1年以上も前から騒がれてきた5Gスマートフォンが、ついに導入されます。Gはジェネレーション、世代ですから、今までより進化しているわけです。しかも今回は、アメリカが、中国のファーウェイを締め出すまでして、主権を握りたかった世代でもあります。そんな5Gスマホが、2020年春、日本でも発売になります。どんな特長があるのでしょうか。先日発表されたシャープの5Gスマホ「AQUOS R5G」を例にご紹介します。
「地デジ登場」と似る「5G」。
今から通信は5Gへと移行していきます。5Gの特長は「つながる」「切れない」「高速」です。この課題は、携帯電話ができてからずっと追求されてきた課題で、そういう意味では「目新しく」ありません。しかし、5Gから、クルマの自動運転などが実用化されます。クルマは高速移動体ですから、つながりにくい環境です。でも、それがつながるわけですから、今までとは格段と言うより実際に「使える」規格なわけです。
このためクルマの自動運転を含め、いろいろな技術が、一気に本格導入されます。新時代の「ベースインフラ」です。このため、中国に主導権を取らせてはいけない。それでトランプ大統領は、中国ファーウェイ社を、親の仇のように嫌ったわけです。
「ベースインフラ」変更というと、日本では放送の「地デジ化」がありました。放送がアナログからデジタルに変わった瞬間でした。しかし、思い出してください。頭ではデジタル化は避けられないとした上で、心情的には「本当に必要?」と思った人も多かったと思います。
目新しさがない。キレイな画が見られるのですが、放送内容が変わるわけではありません。確かに、テレビは映像媒体ですから、映像クオリティーが上がるということは、表現力が上がるというスゴいことなのですが、割り切れない人も多かったと思います。
今、5Gスマホが直面しているものと同じです。確かに5Gは素晴らしい。しかし、今の4G、満足度も高い。今すぐ買い替える理由はありません。しかも、5Gスマホ。5G開発費用も少し乗せられます。要するに、4Gで満足しているユーザーにとっては割高なのです。
地デジの場合、政府が税金を使って誤魔化しました(エ●ポイントのことです)。しかし、今回はどうなるのでしょうか?
シャープの考え。
シャープには、他のスマホメーカーと比べ、強みの技術があります。それは、「8K映像に強い」ということです。NHKの8K放送に必要な機材、主にはテレビですが、それを引き受けていましたからね。私も技術発表会などで確認してきましたが、それはスゴいものです。
このため、今、シャープは、次のことを掲げています。
「5G+8KとAIoTで世界を変える」。
2020年は、東京オリンピック開催の予定です。そこで使われる予定の8K放送が、注目されています。しかし、8K放送は、どちらかというと、オーバースペック。放送時間全て、8K放送を流すには、機材、資金も足りません。このため、8K映像は通信配信が本命になるだろうとされています。要するに、必要な所だけ8Kで楽しもうという考えです。これを支えるのが、新しい通信規格、5Gです。
また、5Gは、動画にすこぶる優しい規格です。高速転送レートなので、動画の高容量をものともしません。しかも、どんなところからでもつながります。とっても便利な規格なのです。
これにAIoTを加えるのがシャープの目標です。AIoTとは、AIとIoTを組み合わせたシャープの造語です。簡単には「したいことを自動でサポートしてくれる」と考えればいいかもしれません。
さてシャープは、その考えを、どうスマホに入れ込んだのでしょうか?
「AQOUS R5G」の特徴。
スマホは通信機器です。では、新しい通信規格が出たからといって、それだけで買ってもらえるほど、甘くはありません。理由は簡単。4Gでほぼ満足しているからです。その上、5Gがどこまで体感できるのかが、まだ不明。常にトンネルの中、常にエレベーターの中というのなら話は違うのでしょうが、そんな人はいませんからね。
このため、今のスマホは、高性能カメラを大きな特徴としています。厳しいシャッターチャンスを確実にモノにするには、ちょっと扱い難いのですが、常時持ちのカメラとしては、出色の出来ですね。その上、撮影後とのネットの親和性に関しては抜群ですから、コンデジ(コンパクト・デジカメ)市場は一部の特徴のあるカメラを除き、スマホで用が足りるため壊滅状態になりました。シャープも、そこは重々承知。今までにもカメラに力を入れてきました。
さて、「AQOUS R5G」の目玉機能は、「8Kカメラ」と、「フォーカス再生」です。
どちらかというと「静止画」ではなく「動画」重視。8Kは2K(ハイビジョン)の16倍の情報量があります。つまり16倍拡大してもハイビジョンの画。十分キレイなのです。この特徴を活かすのです。
例えば、学芸会。本当なら、全体を撮るカメラ、子どもを撮るカメラと最低2台欲しいのが人情。しかし、今は無理でしょうね。場所取りは、もめ事の種になります。
しかし、8Kムービーが自在に使えると話が変わります。拡大してもキレイに見ることができるのです。つまり全景の画さえあれば、子どものアップを作り出すことができるのです。それを自動的にしてくれるのが、「フォーカス再生」。しかも今の時代、AIが自動追尾してくれます。我が子に一度セットすると、我が子をずっとフォーカスしてくれるわけです。
そして、ネットとの親和性もいい。で、この大容量データをしっかり受け止めるのが、5Gというわけです。シャープの「5G+8KとAIoTで世界を変える」というのが活かされているわけです。
「新たな映像体験の始まりだぁ!」と、スマホなのに、AV機器のようなトークです。
最後に。
シャープの5Gスマホ、「AQUOS R5G」は、確かに新しい魅力があります。
しかし、価格との折り合いがあります。地デジのテレビは、その折り合いがつかず、エ●ポイントという税金を使って政府が何とかしました。もし安値が出ないなら、普及は地デジに似て、なかなか進まない。
スマホは、テレビのように寿命が10年以上とかはありませんので、普及は断然早い。しかし今回、こぞってみんなが手を伸ばすのか、というとそうではないと思います。特に現在、消費増税とコロナウイルスで市場は冷えています。確かに5Gは新しいのですが、一番乗りをする必要性が余りないです。特にお金のない若い人は、値崩れが始まる4Gの型落ちを買うでしょうね。だって、十分使えるのですから。
私が自分のスマホを5G化するなら、1〜2年後。新しい規格対応というのは気分がいいものですが、より5Gを活かしたサービスが出てからだと思います。
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京歴史散歩とラーメンの食べ歩き。