シトルリンによって末梢血管の血流が改善すれば、高血圧や狭心症、血流不全によって生じるむくみや冷えの改善効果も期待できるでしょう。運動のパフォーマンスを上げることから、プロテインの成分としても注目されています。【解説】木村和哲(名古屋市立大学病院薬剤部長・医学博士)
解説者のプロフィール
木村和哲(きむら・かずのり)
名古屋市立大学病院薬剤部長。名古屋市立大学大学院医学研究科教授。医学博士。1980年名古屋市立大学卒業後、薬剤部や腎センターといった現場を経て、2004年医学博士号を取得。現在は、臨床と研究の両方を手がけつつ、後進の育成にも力を入れている。
シトルリンとEDの関係
アルギニンでは効果がなかった!
シトルリンは、キュウリやスイカといったウリ科の食物に多く含まれる成分で、アミノ酸の一種です。昨今、特にシトルリンとED(勃起不全)の研究から、多くの健康効果がわかってきたので、ご紹介します。
まず、勃起が起こるしくみについて、その一例を簡単に説明しましょう。性的な興奮を促す刺激を受けると、脳の中枢神経が興奮し、その情報が脊髄神経を通って陰茎へと伝わります。
すると、神経や血管から一酸化窒素(NO)という血管拡張作用があるガスが作られます。このガスが放出されると、海綿体(ペニスの内部にあるスポンジ状の組織)に多量の血が一気に流れ込みます。これによって、組織が膨張し、勃起が起こるというのが一連の流れです。
神経と血管のどちらか、もしくはその両方が正常に働かなくなると、海綿体に十分な血液が流れ込みません。これがいわゆるEDです。
そのため、陰茎に血液を送る動脈の硬化が進むと、血管が詰まることによってEDが起こります。糖尿病や高血圧、脂質異常症、心血管障害などがあると、全身に進行しつつある動脈硬化の前触れとして、EDが起こることも少なくありません。
1990年代以降、このNOの血管拡張作用が知られるようになり、多くの研究が行われました。そこで、まず着目されたのが、シトルリンとも関連の深いアルギニンでした。
アルギニンも、アミノ酸の一種で、NOの材料にもなります。そこで、アルギニンを多量に摂取すれば、EDも改善するのではないかという仮説のもとに実験が行われました。
ところが、仮説どおりにはいきませんでした。アルギニンを多量に摂取しても、EDに対しての効果は確認できなかったのです。
アルギニンのかわりに「シトルリン」に着目
骨盤内の血流がよくなり膀胱の機能が改善!
そこで、アルギニンのかわりに着目されたのが、シトルリンでした。
シトルリンは、体内に取り入れられると、腎臓でアルギニンに変換されます。一方、アルギニンを体内に取り入れても、腸内細菌で代謝されたり、酵素によって肝臓で大部分が代謝されたりしてしまいます。
つまり、シトルリンを摂取したほうが、NOの材料となるアルギニンを効率的に活用できることがわかったのです。
私たちは、動脈をしばって血流を低下させたEDマウスと、睾丸をとってテストステロン(男性ホルモンの一種)を低下させたEDマウスに、シトルリンを与える実験を行いました。すると、その両方の病態でともにNOが産生され、血流が改善し、EDも改善することが確かめられました。
続いて、ヒトを対象にした臨床研究も行いました。前立腺肥大症に伴う排尿障害治療のために、ザルティアという薬を飲んでいる患者さんたちに協力してもらった実験です。ザルティアは、前立腺治療に使われる薬であると同時に、ED改善薬でもある薬です。
協力者のうち、半分はザルティア+シトルリンを、残りの半分はザルティア+有効成分のない偽薬を飲んでもらいました。すると、残念なことに、EDに関しては有意な差は認められませんでしたが、シトルリンをプラスして飲んだグループは、膀胱機能が改善し、排尿障害などの改善が見られました。
シトルリンの作用で、NOが増え、骨盤内の末梢血管の血流が改善したのでしょう。それが、頻尿や過活動膀胱の正常化という効果をもたらしたと考えられます。
ヒトのEDに関しては、動脈硬化だけでなく、心因性EDや薬剤性EDなど、複数の要因がからんでいる点で難しいといったところでしょうか。
シトルリンがもたらす、NOの末梢血管の拡張作用には、ほかにも健康効果をもたらすことが期待できます。
2014年のアメリカの高血圧学会に発表された研究では、シトルリンを豊富に含むスイカのパウダーを飲むことで、高血圧患者に降圧効果があったと報告されています。同様に、血流改善という点からは、狭心症などのかたにもよい影響があると考えられます。
シトルリンによって末梢血管の血流が改善すれば、血流不全によって生じるむくみや冷えの改善効果も期待できるでしょう。
また、シトルリンの効果として、運動によって生じる乳酸やアンモニアなどの副産物を早く除去するという点も挙げられます。運動のパフォーマンスを上げることから、プロテインの成分としても注目されています。
シトルリンは、このように多くの健康効果が期待できる成分です。ED改善に限らず、健康維持のためにうまく取り入れてみてはいかがでしょうか。
この記事は『壮快』2020年6月号に掲載されています。