筋肉にはセンサーの役割をする「筋紡錘」と「腱紡錘」という二つの器官がついています。血行不良や筋肉疲労、神経の圧迫、ミネラルバランスのくずれなどでこのセンサーが誤作動を起こし、筋肉の異常な収縮が続いて起こるのが、あのこむら返りの激痛です。【解説】久手堅司(せたがや内科・神経内科クリニック院長)
解説者のプロフィール
久手堅司(くでけん・つかさ)
脳神経内科専門医、総合内科専門医、頭痛専門医、脳卒中専門医。医学博士。2013年8月、東京・二子玉川に「せたがや内科・神経内科クリニック」を開院。天候と不調の関係に注目した「寒暖差疲労外来」「気象病・天気病外来」の他、「自律神経失調症外来」「頭痛外来」などの特殊外来を立ち上げている。著書に『最高のパフォーマンスを引き出す自律神経の調え方』(クロスメディアパブリッシング)がある。
血行不良や筋肉の疲れがこむら返りを引き起こす
こむら返りとは、足のふくらはぎ(=こむら)が硬直し、筋肉がひっくり返ったような激痛が起こる症状のことです。こむら返りよりも、「足がつる」という言葉の方が、なじみ深い人も多いかと思います。
医学的には、「有痛性筋けいれん」と呼ばれ、ふくらはぎだけでなく、足の指や側面、手などでも起こることがあります。
こむら返りといえば、突然やってくる強烈な痛み。これは、ふくらはぎにある腓腹筋という筋肉が、ギューッと思いきり縮むことで起こっています。
では、なぜこむら返りが起こるのでしょうか。その説明をするためには、筋肉の動きを知る必要があります。
筋肉は、脳からの指令によって伸縮しています。しかし、この伸び縮みが過剰だと、筋肉を傷める原因となります。
そのようなトラブルを防ぐために、筋肉にはセンサーの役割をする「筋紡錘(きんぼうすい)」と「腱紡錘(けんぼうすい)」という、二つの器官がついています。これらもまた、脳が動きをコントロールしています。
ところが、このセンサーは、ときどき誤作動を起こすのです。すると、筋肉の異常な収縮が続いたまま、しばらく元に戻らなくなってしまいます。
そうして起こるのが、あのこむら返りの激痛です。
センサーが誤作動を起こす原因は、血行不良や筋肉疲労、神経の圧迫、ミネラルバランスのくずれなどさまざま。これらが重なり、こむら返りを引き起こすことも多くあります。
例えば、きつめの運動をした後。一般的には、運動直後やその日の夜に、こむら返りを起こす人が多いといわれています。
この場合は、筋肉疲労や、発汗によるミネラルバランスのくずれなどが原因で、筋肉がうまく伸び縮みできなくなっていると考えられます。
あおむけで寝る人はこむら返りのリスク大!
こむら返りが起こりやすいのは、50代以降の方。これは、加齢とともに運動する機会が減り、筋肉量が減ることが関係しています。
筋肉が減って細くなると、それとともに血流が悪くなります。その結果、乳酸などの疲労物質がたまり、筋肉のセンサーが暴走しやすくなるのです。
中でも注意したいのは、睡眠中。寝ているときは、体がほとんど動かないため、血行がますます悪くなりがちです。
さらに、寝汗をかくことで、ミネラルバランスもくずれやすくなります。
特に、あおむけで寝ている人は要注意。足の爪先が伸び、ふくらはぎが縮んだ状態で寝返りを打つと、筋肉を急に刺激することになります。それが引き金となって、こむら返りが起こるリスクも高まるのです。
こむら返りの他に症状がある場合は要注意
こむら返りは、痛みこそ強烈ですが、しばらくすると自然に治まります。こむら返りの回数が増えても、それ以外の症状がなければ、ほとんどの場合、大きな病気の心配はありません。
しかし、こむら返りの回数の増加以外に、気になる症状が出てきた場合は、注意が必要です。そこには、何らかの病気が隠れているかもしれません。
(1) 糖尿病
糖尿病が進行すると、末梢神経がダメージを受け、こむら返りが増えることがあります。のどの渇きや疲労感を感じる、尿の回数・量の増加などがあれば、注意が必要です。
(2) 脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症は、背骨内部の神経の通り道が狭くなり、神経が圧迫されて、痛みやしびれが出る病気です。こむら返りの回数の増加の他に、腰痛や足のしびれなどが出てきたら、要注意です。
(3) 心臓病
心臓の疾患があると、血行が悪くなるため、こむら返りが起こりやすくなります。その他に、少し動いただけで息が上がる、血圧が高くなってきたなどの症状が見られます。
(4) 腎臓病
腎臓の疾患の場合、ミネラルバランスがくずれやすくなるため、こむら返りが起こる可能性も高くなります。むくみや尿の量・回数の減少も見られる場合、腎臓が弱っているかもしれません。
(5) 脳梗塞
脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる病気)が疑われる場合は、最も注意が必要です。血栓(血液の塊)で脳の血管が詰まると、片方の手足のしびれ以外に、こむら返りが起こることがあります。
こむら返りの他に、手足が動かしにくい、言葉が出てこないなどの症状が、瞬間的にでもあれば、急いで病院を受診してください。
こむら返りが起こりやすくなる病気は、他にもあります。少しでも気になることがあれば、病院を受診して、少しでも早い発見に努めましょう。
■この記事は『安心』2020年7月号に掲載されています。