欧米の文化の華の一つがオペラ。歌劇です。劇と音楽の融合した総合芸術です。日本公演の場合、S席だと3、4万円が当たり前。高いと思いますか?オペラが高額な理由は、関わる膨大なスタッフの人数にあります。しかも、それぞれが超一流の芸術家なのです。実は興味はあるけども、縁遠いと思っている人も多いのではないでしょうか?しかし、無料で観られるオペラがあるのです。ちょっと覗いてみましょう。
オペラの懐事情
オペラを含むクラシックは、秋から初夏がシーズンです。まあ、最近では夏に行われる音楽祭でのオペラ上演も盛んですが。それはさておき、今回この公演が、コロナ禍の影響を受けて中断する羽目に…。当然、関係者はパニックになりました。
そもそもクラシックはお金がかかるものです。
例えばオーケストラ。団員と指揮者、関係者が、これで食べていかなければいけません。だいたい100人以上います。劇場は、収容人数が限られます。ポピュラーと違ってマイクを使いませんから、劇場の大きさは、音が響く範囲が限界です。(クラシックは劇場もお金がかかっています。)
オペラは舞台がありますので、これ以上に金喰い虫と言えます。その上、主役クラスになると国際的なステータスがあります。かの20世記最高の歌姫と称えられたマリア・カラスと付き合っていたのは、海運王オナシス。桁が違うのがおわかりでしょう。
クラシックはコロナ禍をどう乗り越えるか
それはさておき、色々すごいんだけど儲からないのがクラシック。国も補助金を出します。某国の歌舞伎役者が、オレは人間国宝で60歳まで2億円もらえると言っていたそうですが、そんなバカなことはない。人間国宝は年間200万円だそうです。オペラも同じ、補助金出てもお金がないのが現実です。
では、クラシックがどうやって利益を出すかというと、音楽を売るのです。具体的には、CD・DVD販売や配信。昔はレコード会社が、CD販売などを手がけてましたが、今、有名な楽団は、独自の記録システムを持ちCD販売、音楽配信をしています。
ベルリンフィルのデジタルコンサートホールは有名。1ヵ月14.9ユーロで、ベルリンフィルの音楽が楽しめます。音もテレビの音とは一線を画す本格的なモノ。音楽用のスピーカーに繋いで堪能したいものです。無料配信されるイースターフェスティバルは特にお得なのでチェックしてみてください。
今は非常時なので、ベルリンフィルは、当然お客様を入れられません。そこで彼らは無観客コンサートを行い配信しています。
アナログ時代と違いデジタル時代の良さは、つながっていること。日頃、「音楽こそパワーだ」と言う言葉を口にする人はいますが、こんな時だからこそ、自分たちが出来ることしているベルリンフィルに、はっきりとした意志を感じますね。
ちなみに、録音録画には、パナソニックが関与しており、このような状態でも頑張っているんだろうと思います。
現代に蘇るオペラの魅力
長い歴史のあるオペラですが、日本でいう歌舞伎に近いのかというと、そんなことはありません。古くないのです。
オペラは、ここまで4つの時代を経てきています。古い順に、「作曲家」時代、「歌手」時代、「指揮者」時代、「演出家」時代です。
作曲された当時は、作曲家の時代です。人気作曲家プッチーニの新作だよ、ということでみんな観に行くわけです。
しばらくして演目が世に馴染むと、次は歌手の時代です。誰々が歌うよということで観に行きます。前述のマリア・カラスなどが典型例です。オペラ歌手はマイクを使いません。このため体が大きい方が声量も豊かということで、当時の歌手はビヤ樽、いや失礼、恰幅のいい人が多かった。歌はすごいのだけど、劇としては妙な感じ。例えば、病で死にゆくヒロイン。やせ細り、今にも倒れんばかりのヒロイン役を100kgもあろうかという大女が歌うわけですから、そりゃあ違和感も出るわけです。
