皆さんはツボに対して、どんなイメージを持っていますか?「ツボを見つけるのは難しい」「ツボ刺激はプロの仕事」と思っている人が多いかもしれません。しかし、実際のツボ刺激は、とても簡単でとても大らか。2000年以上の歴史があるのに、今でも次々と新しいツボが見つかっているといいます。日々患者さんを治療する一方で、鍼灸師養成のために大学で教鞭を執る内田輝和先生に、ツボの歴史と現代における役割について、お話を伺いました。
【解説】内田輝和(倉敷芸術科学大学生命科学部健康学科客員教授・鍼メディカルうちだ院長)

解説者のプロフィール

画像: 解説者のプロフィール

内田輝和(うちだ・てるかず)

1949年、岡山県生まれ。70年、関西鍼灸柔整専門学校卒業。74年、鍼メディカルうちだ開業。79年、岡山大学医学部麻酔蘇生学教室東洋医学研究班入局。87年、関西鍼灸短期大学非常勤講師として東洋医学を担当。95年、鍼メディカルうちだ東京治療院開業。2013年、倉敷芸術科学大学生命科学部健康医療学科教授に就任。現在は同大学客員教授。岡山県鍼灸師会会長。岡山県武術太極拳連盟会長。
▼鍼メディカルうちだ(公式サイト)
▼岡山県鍼灸師会(公式サイト)

ツボとは何か

WHOが治療効果を認めている

私は2013年4月から、倉敷芸術科学大学で学生たちに鍼灸を教えています。今回は、私が学生に話している内容も含め、「ツボとは何か」をわかりやすく説明したいと思います。

鍼を打ったり灸をすえたりするポイントを、「ツボ」といいます。これは皆さんもご存じでしょう。しかし、「経絡」や「気」となると、今ひとつ理解が難しいかもしれません。

ツボは、正式には経穴(けいけつ)といいます。経験的な知見によって見出され、体系化されて、人々の生活や健康を支えてきました。現在では、WHO(世界保健機関)でも、361個のツボがその治療効果を認められています。ツボはいまや、非科学的な民間療法ではないのです。

「経絡」はエネルギーの通り道

東洋医学では、人間の生命活動を支えるのは「気」「血」「水」の三つの要素であると考えられています。

気は、体を動かすエネルギー源です。血は、食品からとり入れた栄養素を体の隅々へ運ぶ働きを担い、水は全身に潤いを与えるとともに、体温や代謝を調節しています。

なかでも気は、血や水にも影響を与えるため、特に重要とされているのです。

経絡は、いわば気の通り道です。全部で20本あり、メインとなる12本の経絡は「正経十二経脈」と呼ばれています。残りの8本は「奇経八脈」といい、メインの経絡に気が満ちてあふれると、奇経八脈に流れ込みます。川の氾濫を防ぐ側溝と考えると、わかりやすいでしょう。

そして、その経絡上で気がたまっている場所がツボなのです。

奇経八脈のうち、督脈と任脈にはツボがあるので、正経十二経脈とともに、全身図などに記載されます。ツボのない残りの6本の経絡は、メインの経絡どうしを結ぶ橋渡しのような役割をしています。

画像: 「経絡」はエネルギーの通り道

「気」は新幹線、「経絡」は線路、「ツボ」は駅

気も経絡も、目に見えないのでわかりにくいですね。身近なものにたとえてみましょう。

新幹線を思い浮かべてください。日本各地を走る新幹線を気、新幹線が走る線路を経絡、線路上に点在する東京や名古屋、新大阪などの駅をツボと置き換えます。

線路上でトラブルが起こって新幹線の運行に支障が出ると、後方を走っている新幹線や在来線など、さまざまな方面に影響が及びます。同様に、気がうまく流れないと、痛みや腫れ、不快症状などが発生します。鉄道にトラブルが発生したときは、駅に新幹線を止めて、ダイヤの乱れを調節します。東洋医学では、ツボを刺激することによって気の乱れを整え、体の不調を取り除くのです。

画像: 「気」は新幹線、「経絡」は線路、「ツボ」は駅

ツボの歴史

人体は自然の一部

ツボは、今から2000年以上前、中国の黄河流域で発祥したといわれます。そもそもツボ療法は、最初から位置や効果が決まっていたわけではありません。体に不調があるときに、体の一部を押したりもんだりしていたら改善した——そんな偶然が重なり、位置や効果が少しずつ明らかになってきたといわれています。古人の経験や、当時の鍼灸師たちの臨床の積み重ねによって、ツボは現代へと受け継がれてきたのです。目に見えないものを後世へ伝えることは、簡単ではなかったでしょう。

