ヘバーデン結節の患者さんが取るべき自力療法は、保存療法と食事療法です。特に指に負担がかかる作業をするときには、炎症が起こっている関節をソフトに固定するテーピングがお勧めです。バネ指の症状の緩和にお勧めするのは、指反らし体操と関節はさみです。【解説】田中利和(キッコーマン総合病院副院長・整形外科部長)
解説者のプロフィール
田中利和(たなか・としかず)
キッコーマン総合病院整形外科部長。1985年、旭川医科大学卒業後、王子生協病院、亀田総合病院での勤務を経て、2006年より現職。2011年よりキッコーマン総合病院副院長。日本整形外科学会専門医。日本手の外科学会専門医。同病院のほか、毎週火曜日は越谷ハートフルクリニックでも診察を行っている。
多くの疾患で女性ホルモンの影響が大きい
「指が痛い」「指の関節が腫れる」「指の動きが悪くなった」「手がしびれる」「関節が変形してきた」など、中高年以降、さまざまな手の不調を訴えるかたが増えてきます。
ここでは、これらの症状を引き起こす主な疾患について取り上げ、それぞれの特徴などをお話ししましょう。
ヘバーデン結節
【原因】原因不明とされていますが、更年期以降の女性に多く、女性ホルモンが関与しているとされています。
【痛む場所】指の第1関節が痛み、腫れが生じます。指の動きが悪くなり、手を握ったり瓶のキャップを開けたりするなどの動作が困難になります。例えば、右手の小指の第1関節から痛みが生じ、しだいにほかの指の第1関節へと広がっていきます。
【悪化すると】関節に水ぶくれのような物ができる場合があります。関節の変形が進むと、指が横を向いたり、曲がったりします。
※同じ現象が指の第2関節に起こることもあり、これは「ブシャール結節」と呼ばれます。
バネ指
【原因】原因ははっきりしませんが、女性ホルモンが関与している可能性があります。手を使う仕事に多く見られます。
【痛む場所】指のつけ根に痛みや腫れが生じます。指を曲げると曲がったままになり、無理に伸ばそうとすると、バネのように急に伸びます。
【悪化すると】動きがますます悪くなり、指が曲がったままになります。
手根管症候群
【原因】原因ははっきりしませんが、女性ホルモンが関与している可能性があります。バネ指と同様、手を使う仕事に多く見られます。
【痛む場所】親指、人差し指、中指、薬指の一部に、ズキズキとした痛みやしびれが出ます。夜間や朝方に痛み、そのために目が覚める人もいます。
【悪化すると】親指の筋肉が萎縮して、物をつまむ動作がよくできなくなります。
関節リウマチ
【原因】免疫が自分自身の組織を攻撃することで起こる、自己免疫疾患です。
【痛む場所】指の第2関節に痛みや腫れが起こるのが、最も典型的です。たいていは、いくつもの関節で起こります。
【悪化すると】炎症が悪化すると、骨や軟骨組織が破壊されていきます。
関節リウマチかどうかの見極めが非常に重要!
いずれの疾患であっても、症状が現れたとき、ご自分の症状がどの病気によるのかをきちんと見定め、適切な治療法を選ぶことが重要です。まずは、どのような症状なのかを見極めましょう。
チェック項目としては、以下のようなものがあります。
●その症状は、いつから始まったか。
●常時痛むのか、一時的なのか。一時的なのであれば、いつどんなときに痛むか。1日のうちで痛む頻度はどのくらいか?
