本来、筋肉は背中・肩・腕・腰・足などの筋肉が、調和の取れた動きをするはずですが、多くの現代人はそれができなくなっています。美構造メソッドを行うと、特に背中の筋肉がうまく使えるようになり、全身各部の可動域が広がります。【解説】藤原ヒロシ(美構造®プロデューサー)
解説者のプロフィール
藤原ヒロシ(ふじわら・ひろし)
美構造®プロデューサー、体の使い方研究家。パーソナルトレーナーとして活動しながら、自身の体の硬さを克服するべく、整体、気功、ヨガ、リンパ療法を学ぶ。その中で古武術と出合い、筋力に頼らずに全身を使う合理的な体の使い方に衝撃を受けて研究を始め、全身を連動させて筋力や柔軟性を高める『美構造メソッド』を考案。著書に『一瞬でかたい体がやわらかくなる美構造メソッド』(学研プラス)がある。
筋肉が連動して体の軸が定まる
「もっと体が柔らかければ、どんなにいいだろう」「年とともに、どんどん体が硬くなっている」多くの方が、そう思っています。
そういう方々は、上体がベタッと床につくきれいな開脚や、手のひらが床につく余裕の前屈をしている人を見ると、「自分には絶対に無理」と思い込んでいます。
私もそうでした。数年前までとても体が硬く、前屈をしても、手がひざの高さまで行くかどうか。それが今では、前屈や開脚がらくらくできます。
これは、ストレッチやトレーニングをがんばってしたわけではありません。ただ「手をさする」だけで、一瞬で体が柔らかくなるのです。
この方法を考案したのは、ちょっとした偶然からでした。私は、小中高とサッカー、大学ではアメリカンフットボールをやり、筋トレをガンガンやってきました。大学卒業後はトレーニングジムに就職したものの、鍛え過ぎて体が硬くなっていたので、仕事に支障が出てしまったのです。
なんとか体を柔らかくしようと、整体、古武術、各種のマッサージ、礼儀作法の教室などに行って勉強しました。礼儀作法の教室は、柔らかい体の動きが習得できるのではないかと思って行ったのですが、そこで、思わぬ発見がありました。
私が行ったのは、有名な流派の礼法教室ですが、そこでは、おじぎなどの動作をする際、ごく軽く手のひらを湾曲させるように習います。片方の手で水をすくうときのような形です。
私はこれを「手のアーチ」と名づけました。所作の美しさを生み出すためのものでしょうが、これをやってみると、体の中で何かが変わるのが感じられました。バラバラに動いていた筋肉が連動して、体の軸がしっかりする感覚があったのです。
日常生活の中で、ふとそのことを思い出し、手のアーチを作った状態で体を動かしてみたところ、急に体が柔らかくなったのが分かりました。
いろいろな動作を試すうち、手をシュッとさすると、この手のアーチができやすいことが分かりました。
私は、これを自分で行うとともに、当時、トレーニングジムをやめて個人的なボディワーク教室を開いていたので、生徒さんたちにも勧めました。すると、信じられないほど体が柔らかくなる人が続出したのです。
例えば、精一杯開脚しても、両脚の角度が60度くらいで、手の先を床につけるのがやっとだった36歳の女性は、180度の開脚で、上体と腕がベタッと床につくようになりました。
体がガチガチに硬くて、前屈も開脚もほとんどできなかった60歳の女性は、最初、「自分は無理」と言い張っていましたが、すぐにきれいな前屈・開脚ができるようになりました。
また、曲がった背すじが伸びて姿勢がよくなった人、その結果として身長が伸びた人、おなかがへこんできれいな体形になった人、自然に体重が減った人なども大勢います。
「体が軽くなって動きやすい」「疲れ知らずになり、自分でも驚くほど元気」という声もよく聞かれます。お年寄りでは、「体が安定して歩きやすい」「転びにくくなった」という人も多いのです。
自分と生徒さんたちのこうした体験を通じて、私は、手のアーチをはじめとする体の使い方を「美構造メソッド」として体系化しました。
すると、このメソッドを取り入れてくださった治療家やヨガ講師、医師の方々から、「腰痛やひざ痛、肩こりの改善に役立った」「尿もれが改善した」など、予想していなかった効果のご報告も、多くいただくようになったのです。
体だけでなく思考も柔軟になるメソッド
ではなぜ、こんなに簡単な動作で、体が柔らかくなり、いろいろな健康効果まで得られるのでしょうか。
それを理解するキーワードは、「筋肉の連動」と「腹圧オン」です。
筋肉の連動とは、背中・肩・腕・腰・足などの筋肉が、調和の取れた動きをすることです。本来、筋肉はそのように働くはずですが、多くの現代人は、それができなくなっています。手のアーチは、その感覚を取り戻す一種のスイッチ役をします。
美構造メソッドを行うと、特に背中の筋肉がうまく使えるようになり、全身各部の可動域(動かせる範囲)が広がります。
