染料インクというハイブリッド構成なので使用目的が変わってくるでしょう。
第2位キヤノン TR9530
インクジェット複合機
TR9530
ポスターやチラシを美しく印刷できる店舗向きハイブリッド複合機。
ひとくちにビジネスと言っても、業種によって必要とする機能が違います。
この機種は、飲食店や物販店など、写真を使った資料やチラシを作る機会が多い業種にお勧めの1台として選びました。アパレル業界や一般企業の広報部門などでも役立つかと思います。
特徴は、顔料の黒インクと、染料のカラーインクというハイブリッド構成になっていること。カラーインクは、ブラック、シアン(青)、マゼンタ(赤紫)、イエローの4色です。ビジネス機には珍しく、カラー印刷に染料インクを使うので写真がきれいに出ます。
機能としては、印刷のみA3まで対応で、コピーとスキャンはA4まで可能です。ただし、A4の原稿を読み込んでA3に拡大コピーすることはできます。FAX機能はありません。
このように、印刷のみA3対応で他はA4までという機種はブラザーからも出ていますが、A3フル対応の機種より本体がコンパクトです。店舗のバックヤードなど狭い場所でも使いやすいでしょう。
第1位ブラザー MFC-J6983CDW
インクジェット複合機
MFC-J6983CDW
あらゆる業種に向く機能充実の1台。
家庭用のプリンター(複合機)では、キヤノン、エプソンに続いて国内3位のブラザー。昔はミシンで有名でしたが、今はOA機器が中心の日本の会社です。
ただ、家庭用プリンターの知名度が低いためか、売り場でご案内してもネガティブな反応を示す人がときどきいます。しかし、中小オフィス向けのビジネス用プリンターや複合機では評価も実績も高く、市場シェアもあります。
実際、ライバルにあたるエプソンの「PX-M5081F」と比較ていくと、ほぼすべての面でプラザーの「MFC-J6983CDW」の方が優れていることが分かります。しかも、PX-M5081FよりMFC-J6983CDWの方が一回り小さくて軽量です。
家電量販店には、エプソンのビジネス複合機とプラザーのビジネス複合機の比較表が置いてあるので、ぜひ細部まで確認してみてください。印刷コスト、印刷スピード、耐久性など、どれもブラザーの方が優れていくことが分かります。
また、どちらも顔料インク4色なので写真印刷には向きませんが、ブラザーは顔料インクのマゼンタに染料を混ぜて発色をよくするといった工夫をしています。そのため、写真やカラーイラストが入るような資料、建築パースなどはブラザー機の方が見栄えがすると思います。
機能的には、印刷、コピー、スキャン、ファクスともA3まで対応しています。用紙を入れるカセットトレイは2段で、さらに後方に多目的トレイがあります。封筒や特殊な紙は、後方から手差しで印刷できます。
なお、ほぼ同じ性能でカセットトレイが1段の「MFC-J6583CDW」もあります。本体が小さい機種を希望の人は、印刷のみA3まで可能で、ほかの機能はA4まで対応の「MFC-J5630CDW」がいいでしょう。
印刷枚数が多くて印刷コストを抑えたいなら、FIRST TANK搭載でカセットトレイが3段の「MFC-J6999CDW」か2段の「MFC-J6997CDW」がお勧めです。印刷枚数が多くて、コピーやスキャナーは不要という場合は、FIRST TANK搭載でA3プリンター機能だけの「HL-J6000CDW」という製品もあります。
解説◆高山とほ(プロダクトライター)
約5年に渡って家電量販店の店頭に立ち、いろいろなお客様に対応した経験から「それぞれのお客様にとって最適な製品を選ぶポイントを的確に伝える」ことをモットーにしているモノ派のライター。学生時代に工業デザインを学び、日本製家電の黄金期に郷愁を感じる世代。アウトドアを好み、道具にはこだわるほう。