●寝ているときや、安静にしているときに痛むか。
●手指のどの部分が、どのように痛むか。
●痛む部分に腫れや赤み、関節の変形など、見た目の変化があるか。
できれば、自分の症状を箇条書きにして、書き出しておくといいでしょう。そのメモを持って、整形外科や専門医の診察を受けることをお勧めします。
先にお話しした、各症状の特徴を目安に、ある程度の病気の目星をつけることができますが、患者さんが誰にも頼らずに自己判断してしまうと、危険も多いのです。
指の第2関節の痛みは、関節リウマチによっても、ブシャール結節によっても起こります(関節リウマチは第1関節には起こりません)。もし、関節リウマチが疑われたら、血液検査など必要とされる検査を行って、リウマチかどうかを見極める必要があります。
例えば、手のしびれは、手根管症候群だけではなく、頸椎(首の部分の背骨)の障害や脳梗塞など、脳に問題があっても起こります。ですから、必ず医師の診断を受け、ご自分の症状がなんの病気によって起こっているのか確認してください。
もし、関節リウマチとわかったら、それに適した治療をすぐに受けることになります。
それ以外の病気について、どのように対応することが必要なのかについて、最も患者数が多い「へバーデン結節」を中心にお話ししましょう。
へバーデン結節は、近年、患者さんが目立って増えている病気です。これまでは、「年のせいだから治らない」と考えて治療をあきらめてしまうかたが少なくありませんでした。
しかし、万が一、ヘバーデン結節になっても、決してあきらめずにできるだけ早めに対策を講じましょう。最近では、症状の悪化を食い止め、改善させることが可能となっています。
ヘバーデン結節の治療法は、おおよそ三つです。
❶保存療法
❷食事療法
❸手術
へバーデン結節が進行して、関節が変形してしまうと、残念ながら元のように治すことはできません。曲がった指は、手術によって矯正するしかないのです。
私もテーピング療法で痛みが改善した
ですから、関節が変形する前に、できるだけ早い段階で症状の進行を止めることが重要です。
そのために、患者さん自身が取るべき自力療法は、保存療法と食事療法です。どちらも、症状の悪化を防ぐ有効な方法です。
まず、ヘバーデン結節の保存療法で、ぜひ試していただきたいのが患部のテーピングです(下記参照)。
指の関節には、骨と骨の間に軟骨がありクッションの役割を果たしています。ヘバーデン結節になると、この軟骨がすり減って関節が不安定になります。その結果、炎症が起こって痛みや腫れを生じるのです。
そうなると、指を動かせば動かすほど負担が大きくなり、症状が悪化します。できるだけ安静にすることが望ましいのですが、指を全く使わないわけにもいきません。
そこで、特に指に負担がかかる作業をするときには、炎症が起こっている関節をソフトに固定するテーピングがお勧めです。これは、薬局やドラッグストアなどで「手指関節用テーピング」「指サポーター」などの名称で市販されています。
テーピングによって、指の関節の動きをある程度制限するのです。テープを装着したまま、指に負担がかかる日常生活の動作を行ってください。あるいは、厚手の手袋をするのでもいいでしょう。
例えば、庭の草取りのような、指の関節に大きな負担のかかる動きをした場合も、関節そのものにかかる圧力を軽減することができます。
これを毎日続けていると、関節の痛みや腫れが着実に引いてくるのです。多くの場合、3週間ほどで効果が現れるでしょう。
実は、私もヘバーデン結節があります。指に痛みが出たときは、直ちにテーピングをします。すると、3日ほどで痛みがなくなってくるのです。
ヘバーデン結節の症状を緩和する保存療法
テーピング
薬局やドラッグストアなどで「手指関節用テーピング」「指サポーター」などの名称で市販されている製品を購入。炎症が起こっている関節に貼って固定する。装着したまま日常生活の動作を行う。あるいは、厚手の手袋をしてもよい。
次にご紹介するのは、バネ指の症状を緩和する指反らし体操と関節はさみです。
指反らし体操の原則は、「曲がる方向とは逆に指を反らせること」です(下の図参照)。
さらに、関節はさみも行うと効果的です。関節はさみの動きをすることで、腱と神経をまとめている腱鞘を緩めることができるのです。腱鞘が緩めば、その分だけ、腱と神経への圧が少なくなるので、その結果、痛みが軽減されることになります。
バネ指の症状を緩和する自力療法
❶指反らし体操
指を、曲がる方向とは逆に反らせる。
❷関節はさみ
痛みのある指の関節を、反対側の指の腹とつけ根で横から握る。
※(1)、(2)ともに5回を1セットとして、1日に3セットほど行う。
また、食事療法も有効であることがわかってきています。ヘバーデン結節だけではなく、関節リウマチを除く指の疾患は、最初にも触れたように、すべて女性ホルモンと深い関連があります。
そこで、その点を踏まえて、大豆食材をとるなどの工夫をすると、症状を改善させることができるのです(食事療法については別記事を参照)。
ヘバーデン結節やバネ指など、手の指の痛みや腫れの症状でお悩みのかたは、悪化する前に適切な対策を取ることが肝心です。心当たりがあれば、ぜひ早めに整形外科や、専門医を受診することをお勧めします