2020年、オリンピックの年。テレビメーカーは、8K液晶をドーンと導入することでしょう。長かった「解像度」戦争も、ここで終わり。なんたって、ドットが分からなくなるわけですから、絵画、写真が動く感じで、まさにリアル。ほとんどの人が、これ以上のモノは「民生用」としては必要ないと判断するでしょう。そんな2020年だからなのかもしれませんが、テレビメーカーでなく、マッサージチェア専業メーカー、ファミリーイナダからユニークなものが発表されました。「AI Inada Mirror(AI イナダミラー)」です。
AIミラーって何だ?
鏡は、昔から呪術用具として使われてきました。平面の中に、この世のモノ全てを映すのですから、分からない話ではありません。霊力があるとされ、日本では三種の神器の中にも入っています。
中でも、一番ビジュアルイメージが強いのは、「シンデレラ」に出てくる「魔法の鏡」でしょう。美魔女のお妃が、「世界で一番キレイなのは誰?♡」と訊く、あの鏡です。そして、映し出されたのは、義理の娘のシンデレラ。鏡の精は、昔は「あなた」だったのですが、残念ながら今は「シンデレラ」と告げるわけです。
「AIミラー」と言われると、まずこれでしょうね。
しかし、実際のAIミラーは、ここまでスゴくはありませんが、いろいろなことができます。例えば「バーチャル試着室」。その人の顔にその人の体型で、試着したい服が映し出されます。鏡ですから、体型も映し出さなければ成りません。ちょっとスゴい。
当然、運動の見本も示します。モデルの横に自分が動かしている。どこが違うのかが一目瞭然です。健康管理、そのデータを元にした個人個人の健康アドバイスもできます。ファミリーイナダは、専用クラウドを既に作り上げていますし、2年以上の稼働実績もあります。
今ですら、それくらいのことができますので、そのうち、もしかしたら、シンデレラ風の鏡も作ることができるかも知れません。これらは、スマホ同様に、アプリによるアップデートで、より高度化したり、多種にしたりすることができますので、今購入しても問題ありません。
しかし、まだ定まっていないAIミラーを定義するとすれば、単純に「鏡」として使え、その人に有用な「情報」を教えてくれる、ということになると思います。その情報の一つが、テレビ情報なのです。AIミラーの場合は、「主」が鏡であり、情報。テレビはその中の一つ、「従」なのです。
立てれば鏡、横でテレビ
ファミリーイナダのAIミラーは、55インチの液晶テレビが基本となっています。縦置きの場合は鏡。横置きの場合はテレビとして使える、というわけです。鏡の場合は、スマートフォンの自撮りと同じです。仕掛けられたカメラが、ユーザを撮影。それをリアルタイムで映し出すわけです。55インチもあれば、立派な姿見として使えますからね。
ある意味、55インチのスマートフォンをイメージしてもらえればと思います。しかし、スマートフォンのサイズは小さいですから、姿見のようなリアリティーは出ないわけで、そこが大きな魅力になっております。
これを実現したのが、縦でも横でも、楽々方向が変えられる新規開発の専用スタンド。正直、なかなかの出来で、かなり優雅です。お値段は、約8万5000円相当。かなり工夫がされています。
しかし、ディスプレイの基本は横置きです。映画、テレビは完全に、写真も多くの場合は、横置きが基本になります。需要としては、皆無。パソコンでそのようなスタンドを見たことがありますが、一般的でありません。要するに、テレビに引っ張られると、この発想は出て来ないということです。
ちなみに、テレビは中国のBOEテクノロジーグループ株式会社の液晶テレビです。BOEは、テレビ、PCディスプレイ他、液晶ディスプレイを総計した場合、世界一の生産量を誇ります。
購買に対して独特のアプローチ
ファミリーイナダ製品の基本は、マッサージチェア。数十万円のシロモノです。このため、正直衝動買いをするユーザーはまぁいないでしょうね。このためでしょうか、彼らは「独自リース」で販売しています。これは、5年間のアップデートも付けた分割販売と同じです。月当たり約4000円。ですから、実際の支払いは約24万円。ちょっと強引ですが、クレジットで5年分割にすると、約18万5千円の商品となります。日本メーカーである、ソニーの中級機種、55インチの液晶テレビレベルの価格です。
そう考えると、このAIミラーは、かなりリーズナブルな価格設定といえます。10万円のディスプレイに、8万5000円のスタンド、それにオリジナルのプログラムなどが、ぎっしりと積まれているわけですから。
TVをもっと自由に
もともとテレビというのは、テレビ波受信機。放送を見るためだけのモノでした。しかし、今やどうでしょうか。ネットで好きなコンテンツだけ見る人、つまり、テレビ番組をほとんど見ない人も多いのではないでしょうか。
それなのに、テレビはどのメーカーも、「4Kの次は8K」と言うばかり。しかも、8K放送は関係ない人も多いと思いますが、一度成立した規格には、乗り遅れるなと言わんばかりに、メーカーが開発します。一方、地上波テレビ放送の規格は2Kと相場が決まっていますので、BS、CSを楽しまない限り不要です。
AIミラーが見せてくれたのは、4大家電といわれたテレビが、もはやそんなに大上段に振りかぶって、どうこうするものではない、という事実です。
私は、日本のテレビメーカーに、この事実を厳粛に受け止めてもらいたい、と思います。テレビは解像度以外の別の切り口で、エンタテインメント性を上げる方向を見つけるか、別の機能を取り入れるしかないのですから。
逆に言うと、テレビに拘泥しない異業種、いわゆる黒船の方が、今から買うのは面白いかもしれませんね。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング、ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京散歩とラーメンの食べ歩き。