当時は、植物や鉱物を用いて傷を治したり、熱を取ったりしていました。ですから、ツボをはじめとする東洋医学の思想は、自然と強く結びついています

「陰陽五行説」という言葉を耳にしたことはありませんか? 陰陽五行説は、古代中国で生まれた自然哲学です。この世のすべてのものは、「木」「火」「土」「金」「水」の五つの要素(五行)からなり、陰と陽の二面性を持ち合わせているという考え方で、人体もこの思想のもとに成り立ち、自然の一部であるとされます。

「五臓六腑(ごぞうろっぷ)」という言葉を耳にしたことがあるでしょう。五臓六腑とは、東洋医学において、人間の内臓を表すときに用いられます。「五臓」は、肝・心・脾・肺・腎、「六腑」は、胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦(該当臓器のない三焦を除いて五腑とする場合もある)を指します。五臓と五腑は、「木」「火」「土」「金」「水」に配当され、それぞれの役割や関係が決められているのです。

画像: 人体は自然の一部

新しいツボが次々と発見されている

現在、WHOではツボの数を361個としていますが、これがすべてではありません。ほかにも、鍼灸師たちの治療経験をもとに、新しいツボが次々と発見されています。名称や部位、効果が定められた「奇穴(きけつ)」や、名称や部位は決まっていないものの、ある症状に対しピンポイントに効果を発揮する「阿是穴(あぜけつ)」などです。今後もツボの数は増えていくことでしょう。私自身、鍼灸治療を行うなかで、数々の新しいツボを見つけてきました。

大学でも、2013年の夏休みに「新たなツボを発見する」という宿題を出したところ、今後、研究・臨床を重ねる価値のあるツボを見つけ出した学生がいました。

皆さんも、体のどこかが痛いとき、無意識に触れたり、さすったりたたいたりする場所はありませんか? そこは、あなたにとってのツボといってもいいでしょう。ツボには2000年以上の歴史がありますが、かっちり決まっているわけではなく、柔軟で、オーダーメードの要素が濃いものなのです。 

現代社会におけるツボの役割

ツボ治療を取り入れる医療機関も 

現在、ツボは鍼灸治療に用いられ、人々の健康を支えています。私の治療院にも、さまざまな医療機関を回っても症状が改善せず、最後のたのみの綱として鍼灸治療を選択されるかたが多くいらっしゃいます。

ツボは、西洋医学の外科手術のように、患部を取り除いたり、傷口を縫い合わせたり、という救急医療的なことはできません。基本的には、人間の体に備わっている「自然治癒力」を高めることで、症状を少しずつ緩和していくというしくみです。

しかし、例えば、「人込みで急に出始めたセキを止めたい」とか「イライラした気分や不安な気持ちを鎮めたい」というときに、ツボ刺激が奏功するケースがあります。

東日本大震災のときにも、ツボは活躍したと聞いています。ツボ刺激の長所は、「いつでもどこでも一人でもできる」ということです。もちろん、体調不良は医療機関を受診し、適切な治療を受けることが最優先ですが、ツボの位置を覚えていれば、とりあえずの対処に役立つでしょう。

最近では、通常の西洋医学に加えて、ツボ治療を取り入れる医療機関もふえています。手術前にツボ刺激を行うことで出血量を抑えることができたり、回復が早くなったりすることもあるそうです。

ツボ押しで体調管理

ツボを押すと、その刺激は経絡を通っていったん脳へ達し、脳からまた経絡に沿って臓器や患部へと伝わります。

脳に近い頭や耳、顔などのツボは、刺激が伝わりやすいために効果が高く、「万能のツボ」と呼ばれるものが多く存在します。また、神経が集中している手先や足先も、脳への刺激が伝わりやすいので、優秀なツボがたくさんあります。

また、私たちは体内の臓器を直接見ることができませんが、臓器と経絡でつながっているツボを押すことで、臓器の調子を読み取ることができます。ツボを押したときの痛みが強ければ、臓器が弱っていたり、不調だったりということがわかるのです。慣れてくれば、その日の体調をツボから読み取れるようになるでしょう。

病気になってから治療するよりも、病気にならないことのほうが大切です。ツボ押しが皆さんの健康管理の一助になれば、治療家としても教育者としても、これ以上の喜びはありません。

なお、本稿は『大学教授が教える本当に効くツボ』(マキノ出版)から一部を抜粋・加筆して掲載しています。

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