自律神経のバランスが整っていれば、腸内環境も良好に保たれ、便秘や下痢、ガス腹などの不調とは無縁でいられます。バランスを整えるには、男性は30歳、女性は40歳を過ぎたあたりから急降下する、副交感神経のレベルを上げることが重要なのです。【解説】小林弘幸(順天堂大学医学部教授)
解説者のプロフィール
小林弘幸(こばやし・ひろゆき)
順天堂大学医学部教授。自律神経研究の第一人者として、トップアスリートや文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも携わる。順天堂大学で日本初の便秘外来を開設。『医者が考案した「長生きみそ汁」』(アスコム)など、自律神経や腸に関する著書多数。
副交感神経のレベルを上げることが重要
皆さんも、「自律神経」という言葉を耳にする機会が増えてきたのではないでしょうか。今回は、腸を動かし、自律神経を整えるストレッチをご紹介します。
自律神経は、私たちが生命を維持するために、内臓や血管、ホルモン分泌などを、意志とは関係なく調整しています。心拍や血圧、呼吸、排泄、発汗、睡眠などにも、自律神経がかかわっています。
例えば、寒いときに、鳥肌が立ってガタガタ震えることがあるでしょう。これは、自律神経が毛穴を収縮させて、体を動かすことで、体温の低下を防いでいるのです。
自律神経は、心身を活動モードに調整する交感神経と、休息モードに導く副交感神経の二つが、バランスを取り合って働いています。
自律神経のバランスには個人差がありますが、多忙で時間に追われる現代人に多いのは、「交感神経が高く、副交感神経が低いタイプ」です。
また、副交感神経の働きは、加齢とともに低下します。交感神経の機能は生涯あまり変わりませんが、副交感神経は、男性は30歳、女性は40歳を過ぎたあたりから急降下します。
つまり、自律神経のバランスを整えるには、副交感神経のレベルを上げることが重要なのです。
コリや冷えが改善!頭がスッキリ!
副交感神経の機能を上げる方法はいくつかありますが、私が皆さんにお勧めしたいのは、「腸」からのアプローチです。
近年、腸は単なる消化器官ではなく、自律神経と連携しながら、私たちの心身をつかさどる臓器として注目されています。
腸は、脳からの指令を受けなくても、自律神経によって自発的に働いています。腸が「第二の脳」といわれるゆえんです。
消化器の働きは、副交感神経が支配しています。便秘に悩む日本人が1000万人以上というのは、副交感神経の機能低下と無関係ではないでしょう。
自律神経のバランスが整っていれば、腸内環境も良好に保たれ、便秘や下痢、ガス腹などの不調とは無縁でいられます。逆もまた然りで、腸が健康なら、自律神経も正常に働きます。
ここでは、私が多くの患者さんに勧めて効果的だった「腸ストレッチ」をご紹介します(やり方は下項参照)。
腸を直接的に動かすので、便秘やガス腹への効果を実感しやすいようです。腸が正常に動くようになると、副交感神経の働きが高まり、自律神経が整います。
背中や胸、おなか、お尻など、大きな筋肉も刺激されるので、血流がアップし、コリや冷えの改善にも役立ちます。
また、「イライラする」「憂うつな気分から抜け出せない」といった心の不調も、自律神経と無関係ではありません。「腸ストレッチを行うと、頭がスッキリする」という声も聞かれます。ストレスを感じたときなどにも行うといいでしょう。
腸の不調のみならず、心身の根幹を担う自律神経を整えるストレッチです。ぜひ習慣にしてください。
自律神経が整う 「腸ストレッチ」のやり方
❷息を吐きながら上半身を右へゆっくりと倒す。左側のわき腹が伸びるのを感じながら、そのまま自然な呼吸を数回くり返す。
❹息を吐きながら上半身を左へゆっくり倒し、そのまま自然な呼吸を数回くり返す。上半身を起こし、(1)の姿勢に戻る。
❶足を肩幅に開いて立ち、腕を上げ、手首を交差させて両手のひらを合わせる。息を吸いながら、肩甲骨を寄せるようにして、手を上に伸ばす。
*手のひらを合わせるのが難しければ、手首を交差させるだけでもよい。
❸ゆっくりと上半身を起こし、(1)の姿勢に戻る。再び息を吸いながら、肩甲骨を寄せるようにして、手を上に伸ばす。
❺息を吸いながら手を上に伸ばし、吐きながら上半身を前に倒す。背中はまっすぐのまま、倒せるところまで倒す。そのまま自然な呼吸を数回くり返す。上半身を起こし、(1)の姿勢に戻る。
*1日1回以上、気持ちよく感じる程度に行う。