腹圧オンとは、内臓の納まっているスペースである、腹腔の圧が高まることです。それによって体の軸がしっかりし、骨盤の位置も正しくなります。手のアーチで筋肉が連動すると、自然に腹圧オンになります。
筋トレなどで重い物を持つとき、腹部に太めのベルトをすることがあります。これは、腰痛防止の目的だけでなく、ベルトで腹圧をオンにすることで、体が安定して強い力を出せるようになるからです。
それを、自前の筋肉でやるのが、手のアーチによる腹圧オンです。
この状態のとき、体は自然体になって余分な力が抜けています。だからこそ、力を出しやすくなり、柔軟にもなるのです。
理屈はさておき、試しに手をシュッとさすって、手のアーチを作ってみてください。体の余分な力が抜けつつ、体の軸がしっかりするのが分かるでしょう。これが、筋肉が連動して腹圧がオンになった状態です。
ここまで、手のアーチを中心にご紹介しましたが、同じ原理で、私は他の方法も開発しました、「ぞうきん絞りスクワット」や「かかとスイッチ」というメソッドです。いずれも同じ効果がありますので、下記のやり方を見て、やりやすいものからやってみてください。
やるときには、必ず、事前に前屈や開脚をしておき、やった後に体の柔らかさがどう変わったかをチェックしてください。それによって、「自分の体は硬い」と思っていたのが、単なる思い込みだったとわかるでしょう。
その思考の硬さが取れるのも、見逃せない効果です。
やる前とやった後では、らくにしゃがみやすくなったり、正座をしやすくなったりという変化も起こります。また、直立姿勢で誰かに体を押してもらうと、同じ力でも倒れにくくなります。それらをチェックしてみるのも面白いでしょう。
元から体が柔らかい人でも、手のアーチなどの美構造メソッドを行うと、体の突っ張り感が消えて、すんなり動かせるようになります。
腹圧オンは、日本で昔からいわれる丹田(へその下にあり、生命エネルギーである気が集まるとされる場所)の安定や、いわゆる「肚がすわった」状態と同じです。
そのため、美構造メソッドを取り入れると、精神的にも安定し、イライラしにくくなったり、ストレスがかかっても打たれ強くなったりします。
実際、細かいことを気にしなくなり、自分のやりたいことができるようになる人も多く、大げさでなく「人生の変わるメソッド」でもあります。ぜひやってみてください。
すぐに効果を実感できる「美構造メソッド」のやり方
【全体の決まり】
●1日何回でも、いつ行ってもよい。1日1回だけやるなら、朝がお勧め。
●行う前と行った後で、同じ柔軟体操などをして体の変化を確かめるとよい。
●動作はいずれも、できる範囲で無理のないように行う。
美構造メソッド (1)
「手のアーチ」
美構造メソッドの基本中の基本です。これをやるだけでも、体の柔軟性がアップします。
❶足を肩幅に開き、つま先を正面に向けて立つ。両ひじを曲げて手とひじを肩の高さに上げ、左手の指を揃えて、手のひらの中央を軽くくぼませる。
❷右手で左手の手首の少し指先寄りをつかみ、そのまま、右手を左手の指先方向へシュッと引く。
❸手を換えて同様に行う。左右交互に、3回くり返す。
〈こんな方法もお勧め〉
リストバンドや手首用サポーター(100円ショップなどで購入可能)を、手のアーチが保たれるように両手にはめる。はめたまま柔軟体操などをすると、体が柔らかくなる。
美構造メソッド (2)
「ぞうきん絞りスクワット」
ぞうきんを絞る動作を応用したメソッドです。普通のスクワットよりらくにできて効果的です。「ぞうきんがあるつもり」で、布を使わずに行ってもOKです。
❶足を肩幅に開いて立ち、左右の手を開く。開いた手が互い違いになるように指を横に向けて縦に並べ、その上にぞうきんなどの布を持つ。
❷(1)の手の形を保ったまま、ひざを曲げ、ひじを左右に張り出す。あごを前に、お尻を後ろに突き出す。
❸ぞうきんを絞りながら、ひざを伸ばして立ち上がる。ひじは自然に伸ばし、あごを引き、お尻を締める。
❹(2)~(3)を5~10回程度くり返す。(1)の左右の手の並べ方を逆にして、同様に行う。
美構造メソッド (2)
「かかとスイッチ」
特に、下半身の安定と柔軟性アップに効果的です。続けていると、足がスラッと細くなる効果もあります。
❶足が完全に床につく高さのいすに座り、足を肩幅に開く。
❷右手を右足の付け根に当て、右ひじを背中ごとぐっと前に突き出しながら、右足のかかとを上げ、足の指の付け根ができるだけ直角に近くなるまで曲げる。そのまま10秒キープ。
※無理にかかとを上げるのではなく、ひじを前に出すことで背中が広がり、かかとが勝手に上がる感じにするのがポイント。
❸左右を換えて、同様に行う。
■実践したモデルさんも体が柔らかくなった!