そこで来たのが指揮者の時代。有名なのは、帝王と呼ばれたかのヘルベルト・フォン・カラヤン。歌もさながら容姿にも優れた歌手をピックアップして、自分の美意識のままに演奏したわけです。豪華絢爛、見事に美しい。が、それだけなのです。19世紀の作品を、19世紀のイメージで上演するので、感情移入がしにくかった。
現在は、演出家の時代です。曲、ストーリーは変えませんが、背景や事情などを変えて、感情移入しやすい現代ものとして蘇らせるわけです。これは面白い知的ゲームのようなもので、同じ演目でも全く違うドラマとして楽しめます。初めての人はそれなりに、マニアの人はより深く楽しめます。
新国立劇場の「巣ごもりシアター」とは
さて、日本のオペラに目を向けましょう。日本のオペラの中心地は、新宿の隣、京王線の初台にある新国立劇場。新型コロナウイルスの影響で5月31日までの主催公演を全て中止していることに伴い、新国立劇場開場以来初めて、公演記録映像のインターネット無料配信を開始しました。
理由は「再び安心して劇場にご来場いただける日が訪れるまで、舞台芸術の力を支えに”巣ごもり”していただきたい」との願いからです。
逆に、これまでに貴重な映像が死蔵されてきたと、批判も出そうです。こちらに関しては、いろいろな理由があるとは思いますが、不要な情報も含めて、現代にはいろいろな情報が流れているわけですから、世界最高だろうが、総合芸術だろうが、表に出さなければ継続すらできなくなってしまいますからね。
それはさておき、この「巣ごもりシアター」ですが、観てみますと映像、音楽ともにクリア。ここら辺は、ハイテクジャパンの面目躍如、と言いたいのですが、前述のベルリン・フィルのデジタルコンサートホールまでの音にはなっていませんね。通常配信よりは、かなりいいレベルです。
今、配信されているのは、イタリアの巨匠プッチーニの遺作『トゥーランドット』。中国を題材にしたオペラです。人気の高い作品ですが、中でも名アリア「誰も寝てはならぬ。」を知らない人はいないでしょう。オペラを知らない人も、トリノ五輪フィギュアスケートのメダリスト荒川静香が舞ったあの曲というと、お分りいただけると思います。演出はバルセロナ五輪開会式の伝説的な演出で名高いアレックス・オリエ。こちらも五輪つながりです。
オペラは総合芸術と言われる通り、後になって山ほど知りたいことが出てきます。そう言う意味でも、自由時間を持ちやすい今は絶好のオペラ日和と言えます。どうでしょうか。興味を持たれている方はぜひアクセスを。
「巣ごもりシアター」配信ラインアップ&スケジュール
プッチーニ『トゥーランドット』
配信日程:4月17日(金)15:00~4月24日(金)14:00
■巣ごもりシアター『トゥーランドット』視聴ページはこちら
【指揮】大野和士 【演出】アレックス・オリエ
【出演】イレーネ・テオリン、 テオドール・イリンカイ、 中村恵理、 リッカルド・ザネッラート ほか
【合唱】新国立劇場合唱団、 藤原歌劇団合唱部、 びわ湖ホール声楽アンサンブル
【児童合唱】TOKYO FM少年合唱団
【管弦楽】バルセロナ交響楽団
【制作】新国立劇場/東京文化会館(2019年7月20日上演)
チャイコフスキー『エウゲニ・オネーギン』
配信日程:4月24日(金)15:00~5月1日(金)14:00
【指揮】大野和士 演出:アレックス・オリエ
【出演】イレーネ・テオリン、テオドール・イリンカイ、中村恵理、リッカルド・ザネッラート ほか
【合唱】新国立劇場合唱団、藤原歌劇団合唱部、びわ湖ホール声楽アンサンブル、TOKYO FM 少年合唱団
【管弦楽】バルセロナ交響楽団
【制作】新国⽴劇場/東京⽂化会館
◆多賀一晃(生活家電.com主宰)
企画とユーザーをつなぐ商品企画コンサルティング、ポップ-アップ・プランニング・オフィス代表。また米・食味鑑定士の資格を所有。オーディオ・ビデオ関連の開発経験があり、理論的だけでなく、官能評価も得意。趣味は、東京散歩とラーメンの食べ歩き。